第4話 Moth

そして昨日と同じように

渡辺が、こちらに気づき声をかけてきた。


「おっはよー!ってどしたの!?そんな深刻そうな顔して」

「いや。ちょっと色々あってさー。」

「何々?中野っち元気ないの??」

矢野と渡辺が昨日と同じように、直樹に話し始めた。


「園田君おはよ♪」

「・・・」

「園田君?」

「あっ!ごめん。」

「園田君も考え事?」

いつもなら嬉しいはずの澤田からの挨拶も、今の自分には嬉しくなかった。


「・・・うん。」

「相談乗るよ?私でよければ」

「・・・。もしもさ。普段使ってる言葉が突然消えたらどう想う?」

何を聞いてるんだ僕は。しかも澤田さんに。

「え?言葉が消えたら?・・・どうだろうねー。考えた事ないからなー。」

「そうだよね・・・。」

当然の反応だ。おかしな事言ってるんだから

「でも。」

少し考えたように澤田さんは話を続けた。

「私ならどうにかしてでも伝えるかなー。」

「どうにかしてでも?」

「うん。時々あるじゃん。伝えたくても言葉が出ない時、相手がわかってくれる時って」

何故だろうか。澤田さんの純粋さに笑顔が零れた。


「ちょっと!真剣に答えたのに!」

「ごめん!なんか嬉しくてさ」

「元気出た?」

「うん。元気出た。」

「そっか。良かった♪」


やっぱり僕は、澤田さんに思いを寄せているんだと

再確認した。彼女の言葉一つ一つに元気を貰える。

このまま付き合えればな。

なんて浮かれていたのは一瞬の事だった。


前の学生達がざわついている。

「なんだろう?なんか騒がしくない?」

「あゆ!園田っち!大変!!」


3人の元へ走って、矢野が指さす方を見ると

建物の上に大きな繭が出来ている。


「なんだろね??あれ」

すかさず直樹が近寄ってきた


「おい・・・あれまさか。」

「・・・」

僕は携帯を取り出し繭を確認する。


【 LINKされました 】


と画面いっぱいに言葉が広がる。


「リンクされ・・・た?」

校門前に先生たちが立っていて生徒達に 誰かの悪戯だから気にせず建物へと呼び掛けている


「なんだー悪戯かー。」

「先生たちが撤去するんだってー。」


「あんなもん撤去できんのか。」

「わからない。でもとりあえず先生たちに任せようか。」

「・・・そうだな」


そう言って建物に入り いつもと変わらない風景を目の当たりにする

「兎に角。様子見だな。」

「うん。」


クラスに向かい いつもの様にチャイムが鳴り響き

担当の先生がクラスに入り 朝礼を始め授業が始まる。


ほとんどの生徒が、先生に繭の事を問いかけるも

先程と同じ様に、今授業のない先生たちで撤去作業が行われている事を話す。


そして普段のように授業が始まる。


しかし。普段と違うのは、此処からだ。

先生が黒板に書いた文字が、数分にして、文字化けが起こり

黒板が落書きのような文字だらけになった。


同級生は、先生の書いた文字が読めないと茶化しだす始末。


「そんな・・・。」

僕が絶望し始めた時、屋上で大きなもの音が聞こえた。

窓から覗く生徒達を落ち着かせようと先生が必死に呼びかける。


暫(しばら)くして、撤去に向かった先生が各クラスの担当の先生の元に走ってきた。

深刻そうに話す先生たちの会話が少し聞こえた。


「繭から大きな蛾のようなものが羽化した。」

その言葉が聞こえた瞬間、体中に寒気が走った。

そして訪れた先生は、隣のクラスへ走って行った。


担当の先生は、ざわつく教室で待機とだけ言ったものの

同級生達は、更にざわつき始める。

少し時間が過ぎた頃、アナウンスが流れ全生徒、担当の先生と共に

順番に体育館への避難の指示が流れた。


