The First Day

 ジリリリリリッ!ジリリリリリッ!

 目覚まし時計のアラーム音が鳴り響く。


「ん…。」


 エイキは目を覚ました。

 昨日はスカルに世話になることを決め、家に着き、説明を受けたあとはすぐに寝てしまった。


「Z Z z z z . . .」


「あれ?」


 エイキは体を起こしてみると、自分がベッドで寝ている事に気付く。

 そして、スカルがソファで寝ている事にも気付いた。


(…えっ?あー…。)


「スカルさん…。」


「Z Z z z z . . .」


 返事は無い。

 熟睡しているようだ。


(起こすのも悪いよね…。)


 エイキはベッドから立ち上がり、昨日説明のあった居間へと向かった。



 …



(…何しよう。)


 エイキは今、完全に暇を持て余していた。


(指示も何も無いと、ここまで何も出来ないのか…。僕も弱くなったなぁ…。)


「ケイさん…。」


 なかなか消えない心の傷が痛む。


「はぁ…。」


 思わずため息も出る。

 大切な人の死と自分が人を殺したという事実。

 これらは常に彼の心を締め付けていた。

 そんな傷心の彼の後ろから、声が聞こえた。


「おいおい、そんなに思い詰めなくてもいいんじゃないか?」


「うわっ!?…スカルさん。」


「おはよう、相棒。」


 スカルだった。

 彼は昨日と変わらず笑みを浮かべている。


「そうだ、昨日ソファで寝てましたよね?ごめんなさい…。」


「あー…。俺はベッドよりソファの方が寝やすいから気にするな。」


「…?そうなんですか?」


「ああ。何で家にあるのかも分からなかったからお前さんが使っていいぜ。」


「えぇ…。」


 エイキは呆れたような声を出した。

 しかし、その表情はすぐに申し訳なさそうな物になった。


「こんな俺にそこまでしていただいて…。ありがとうございます。」


「heh、気にすんな。」


「…本当によかったんですか?」


 不安と申し訳なさの混じった顔で彼は言う。


「そんな犯罪みたいな事にまでこんな俺に手を貸して…。そこまでして良かったんですか?」


「良いって言ってるだろ?お前さんがなんと言おうと、俺はお前さんの手助けをやめるつもりは無い。」


 エイキの表情はまだ少し暗いが、楽にはなったようだ。


「…すいません何度も、ありがとうございます。」


「heh。俺は気にしてないから、好きに生活してくれ。」


「好きに…って、あなたの家ですよ?」


 エイキは少し笑って答えた。


「いや、俺一人だと色々余るからな。欲しいものとかもあったら言ってくれよ。」


「…いいんですか?」


「ああ。昔はを削って働いてたんだ。その頃に蓄えたのが使いきれなくて勿体なくてな。」


 スカルはウィンクしながら言う。


「ふふっ、『骨』と掛けてるんですか?」


「ああ。服装と合ってるだろ?」


「ええ。…ふふっ。」


 二人は笑っている。

 結局はエイキも折れたようだ。


「じゃあ、改めてよろしくお願いします。」


「ああ、よろしくな。」


 そう言い合うと、二人は握手を交した。



 …



「…さて、何か食べるか?」


 スカルが話を持ちかける。


「…そういえば、何も食べてなかったですね。」


 前述の通り、昨日は何もしなかったため、夜も何も食べなかったのだ。


「あー、ホットドッグくらいなら作れるか…。少し待っててくれ。」


 そう言うと、スカルはキッチンへと向かった。


「すいません、ありがとうございます。」



 …



「ほらよ。ホットドッグだ。」


「ありがとうございます。」


 スカルはホットドッグ…に見える物を二つ持ってきた。


「いただきます。はむ…ん?」


 エイキは一口食べて首を傾げた。


「んぐ…。スカルさん、これ本当にホットドッグですか?」


 エイキは聞いた。

 ホットドッグ?に使われているソーセージはソーセージでは無いのだ。


「どこがおかしかったんだ?」


 笑顔を崩さず、スカルは言う。


「えっと…このソーセージ、ただのソーセージじゃ無いですよね?」


 エイキはもう一口食べて、また首を傾げた。


「ここでは『ウォーターソーセージ』は使わないのか?」


 スカルは顔をニヤつかせながら言う。


「『ウォーターソーセージ』ですか?聞いた事無いですけど…。」


 エイキは疑問そうに言う。


「ウォーターソーセージ、ここでは…ガマの穂だっけか?まぁ、ガマの穂では無いがな。」


「結局何なんですか…。」


 少し呆れたようにエイキが言う。


「まぁ、肉だな。害はないから食べていいぞ。」


「…はぁ。」


(まぁいいか…。)




