第3話 Cocoon

電車から降り駅の改札口を抜けると

同じ電車に乗っていた澤田と矢野と渡辺が、こちらに気づき声をかけてきた。


「おっはよー!」

「おお!香織に矢野っちに、澤田さん!同じ電車だったのか!」

澤田さんだ!朝から通学一緒だなんて、凄く幸せだなー。

「あれ?園部君と中野君って仲いいんだね」

矢野の問いかけに直樹が自然に受け答えしている。

いいな。僕もあれぐらい女子と自然に話せるようになれたらな。と思っていると

直樹が僕にアイコンタクトを送っているように思えた。


うん?なんだろう。なんだか凄く直樹がこっちを見てくる。


「てか香織。お前矢野っちに言ってねぇのー?俺達幼馴染だって事ー」

「えー。そんなん言う必要ある?」

「ひっでー!小学校の時一緒に、カブトムシ取りに行った仲じゃん!!」

「馬鹿ーッ!!小学校の話でしょー!!」

「えー!香織。カブトムシとか好きなの?」

「違~うッて!!直樹が無理やり誘ってきたの!!」


「仲いいんだね。香織と中野君」

「そうだね。あいつら小中学校一緒だったからさ」

って。えーっ!?澤田さんから話かけられたの!!??

直樹の方を見ると、凄く嬉しそうに僕の方を見ている。

すかさず少しずつ距離をあけようと足早に進もうとする直樹。


「他にもあるぜー香織の恥ずかしい話。小5の時にさー間違えて小1の弟の制服着てきてさー。」

「ちょっとやめて!!その話!!無茶苦茶恥ずかしい話じゃん!!」

「えー!?何それ!聞きたい!その後どうなったの??」


「そう言えばちゃんと話すの初めてだね」

澤田のお淑やかな声が、僕の耳にすーっと入り込んだ。

「そ・・・そうだっけ?そうだね!同じクラスだけど ハハハ。」

「あっ花火大会楽しみだね!行くんでしょ?園部君も」

「うん。でも緊張するなー」

「緊張?なんで??」

「だって俺、そういうの初めてでさ。仲いいのって直樹だけだし。」

「そうだよねー。私も香織と明日香に誘われて入ったものの。あとの人たちってあんまり絡みないんだよね。」

「えっ?そうなの??」

自然と心に浮かんだ言葉が、口から出てしまった。


「うん。明日香とは中学一緒でずっと一緒で。あの子そういう行事ごと好きでよく誘われるんだけどね」

「ハハ・・・。澤田も大変なんだね」

「そーなんだよ!大変だよ!」

澤田の見た事ないような冗談を言う顔が凄く可愛く想えてしまい

思わず照れてしまった。

このまま時間が止まればいいのになと思っていると


「あゆーっ!園部君ー!遅いよー」っと矢野の呼ぶ声が聞こえ

「はーい!」と澤田は、3人の方へ走って行ってしまった。

残念そうに落ち込んでいた所、澤田が振り向き

「園田君、いくよー。」と手招きしてくれた。

その姿さえも可愛く想えた。


学校に着くと直樹が早速先程の状況を聞き込みにきた。

「せっかく合図送ったのによー。でも結果オーライだな!」

直樹は、満足そうだった。

けれど夢のような時間を送れた僕は、直樹の言葉が耳に入らなかった。

「聞いてんのか?良二ー!!」

「え?ああ!良かった良かった!」

「お前絶対に聞いてなかったろ?まあいいや。これでメール送りやすくなったな!」

「メール?」

「馬鹿!さっきは、ありがとうとかでもいいんだよ!」

「あっそっか!」

直樹は、ずーと僕を見ている

「何?」

「いや、見とかなきゃ送らなそうだからさ。」


「・・・後でちゃんと送るよ」

「あー!もう歯がゆいわ!携帯貸せ!」

そう言って、直樹は僕の携帯を取り上げ何やら打ち始めた

「ちょっと待ってよ!」

「はい!そうしーんと」

「えぇ!!」

「あっ。間違えて幼虫に送ってた。」

「え!?」


画面を確認すると

幼虫は、【ありがとう、大好きです】という言葉を嬉しそうに食べている。


「おぃ!大好きってなんだよ!!」

「それぐらい言っとかなきゃダメだろ!」

「もういい!送るよ!」

澤田のチャットに切り替え【さっきは、ありがとね。】と送った。

「なんだよ。つまんねーな。」