まずは1年1組。10分後に僕等のクラス。1年2組。

移動中にまたアナウンスが流れ、直樹と渡辺がいる1年3組の移動の指示が流れた。

屋上を見ない様に速やかに移動するよう指示する先生たち。

その後も続々と体育館に移動してくる全校生徒。


体育館は、異様な空気になっていた。


蛾が羽化した事を冗談だろと茶化す生徒もいれば。

信じてどうするのか不安になっている生徒。

携帯をいじってSNSに投稿する生徒。

先生たちに問いかける生徒。


全校生徒が体育館に集まり少し時間が経った頃

滅多に観ない校長先生が、状況を説明し始めた。


怪獣映画に出てくるような巨大な蛾が、この建物の上にいる事。

その対処に警察や害虫駆除の業者を呼んでいる事。

とりあえず警察と業者が来るまでは待機と言う事。


納得のいかない生徒達がブーイングする中、直樹がこっそり僕の側まで来た。


「偉い事になったな。」

「どうしよう。」

「どうするも。とりあえず警察と業者に任すしかないだろ。」

「対処できると思う?」

直樹は息詰まっていた。


「何か方法ないかな。」

「何かって。削除出来ないんだろ?」

「うん。出来ないけど・・・」


暫くすると、校長に一人の先生が報告に行く。

「なんだって!?」

校長の反応に対し再びざわつき始める。


その反応を見て先生たちが静かにするようにと呼び掛ける。


それから数分時間が経った。

一向に警察や業者がくる気配がない。

全校生徒の不安がピークに達した頃、建物中に大きな物音が響き渡った。


その音に叫び始める生徒達。

そして一人の学生が、窓際に見えた何かに反応した。


それは、文字化けした言葉を羽織った大きな幼虫が、窓にへばりついているのだ。

それを見た学生達が一斉に叫び始めた。


「おぃおぃ・・・嘘だろ。」

「直樹!」

「・・・なんだよ」

「やっぱり俺、なんとかする」

「なんとかっつったって・・・。」

「何かあるはずだ!」

「だからどうするんだよ・・・。」


「とりあえずその成長した蛾の所まで行く。」

「はぁ!?お前何言ってんだよ」

「もしも俺の携帯の幼虫が成長したなら俺がなんとかしなきゃ」

「・・・ったく。そういう所だけは積極的なんだな」


「あんたら何か知ってるの?」

矢野と澤田と渡辺が、僕等の会話を聞いてたらしくこちらに立ち寄ってきた


「さっきから幼虫とか蛾だとか聞こえたけど知ってるんでしょ?直樹。」

「・・・いや。知っててもお前らは巻き込めない。」

「はぁ!?何それ!小学校の時は、無茶苦茶言って誘ってきた癖に、カッコつけるんですか!?」

「危険すぎるっつってんだよ!!それに、まだ対処方法も見つかってねぇ」

「そういう所だけ男面ですか?そういう所が嫌いなんだよ」

「なんだよ!俺は・・・。」

喧嘩する渡辺と直樹に紛れて、澤田が僕の手を握ってきた。


「いっ・・・。」

「園田君。何か知ってるなら話して。」

「でも。」

「言ったでしょ。相談乗るって。」

「・・・実は。」

「おぃ!良二!!」

澤田の真剣な表情を見て僕は、これまでの幼虫との出来事を話した。



「幼虫に言葉を教えたら、言葉が消えたって・・・。」

矢野も渡辺も、肩を落とした。

「何それ・・・。ハハハ。」

「・・・ごめん。」


「だから言っただろ。巻き込めないって。」

絶望する3人に、澤田がまた考え始め、思い付いた様に口を開いた。


「言葉が消えたって事はさ。もしも【 蛾 】って教えたらその虫消えないかな。」

その一言を聞いた瞬間、直樹と目を合わせ

試しに画面を開き打つも、エラーでまたトップに戻された。


「クソ・・・!ダメか。」

「もしさっきの事が本当なら、黒板に書いた言葉も消えたって事だよね」