 ………




「さて、俺は仕事に行ってくる。」


 朝食を食べ終え、片付けも済ませたスカルが言った。


「はい。…俺、どうしましょうか。」


 エイキは困った様に言う。

 スカルが居なくなり、一人になるとすることが無いのだ。


「あー…。そうだな、パソコン使っていいから、軽くどうやって生きて行くかを決めて調べておいてくれ。」


 スカルは答える。


(いつまでもここに居たら迷惑だしね…。)


「わかりました。」


 エイキは快諾した。


「じゃ、行ってくる。」


 そう言うとスカルは外へ出て行った。


「はい、行ってらっしゃい。」


 エイキも笑みを浮かべて挨拶を返した。


 そして玄関のドアが閉まると、エイキは鍵を掛けた。


「…さて。」


(ずっと何もしないのも悪いし、掃除とか家事もしよう!)


 エイキはまず、家事をすることにしたようだ。




 ………




「…ん?」


 彼が風呂掃除と洗濯を終え、掃除をしていた時。

 居間、寝室、キッチン等、他の部屋の掃除を終わらせ、倉庫の掃除をしている時、それは出てきた。


(本…いや、むしろ…ノート?)


 ゴキブリではない。

 確かに部屋に入った時一匹居たが、ティッシュで潰され今はもうゴミ箱の中だ。

 彼が見つけたのは一冊のノートだ。


「Worldline 1 - Original UT - Genocide run?」


(うわ、中身全部英語か…。)


 このノートのタイトルにはGenocideという不穏な単語が入っているが、中身は全て英語だった。


(…今度スカルさんに聞いてみよう。)



 …



「あー…。」


 エイキは今、ソファに項垂れていた。

 あの後も普通に家事をして、する事が無いことが分かり、休憩しているのだ。


(もう1時か…。お腹すいたな…。)


 時計は短針が1を少し超えた所、長針が3の少し前を指していた。


(そういえば、あれがあったよね…。)


 彼はキッチンへと向かった。



 …



「ふぅ…。」


 キッチンにあったのは朝のホットドッグ?だった。

 近くにはメモ用紙が置いてあり、そこにはよく分からない何かの顔と、『腹が減ったら骨だけになる前に食べていいぞ』という文が書いてあった。

 エイキはそれを食べたが、食べている最中はずっと顔を顰めていた。


(僕が料理した方がいいかな…。)


 ちなみに、彼はそこまで料理が上手ではない。

 …いや、少し下手くらいだ。

 塩や砂糖を間違えるほど致命的では無いが、火加減や食材の大きさ等を間違えてしまう。

 …こいつに料理させる方が大変だと分かるのは、また後のお話…。


(じゃあ、そろそろ調べ物でもしようかな。)


 彼は寝室へと向かった。



 …



「んー…。」


 寝室にあるパソコンへ向かい、唸り声を上げているのはもちろんエイキだ。


(方向性…って言っても、なかなか難しいなぁ…。)


 彼が悩んでいるのは、同じ境遇の人間が居ないから前例が無く、調べてもなかなか道が見えないという事だった。


(どうすればいいのかな…。)


 彼の見ているサイトは就職に関するサイトだ。


(流石に中卒で暮らすのは厳しそうかな…。)


 彼は高校生の時に拉致され、研究対象となっていた。

 そのため、扱い的には高校中退、つまりは中卒となるのだ。

 最近は高卒でもないと進路はかなり絞られるため、彼は中々良い就職先が見つけられずにいた。


(…就職、かぁ…。高校に編入って手もあるかな…?でも、それはそれでスカルさんに迷惑だし…でも、就職しないのはもっと…)