「いいだろ!送ったんだから!」

「まっ!前進したからいいか!」


するとすぐに携帯が鳴り確認すると澤田からの返信だ。

【こちらこそありがとう(*^^*) 園部君と少し仲良くできて良かった♪ また話そうね♪】

僕のテンションは、最高潮になった。

その隣で僕以上に幸せそうに声を上げる直樹。

「やったな!良二!!おめでとう!いやまだ早いか!!」

「やったよ!!直樹!俺頑張るよ!!」


喜んでいると、チャイムが鳴り始め

慌てて4階まで上がり教室に入る。


走ったのもあるが、この鼓動の高鳴りはきっと澤田のお陰だ。

本当に後で直樹にお昼ご飯奢らなきゃ。

それ位嬉しかった。


お昼になり、また直樹が僕を迎えにきて

食堂へ向かった。

今日の日替わり丼は親子丼で、昨日と同じ様に直樹は大盛を頼み席に座る。


「そういえば直樹は、好きな人とかいないの?」

その一言に、口に含んだ親子丼を吹き出した

「ゴホゴホ・・・」

「えー!?大丈夫か!?」

「お前な・・・。突然過ぎるわ!」

「あっ。そう言えば中学の時、一瞬だけ渡辺と付き合ってなかったけ??」

「ゴホッ・・・。」

再び直樹は、むせて水を一気飲みした。


「お前。本当容赦ないな」

「いや。そういえば付き合ってたなーって思い出して。でも仲いいよな」

「付き合ってみたものの。なんか違うって言われたんだよ」

「へー。で?」

「で?ってなお前・・・。」

珍しく直樹が焦っているように思えた。

また水を取りに行って戻ってきてすぐに水を飲みほした。


「ふー。アイツとは、今の関係の方がいいんだよ」

「そっか。」

「なんだよ。」

「いやーなんか直樹らしくないなーと思って」

「うっさいわ!俺にも‟そういうの”あるって言っただろう。」

「そういうの?」

「あー!もういいだろ!飯が不味くなる!」

そう言って直樹は、親子丼に再び手を付けやけ食いするようにたいらげた。


「それよりお前、澤田さんに返したのか?」

「あっやば!まだだ!」

携帯を取り出し、澤田にメッセージを返そうとしたが、違和感に気づいた。

「あれ・・・?」

「どうした?」

直樹に、画面を見せた。

先程届いた澤田のメッセージの一部の文字が消えていた。


【こちらこそーーーー(*^^*) 園部君と少し仲良くできて良かった♪ また話そうね♪】


「なんだこれ?」

「たしか顔文字の前に何か入ってたよね。」

「うーん。ってかお前の送ったの消えてるじゃん。」

「えっ!?」

澤田のメールの上の自分が送ったメッセージ


【さっきは、----ね。】


「・・・本当だ。」

「携帯がおかしくなったんじゃね?」

「かも。」

「学校終わったら携帯屋行くか。」

「そうだね。」


お昼を済ませて、午後からの授業を終え

直樹と共に地元に戻り、近くの携帯ショップへ足を運んだ。


そこでも違和感を感じた。

僕等が入ってすぐに出て行ったお客さんに対しての店員さんの一言だ。


「----ました!」


その一言に直樹と顔を合わせた。

すると店員さんがこちらに近づいてきた

「いらっしゃいませ。今日はどういったご用件でしょうか?」

「あ、あの携帯の調子が悪くて」

「悪い?と言いますと?どういった状況でしょうか?」

「メッセージの一部の文字が消えていて読めないんです」

「かしこまりました。そちらの席に座って少々お待ちください。」


その後、携帯を調べて貰うも、これと言った不具合は見つからず

一旦様子見となって携帯屋を後にした。

コンビニに立ち寄りアイスを買って直樹とこの出来事について考えた。


「どういう事だ。良二の携帯の文字が消えて、店員さんの言葉もおかしかった」

「それに、その言葉を思い出せない。」

「・・・なんか心辺りないのか?」

「心辺りって言っても。」

「ほら!変なサイト見たとか」

「見てないよ!」


「・・・そうか。だとすると・・・。うーん。わかんねぇー」

思い当たる節を考えに考えた。

そして一つだけ心当たりを見つけた。


「・・・あのさ。」