「かもな・・・。なんで?」

「だから校長たちや先生たち、他の皆言葉数が減ったのかな?」

「良二のクラスなんて書いてた!?ってわかんねぇか」

「ごめん。思い出せない。」

「って事は、結局クラスに戻らないとか。」


「・・・。園田っち。直樹。」

渡辺が、重たい口を開き何やら覚悟を決めた様子で話し始めた。


「あんたらに任せていい?」

渡辺の言葉に、目を合わす僕と直樹。

「勿論あんた等だけに危険な目にはあわさせない」

「は!?」

「私もあんた等の幼馴染だから最後まで付き合わせて。」

「だからお前を危険な目に」

「直樹に何かあったら嫌だもん!!」

「・・・香織。」

「・・・これ以上言わせないで。」

「あぁー!!もうわかったよ!!好きにしろよ!!その代わり俺から離れんなよ!!」

「カッコつけて。」

「うるせぇな!じゃあ好きに行動しろよ!!」


二人の喧嘩を見て矢野が羨ましそうに「青春だね」と呟く。

「でもどうやってここを抜け出すんだ?」

「矢野っち!お願い!!」

「へ?お願いってなに?」


「きゃー!!!!」

矢野の叫びに、全校生徒・教師一同が振り向き

矢野の指さす方を確認した瞬間。

僕と直樹と渡辺が一斉に扉まで走った。


すぐに視線を戻した先生が、こちらに気づき

呼び止めようとするも、もう遅い。

扉を開き一気に閉め走り出す。


階段を上り2年のクラスに忍び込み一旦落ち着く。

「ふあー!!怖ぇー。」

「はぁ・・・はぁ・・・スリリングだったね」

「絶対後で補修だね。」

「間違いない。」

4人で、一旦深呼吸して周りを見渡す。

すると渡辺が叫んだ。


「あゆ!!何してんの!!あんた!!」

「ごめんね。着いてきちゃった」

「澤田さん!?」

「私も力になりたくて。」

「もー!!今から戻りなさい!!」


落ち込む澤田さんに直樹が声をかけた。

「戻るっつっても今戻ったら危険だろ。良二。お前が守ってやれ。」

「え!?俺!?」

「いいから。」


澤田さんの方を見ると、少し嬉しそうにしている。

「わかった。澤田さん側にいてね」

「うん。わかったよ♪あっ・・・!」

澤田さんは、立ち上がり黒板の方へと向かった。

「この黒板に 【 蛾 】って書いたら消えないかな?」

「書いてみるか。」

澤田さんがチョークに手を伸ばした瞬間だった。硝子を割り幼虫が侵入してきた。


思わず声を上げる澤田さんを直樹が急いで黒板から離したものの

直樹が幼虫に襲われる。

「直樹!!」

渡辺が椅子を持って、必死に幼虫を叩く。

幼虫がよろめいた隙に、離れる直樹。

「走れ!!」

そう言って、僕等は、教室から飛び出し

僕は、澤田さんの手を引っ張り

階段を駆け上がり屋上に繋がる階段の方へ走ると

階段前は、幼虫の群れが階段に群がっていた。


1年2組。僕等のクラスに急いで隠れ息を殺す。

「そんな・・・。」

絶望する渡辺を見て直樹が僕の方を振り向く。

「良二。俺が囮になるからその隙に、香織と澤田さん連れて屋上に走れ」

「はぁ!?そんな事出来るかよ!!」

「そうよ!!馬鹿な事はよして!!何かあるはずよ」

「・・・香織。」

「何よ。」

「あん時は、ごめんな。」

「こんな時に何!?」

「こんな時だから言わせてくれよ!」


「・・・。」

渡辺が悔しそうに唇を噛んでいる姿を見て直樹が渡辺の頭を撫でた。

「大丈夫だって。今度は信じてくれ」

そう言って直樹は、教室を出ようとする

「直樹!!」

「良二。わかってるよな。俺の言いたい事」

「・・・でも」

「不安そうな顔すんな!お前は、ちゃんと片づけて明日の昼飯奢る!ただそんだけだ!」

いつもの様に笑顔で、少年のように陽気な直樹の顔がそこにはあった。