「はぁ…。」


 彼はため息をつく。

 考えても調べても、何をしても答えが中々出ないこの状況が詰んでいると思っているのだ。


「…んー。」


 いくら悩んでも、いくら答えが出なくても、午後の時間は過ぎていく…。




 ………




 あれから3時間程経ち、今は時計は5時過ぎを指している。


「どうしよう…。」


 エイキはまだ悩んでいた。


 ガチャッ


「ん?」


「帰ったぞー。」


 そんな悩める彼の元に、スカルが帰ってきた。


「おかえりなさい、スカルさん。」


「ああ、ただいま。」


 彼らは挨拶を交わす。


「お掃除とか洗濯とか勝手にやっちゃいましたけど、大丈夫でしたか?」


「お、やってくれたのか?やる気も無かったから助かったぜ。ありがとな。」


 スカルはエイキの問い掛けに目を細めて答えた。

 それを聞き、エイキも安心したようだ。


「よかった…。…そうだ、今後の事なんですけど、結局まだ決まってないです…。」


 少し申し訳なさそうにエイキは言う。


「まぁ、一日で決めろって訳じゃないからな。ゆっくりで良いさ。」


 いつも通りの表情でスカルは答える。


「すいません…。ありがとうございます。」


 その変わらない仕草に、エイキは少し安心したようだ。



 …



「じゃあ、シャワーでも浴びてくるぜ。」


「はい。わかりました。」


 スカルはシャワールームへと向かった。

 エイキはそれを見て、またパソコンへと向かう。


(…んー。)


 そんな悩んでいる様子の彼の後ろから、声が聞こえた。


「…あまり根を詰めすぎない方がいいぞ?」


「うわっ!?」


 エイキは気付いていなかったようだ。


「今日じゃなくて良いって言っただろ?無理な日はとことん無理だ。諦めて、明日またやるってのも大事だぜ?」


 諭すようにスカルは言った。


「…そうですね。これ以上やっても、まさに折り損のくたびれもうけってやつですしね。」


 エイキは少ししたり顔で返した。


「…heh heh heh…やるな、お前さん。」


 少し呆気に取られたような顔をしていたスカルだったが、彼はすぐに笑い始めた。


「ふふっ、ありがとうございます。」


 エイキも笑顔で答えた。


 スカルは全く同じ見た目の衣服を取ると、シャワールームへと向かっていった。


(…あれ、さっきもシャワールームに行ってたような?)



 …


「上がったぞー。」


「はーい。」


 あの後、居間でテレビを見ていたエイキはシャワーの準備を始めた。

 スカルはシャワーを浴び終え、テレビを見始めた。


「じゃあ、シャワー浴びてきます。」


「おーう。」


 スカルはソファに深く腰をかけ、だらけている。

 エイキは微笑ましそうにそれを見ながら、シャワールームへと向かった。



 …



「出ましたよー。」


「おう。飯の用意は出来てるぜ。」


 エイキがシャワーを浴びて出てくると、スカルが電子レンジを使って何かを温めていた。


「ホットドッグみたいなものですか…?」


 少し恐怖したようにエイキは聞いた。


「いや、スーパーの弁当だが…。なんだ、お前さん、アレを気に入ったのか?」


 スカルはウィンクしながら言う。


「いや、そんな事ないです!!」


 それに対しエイキは食い気味に答える。


「お、おう…。そうか。」


 流石のスカルも少し引き気味に答える。


(あっ…。)


 エイキの顔が少し赤くなる。


「すいません… 。」


 少し顔を俯かせながら彼は言う。


「heh…。お前さんを見てると、本当に飽きないな…。」


 笑いながらスカルが言う。


「…。飽きないって、僕は笑わせたい訳じゃないんですよ?」


 少し不服そうにエイキは答える。


「分かってるが、それでも面白いからな…。…heh。」


 まだ笑いながらスカルは言う。


「…もう。」


 不機嫌そうにエイキは呟く。


「あー、悪かった…。とりあえず、飯でも食うか?」


 反省したようにスカルは言う。


「…はい。」


 エイキも肯定する。


 二人は食事の準備を進めた。



 …



「…はぁ。そろそろ寝るか。」


「…そうですね。」


 二人は夕食を食べ終わり、少しだらだらしていた。


「…なぁ、相棒。」


 珍しく真剣さの滲み出る面持ちでスカルが話しかける。


「はい、なんでしょう。」


「お前さんは諦め時ってのを知った方がいい。上手くいかない時には何をしても上手くいかないもんだ。今日みたいな時は、無理しないで大人しくを休めな。」


 真剣に、だけどいつも通りにスカルが言う。


「骨を休める…ですか。」


 繰り返し、心に刻み込むようにエイキが言う。


「ああ。無理はするなって事さ。」


 スカルは自分なりに伝えたいことを伝える。


「…分かりました。ありがとうございます。」


 それを受け、エイキは礼を言う。

 まだまだ初日だが、なかなか学ぶ事も多かったようだ。


「heh…。さて、寝ようか。」


「…そうですね。おやすみなさい。」


 そう言い合い、二人の初日は幕を閉じた。

 これからどのくらいこの二人が一緒に居られるのか、何時になったらエイキは進路が決まるのか、それはまだ分からない。



 ………




 ……………

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