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「で、どうなったの?」
興味津々と言ったていのチカちゃんからアバターチャットのお誘いが来たのは、
あれから彼女は、
ただ、何があったかは一切語らないそうで、日がな一日奥の部屋でめそめそと湿っぽい態度でいるというから、本当に鬱陶しいったらない。
「どうもこうも」
「その子、結局なんだったの?」
「うん」
語るべきか否か、というところだ。
苗村陽和の真意も、結局何に狙われているのかも分からないままで、アバターしか見たことのない人間にいろいろ話してしまっていいのだろうか。
チカちゃんには「知らない女が突然やってきた」とだけ伝えてあった。そして今も、私の中でその認識は変わってない。あの女はとにかくマズい。
結局、縁さんがなぜあの女を保護したのかも分からずじまいだ。正直なところ、あの危険人物が私の手から離れたということだけでホッとしまっている。私の手には負えないけど、縁さんなら大丈夫だろう、と。
「分かんないんだ」
「え、じゃあ素直に帰ってくれたってこと?」
「うーん」
「煮え切らないなあ」
今日のチカちゃんの眼鏡のフレームの色は白だった。この間の赤い眼鏡より、髪色に映えてずっとかわいい。それを褒めると、やっぱりカコは分かってんな、と嬉しそうに笑った。
縁さんからは何度か連絡をもらっている。会いに来てもいいけど、別に会わなくてもいいよという話だ。縁さんの話からすると、苗村陽和の態度は多分、私が行けば話してあげてもいい、ということを示しているんだろうという。それならそうとはっきり言えばいいだけなのにそれをしないのは、あの女の元来の性質なのだろう。そうやって今まで第三者に助けられて生きてきたのかもしれない。でも私は、その有り様がとにかく嫌いだ。
「カコに用があったってことでしょ?」
「そうみたいだけど、何も話さないから」
「巡回員に連れてってもらったの?」
「うん、まあ、そんなとこ」
こういうところなんだと思う。リアルとバーチャルの境界線というヤツ。チカちゃんのことは好きだし、親友といっても過言ではないかもしれない。そのくらい仲良くしているし、チカちゃんも同じだろうと思ってもいる。だけどきっと、チカちゃんにも私にも、きっとお互いには言わないことも話さないこともたくさんあるし、肝心なことは何も言えない間柄なんだろう。
例えばいつか、ネトマガでチカちゃんに関する事件が公開されたとしても、私にはそれがチカちゃんかどうかすら分からない。何せ、
「そういえば、カコ。また面白いの見つけたんだけど」
「何?」
「この間の、ジサツ事件のやつ」
「またその話?」
「いいじゃん、送っとくから見てよね」
じゃあ時間だから、とチカちゃんのアバターが手を振り、ぷつんと音を立て一方的にモニターが落ちる。残ったのは、チカちゃんから届いたいくつかのメッセージだけだ。
あんまり見る気になれない。ようやく、
それでも。
届いたメッセージに手を伸ばしてしまうのはもう習い性のようなものなんだろうか。タッチするとひょう、と音がして画面いっぱいにチカちゃんからのメッセージが表示される。タイトルはチカちゃんの言った通り、少女ジサツ事件について。本文には、一体どこで調べたのか関係者の名前が書き連ねられていた。
それだけなら新しい情報はない。この間チカちゃんから聞いたばかりだ。
その中の一文に、
大体、気が知れない。
このご時世に、その命の有無に関係するほど他人の人生に深入りするその気持ちが。むしゃくしゃしたなら死ねばいいだけの話なのに、その
イコルを使わなかったからってそれは同じことだ。私に親族はいない。いたとしても、私は知らない。だから、別にイコルを使わず死んだあとドームの外に遺棄されたといって、ただそれだけの話だ。
誰かの命を奪うほど、誰かに関わるなんてゾッとする。
いじめとやらは壮絶な内容だった。
これが犯罪と何が違うのか、私には分からない。友竹梨恵が、さっさと
知らない名前じゃない。聞いたことがある。
「そういうことか」
命を狙われている、と言った。なるほど彼女の言い分は理解できた。だからと言って、私が助ける義理が欠片も存在しないことも分かった。チカちゃんからのメッセージをコピーして、縁さんのところへ送る。私はこれ以上、厄介ごとに関わりたくないのだ。
苗村陽和も今、さぞかし恐ろしい思いをしているのだろう。順当にいけば次は自分が不当に命を奪われることになるのだから。
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