そう言って、直樹は教室を出ていく。


直樹の雄たけびが廊下に響き渡った。

その後、もの凄い音が廊下中に響いた。


「香織!!」

澤田さんの声に、それに続くように渡辺が教室を飛び出そうとした所立ち止った。

「あの馬鹿に・・・!かっこつけさせたままだと私がムカつくの!!」

振り返った渡辺は、泣き崩れてくしゃくしゃな顔で、まるで鬼のような顔立ちになっていた

「園田っち!ちゃんとあゆの事頼んだわよ!!私は、あの馬鹿死んでも連れ帰るから!!」

そう言って渡辺も教室を飛び出した。


困惑する澤田さんの手を強く握り僕等も続くように澤田さんの目を見つめた。

「2人の想いを無駄には出来ないよ。行こう!」

澤田さんの手を引っ張り、幼虫たちがいなくなった隙に階段まで移動し屋上の扉までたどり着く。


2人を心配そうな澤田さんの顔を見て

自然と出た「大丈夫。僕が守るから」という言葉に。

少し安心した表情を見せてくれた。


扉をゆっくり開くと先生たちが言っていた

怪獣映画に出てくるくらい巨大な蛾が、目の前に羽を広げて待ち構えていた。

羽の模様をよく見るとこれまで教えたであろう言葉が模様として刻まれている。


蛾は、じっとこちらを見つめ動かない。

しかしその姿を見た僕は震えが止まらなくなってしまった。


恐怖。

得体の知れないコイツをどうやって消去するんだ。


躊躇ちゅうちょしている間に蛾は、大きく広げた羽を前後ろに広げ

突風を起こし僕等を吹き飛ばした。

必死に澤田さんの身体を抱きしめそのまま

フェンスまで吹き飛び力強く打ってしまい意識が朦朧もうろうとする。


「園田くん!!大丈夫!!??」

くそ。どうすればいいんだ。あんな化物。


蛾は、今にも飛び立ちそうに羽をまた広げている。


どうすれば。どうすれば。

意識が朦朧とする中。

今までの事が走馬灯の様に蘇ってきた。


送り主:不明。

【貴方の大切なコトバを、コノ子に教えてクダサイ】


「言葉が消えたって事はさ。もしも【 蛾 】って教えたらその虫消えないかな。」


【 LINKされました 】



LINK・・・。


もしかして。

重たい身体を起こし僕の身体を揺すってくれた澤田さんの肩に自然に手が届いていた。


「澤田さん。さっきのチョーク持ってる!?」

「え?あ・・・持ってるよ」

「二つに割れる!?」

「えっちょっと待ってね。」


蛾は大空まで飛び立ち、街に向け進行しようとしている。


「これでいい!?」

「頼む!なんとかなってくれ!!」


屋上に二人で書いた


LINKという文字。


蛾は、いよいよ羽を上下に広げ飛び立ってしまった。


しかし次の瞬間、蛾の羽に刻まれた【LINK】の文字によって

羽が光と共に、消え始めそのまま 蛾の身体が、こちらに向いた。

急いで携帯を確認すると

画面から【 LINKされました 】の文字が消え

【 蛾 】という文字を打ち込んだ。


そして慌てて階段まで戻り、落下してきた蛾がそのまま屋上から学校の一部をえぐり削り

そのままグランドに叩き落ちた。

その音を聞きつけ体育館に待機していた学生や教師達が飛び出してきた。


すると蛾の身体が光、放ち消え始めた。


蛾が消えたと同時に学校中の幼虫の身体も光始め

そのまま光と共に消えて行った。


傷だらけになった直樹と香織が、辺りを確認した

「終わったのか・・・。」

「・・・やったんだね。」

「はーぁ疲れた。」

その場に崩れた直樹に香織は抱き着いた。


「わぁ!なんだよ!!」

「・・・良かった。」

「・・・だな。」


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