第18羽
―――ああ……『お礼』って、何だろう………。
昨日は帰ってからまた妄想を広げてしまった。
ほ、本当に見返りなんて期待してやったんじゃないからねっ! 辛そうだった空くんが心配で、ただ、それだけだったんだから……。
でも、お休みの日に空くんと会えるなんて、これはまさに『天国へのチケット』だね。 今、一枚持ってるんだぁ、私……うふ、うふふふ。
―――はっ……そろそろ空くんが
今朝も私の大好物の “モーニングスマイル” を拝見させて――――き、来たっ………!
「おはよう真尋ちゃん」
「……おはよう、空くん」
………本日も、ごちそうさまでした。
「いつも早いよね、偉いなぁ」
「わ、私、朝だけは強いから」
高校からですが……。
きっかけはともかく、ここまで毎日続けば大したものだと自分でも思う。 恋のチカラは偉大だね、な、なんちゃって……。
朝の挨拶も終わり、私はいつ空くんからお誘いの声がかかるかとそわそわしていた……ら……。
「あ……」
空くんは荷物を置くと、私を置いてすぐに歩いて行ってしまった。
も、もう行ってしまうの? ちょっと素っ気ないんじゃ………。
縋るような目で空くんを追うと、その行き先は意外にも――――別府さんだった。
なんで? 昨日は私達と勉強していたし、行くなら加藤さんか常盤くんの所じゃないの? なんで別府さんの所に?
彼女は携帯を見ていて、後ろにいる空くんに気付いていない様子。
「海弥」
「――わぁっ!?」
空くんに後ろから声をかけられた別府さんが悲鳴を上げる。………私の知っている彼女のキャラじゃない、 “女の子” の悲鳴だ。
「趣味が悪いね、そんなに僕の謝罪動画が楽しい?」
「そ、そんなんじゃないって……! ちょっと……見てただけで……」
―――ねぇ。 なんなの? なんで別府さんはいつも知らない間に空くんと近付いているの?
今、 “動画” って言ったよね。 別府さんは空くんの動画を持っているの? どうやって? 天使の有料サイト? 何らかのお布施ですか?
………昨日は私達と一緒だったのに……私と駅で、バイバイしたのに………。
「な、何しに来たんだよ」
「改めて今日、海弥にも謝ろうと思ったんだけどね」
なに? 何を話してるの?
周りの会話が増えてきて良く聴こえない……。
「やめた」
「な、なんでよ」
「大分楽しんでもらえてるようだから、もう十分でしょ?」
「あ、甘ったれのクセに……っ!」
ええと――――なにアレ?
なにイチャイチャしてるのっ?! あんなフランクな空くん初めて見るよ?!
お互い揶揄いながら話してるアレ、なんて言うの? そう、 “正統派ラブコメ” 的な……。
あの別府さんのヤンキー気味な髪の色は空くんに合わないと思っていたけど、段々昔の漫画によくある “委員長とヤンキー” がくっつく男女逆バージョンに見えてきたし、身長的にも収まりが良い………。
――だ、ダメダメっ!
こ、こんな時こそ彼の出番だよねっ! 二人の間に入って行って、あの甘酸っぱいやり取りにストップをかける名脇役………
――――常盤くんっ!
って………何してるの? なんか不思議そうな顔で空くん達を見てるけど……。 出番だよ? ねぇ、常盤くーーん………。
◆
空の奴、急に後ろから声をかけないでよね……!
ま、待ち受けは見られてないよねっ? 海来留が両手で空のほっぺた引っ張ってるの、あれがまた―――
「みくるのねーちゃん」
「っ!……つ、つんつん頭」
びっくりした……なんだかよく会う奴だな。
「みくる、元気?」
「ま、まぁね」
元気じゃなかったけど、元気になったよ。
あっ、そうだ、こいつに聞きたいことがあったんだ。
「あのさ、あたしってそんなに、その……空のお母さんに似てるの?」
「………空となんかあったのか?」
「べ、別にないけど……」
だ、抱きつかれたなんて言えないし………。
「なんで照れてんの?」
「て、照れてないっ! そんなのいいから、どうなのよ……」
だって……似てるから、だと思ったけど、そうじゃなかったら………あ、あたしに抱きつきたかったってこと……だし………。
「まぁ、似てるけど」
「……そう」
そうか、そうだよね。 なにをガッカリしてるんだあたしは、バカか。
「笑ってみ?」
「は? な、なんで?」
「空のかーちゃん、いつも笑ってたから」
―――やっぱり、あの時あたしが、笑ったからだ……。
「ほら、笑って」
「で、出来るかそんなのっ!」
苦手なんだよ……! 大体なんにも無いのに笑えるかっ。
「なんだよ、聞いといて」
そ、それはそうだけど……。
……そっか、笑って似てなかったら、あの時も似てなかったって事だ。………よし。
「こ、こう?」
あたしは何とか笑ってみた。―――全力で!
「………似てねぇ」
「――ほ、ホント?!」
似てないんだ……あたしの笑った顔は、空のお母さんに似てない! じゃ、じゃああの時は……
「空のかーちゃん、そんな不自然に笑わねーもん」
「…………」
あたしは渾身の一撃をつんつん頭の腹に打ち込んでやった。 すると、「いてーな、なんなんだよ……」と言って、痛いのか良くわからない、変わらない顔でつんつん頭は去って行った。
結局、なんで空があんな事したのかはわからない。……わからない方がいいかも。
「あ、あの……」
「ん?」
なんだ、今日はよく声をかけられるな。 あたしはそういうの慣れてないんだけど。 今度は誰だよ?
「……ああ、空の腰巾着か」
「ま、まぁそうかな……」
あたしが “約束” を頼んだ細目の奴。 なんか用か?
「灰垣くんから聞いたよ、ちゃんと伝わってなかったみたいで、ごめんね」
「ああ、その事か」
「ちゃんと明日って――」
「別にいいよ」
「え……」
「人任せにしたあたしが悪いし、お陰で今度からは自分でやろうって………いや、やりたいって思えたから。 じゃ」
「あっ……」
自然に笑う………か。 これはちょっと難しいな。
あの時は自然に笑えた、
うーん……空に何で抱きついてきたか聞く――――無理だな。 そんなの…………。
「…………なんだよ」
「キミ、悪い子だね」
「――ッ!?……か、加藤さん……っ!」
「何がしたいのかなぁ、常盤くんは」
「な、なんのこと? 俺は――」
「私は知ってたよ」
「――っ!」
「たまたま聴いちゃったから、だから昨日一緒に居てみたの」
「…………」
「灰垣くんのおこぼれを狙ってるのかと思ってたけど、逆に陥れて自分を良く見せたいのかな? それとも………彼になりたいの?」
「……伝え間違えただけだよ、わざとやったんじゃない………」
「そっか、別にいいけどねー。 悪い子は嫌いじゃないし?」
「…………」
「愛里も……」
――――悪い子だしねっ――――
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