「おっ!なんか思い出したか!?」

「あの幼虫に、直樹なんて送ったっけ?」

「幼虫??あー!ゲームのやつか!確か・・・。」


直樹が思い出そうとするも、今朝の様に言葉が詰まった。

「あれ?なんだっけ。いや覚えてるよ!」

「澤田に送ろうとして間違ったやつだよね」

「そうそう!・・・ってちょっと待てよ!まさかあの虫が原因っていうのか!?」


「俺もあり得ないとは思うよ!でも一番可能性があるのは・・・。」

気になり携帯を取り出し幼虫とのチャット画面を開く。

すると、幼虫は、繭となり繭には文字化けした言葉が絡まっている。


「この文字化けしてるのが、今まで送った言葉ってことか。」

「かも知れない。」

「・・・良二。紙とペンあるか?」

「ノートとシャーペンなら」

「今から言う言葉を書いて、その後打ってくれないか」

「・・・わかった。」


直樹が選んだ言葉

【学校】


ノートに書き込み、繭の画面で【 学校 】という言葉を打ち込んだ。

すると繭の前に【 学校 】という文字が表れたものの

繭はピクリとも動かなかった。


「・・・夜お互いにメッセージを送ろう。」

「そうだな。これで忘れたら確定だな。」


そう言って解散し自宅に着き澤田にメッセージ返すのを忘れていたので、

返事を返した。


【そうだね!また話そう。】


送った後に繭を確認するも、やはり【 学校 】という言葉は残ったまま

繭は、ピクリとも動かなかった。


夕食を食べお風呂に入り暫くしていると直樹からメッセージが届いた。

【学校。文字消えてないか?】

【学校。うん消えてない!し繭もピクリともしてない】

【良かったー!やっぱり気のせいかな?(; ・`д・´)】

【かもね!】

【なんか安心したら腹減った(´-ω-`) また明日な!】

【うん!おやすみー!】


そう言ってベットに横たわり眠りについた。


次の朝を迎え、いつもの様に携帯のアラームと母の声に起こされ

制服に着替え朝食を食べ

駅へ向かう。


向かう途中、携帯のメッセージを確認するの忘れてたと思い確認すると

澤田からメッセージが届いていた。


【おはよう(#^.^#) もうすぐーーーだね!それまであと一息(*^-^*) また話せるといいね♪】

澤田と朝からチャットが出来るなんて僕は、なんて幸せなんだ。と思いながら

【おはよう!今日も同じ電車だったらいいね!】と送り返し駅に辿り着くと

血相抱えて僕の方に直樹が走ってきた。


「どうしたの?そんなに慌てて」

「どうしたのって・・・。お前昨日の事覚えてないのか!?」

「昨日の事?昨日って確認したやつ?」

「そうそれ!」

「あれって覚えてたから違うかったじゃん」

「それが今朝起きたら忘れてんだよ!」

「何を?」

「言葉だよ!!」


「言葉・・・?あっ!」

直樹に言われ急いで携帯と昨日のノートを取り出した。

繭の前にあったはずの言葉が無くなって

ノートに書いたはずの言葉も消しゴムで荒く消したように薄くなっている。


「そんな・・・。」

「その繭消せないのか。」

試しにチャットを消去しようとしたが、エラーが発生し

トップ画面に戻されてしまう。


「どうしよう消せない。」

「とりあえず行くか。」

「行くって何処に!?」

「何処って・・・。何処だ。」

直樹と顔を合わせ、とりあえず身体が覚えている通り電車に乗り

次の駅にある 何かに向かい始めた。


「・・・良二。もしかしたら俺達とんでもない事に手を出したんじゃねぇか。」

「でも・・・!そんな漫画見たいな事ある?」

「俺もわかんねぇよ!わかんねぇけど・・・兎に角なんとかしねぇと。」

「なんとかって。」

「・・・このままだと俺達の言葉が消えてしまうだろ。」

「・・・そうだね」

「とりあえず、もうそれは使うなよ」

「わかってる。」


沈黙が続き、次の駅に辿り着き

いつもの様に同級生達が何処かへ向かって行く。

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