アリゴレツカの神灯(1)
「――なんで
戦場にいた時からずっと感じていた疑問を、そこでようやく話すことが出来た。「あんな理甲1体さらったところで大した戦力になるとも思えないが」
「
「本当にその程度の話なのか?」
「
そう言って、カウリールは両手の指を組んだ。「今や我が軍の走狗と成り果てた大陸征服戦役の英雄『白銀の悪霊』ことリクラフを、
「あれだけ
私は呆れ半分に鼻を鳴らした。
「そう、
カウリールの視線が適当な虚空に向いた。空中のどこかに答えを探すみたいに。「
「さぁね」
私はさっぱりわかりませんとアピールするために両手を広げた。「私ら末端には関係のないことよ」
「
「……あのねぇ、」
カウリールの発言はおおよそ教練を受けた理官の認識とも思えない。「
理幣は、連邦管理下にない野良の
猫に小判をやっても仕方がない。それと同じ話。
「――いやな、だから不思議なんじゃないか」
私の指摘なんか言われなくてもわかっている、と訴えるように彼は言った。私に馬鹿扱いされたのが悔しかったのかも知れない。「確かに、俺たちの理幣で
カウリールがえらく乗り気で話してくるので、あまり関心はないが私も聞くしかなかった。
「ひとつは、
「でも、今自分で言ったけれど、この大陸でも
雑な例えをすれば、肉屋さんに対する信用が、魚屋さんにも使えるだろうか、というような話だ。土着民族が「啓霊」などと呼んで一生懸命信仰していたのは
「それはわからないじゃないか」
お前ツボをわかってないなぁ、と言いたげな様子だった。「もうひとつの推察だが、
カウリールの口元がにやりと曲がった。「大陸征服戦役の際に接収し損ねた、旧アリゴレツカの“
アリゴレツカの神灯――私は嘆息した。
「……まるで埋蔵金みたいな話ね。くだらない」
アリゴレツカの神灯――それが何かを説明するには、まず人と
大前提としてあるのは、
我々が相手を確かに裏切らないということを約束し、
人間同士のやり取りだってそうだ。
あらゆる契りに必要なのは、双方向の“信用”だ。
例えば、私が昼食に「1杯の汁麺」を食べるとしよう。店主に注文すると汁麺が出てきて、美味しく頂く。食べ終わったらお勘定として「3枚の硬貨」を店主に渡して退店する。
こうして「1杯の汁麺」と「3枚の硬貨」が等価交換できた場合、私と店主の間に介在したものは何だろうか?
それは、買い手である私と、売り手である店主というお互いに対する“信用”だ。
私は美味しい「1杯の汁麺」が出てくることを“信用”して「3枚の硬貨」を引き渡すことに合意する。そして、店主は客である私が「3枚の硬貨」をきちんと支払うという“信用”の下に、丹精込めて作った「1杯の汁麺」を振る舞う。
一種の貸借の関係がそこには生じていて、最終的に私が「3枚の硬貨」の支払いを完了した時点で、「1杯の汁麺」に関する負債が解消される。
この時、私だって明らかに値段が高過ぎたり、
逆に店主だって、私が食い逃げしたり周りに迷惑を掛ける“信用”ならない客だと思えば、「お前に出す汁麺はねぇ!」と告げることで、その取引は成立しないかも知れない。
――こんな感じで「1杯の汁麺」を頼むというありふれた行為でさえ、相手を信用し、相手に信用されているからこそ可能となる。カネでやり取りするとは言え、結局根本的には相手を信じるか、信じないかの話に行き着くわけだ。
そういうわけで、何を考えているやらわからない
だから我々連邦も、この大陸の土着民族も、
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