第8話 出会い

ぱっちりとした目に、艶やかな唇。そして何より、真っ直ぐ伸びた黒髪。


 うん、可愛い。間違いなく美少女だ。


 「ちょっと朱里ー、なんで窓の外を見つめてるの?」

「しっ! 彩月ちゃん、今大事なところだから!」

慌てて彩月ちゃんの口をふさいで、外に視線をやる。


 すっと通った鼻に、切れ長の目。そして、色素の薄い髪。間違いない、お兄ちゃんだ。


 そんな、美少女とお兄ちゃんがぶつかり、美少女はお弁当箱を落としてしまった。


 ──ここまで見れば、もういいかな。


 彩月ちゃんの口をふさいでいた手を解放し、視線を外から中に戻す。


 今さっき見た光景は、漫画内のヒロインとヒーローが初めて出会う場面だった。


 「朱里、どうしたの?」

「ごめん、彩月ちゃん。苦しかったよね」

「それは、別にいいけど。──そんなことより、顔!」

「顔? 何かついてる?」


 慌てて顔をぺたぺたさわると、さっきまで食べていたお弁当のご飯粒がついていた。


 「あっ、ご飯粒! ありがとう」

「いや、それもあるけど。……大丈夫? 泣きそうな顔をしてるよ」

そういって、彩月ちゃんが私の顔を覗きこむ。


 「そ、そんなことないよ!」

「そう? ならいいけど」


 慌ててぶんぶんと首を振り、表情を切り替える。私には、泣く理由がない。お兄ちゃんのことはもう諦めたんだから。だから、私はお兄ちゃんとヒロインがくっついたとき、一番に祝福できる人間になろう。


 それに、これでヒロインと出会ったから、お兄ちゃんも私と登下校しようだなんてもう思わないだろうな。


 その日の放課後は、彩月ちゃんと部活動見学をして、過ごした。

「色んな部活があるね」

「どれにしようか、迷っちゃうね」


 料理部とか文化系の部活にしようかと思ったけれど、運動系の部活も捨てがたい。

「そういえば、野球部、マネージャー募集中っていってたね」

彩月ちゃんの言葉に、ふと、亮くんのことを思い出した。亮くんは、あのまま野球部にはいるのかな?


 「彩月ちゃんは、マネージャーに興味があるの?」

意外だ。彩月ちゃんはどちらかというと、サポートするよりも、自分が運動したい側だと思っていた。


 「いや、私じゃなくて、朱里にどうかなって」

「うーん、マネージャーかぁ」

想像してみる。とても忙しそうだけれども、気が紛れていいかもしれない。



「マネージャーに興味あるなら、生徒会も補佐を探してるよ」

「おおお、お兄ちゃん! なんで」

「なんでって、朱里の姿が見えたから」

彩月ちゃんと話していると、突然目の前にお兄ちゃんが現れたのでびっくりする。お兄ちゃんって、神出鬼没だったっけ。


 私がびっくりしている間に、彩月ちゃんは、

「あっ、今日私、塾だから。でも、小鳥遊先輩が一緒なら安心だね」

といって、帰ってしまった。


 「藤堂さんに朱里を任せられたことだし、今日は一緒に帰ろうか」

「う、うん」

ここで断るのも何なので、結局その日は下校も一緒になったのだった。

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