第2話 Larva

グランドには、野球部とサッカー部が続々と準備に取り掛かっている。

校門を過ぎ直樹が背筋を伸ばし、仕事終わりにビールを飲むお父さんの様な声を上げた

「くー!あと1週間だー!」

「呑気でいいよな。直樹は」

「呑気じゃねぇーとやってられっかよ」

直樹がまた背筋を伸ばし終えるとまた澤田との話題に切り替わった。

「で?良二なりの作戦は練ったのか?」

「・・・作戦?」

「そうだよ。澤田と距離を縮めよう作戦」

「なんだよ。そのままだな」

「だって楽しみじゃん。もし上手く行ったら俺は嬉しいし。失敗しても次行けばいいしな」

「お前な。まだ始まってないんだぞ」

「始まる前から終わりかけてたのは、どこの誰ですかー?」


直樹の一言に、少し沈黙が生まれてしまう。

沈黙を遮るように直樹が呟いた。


「俺さ。やっぱあの時悔しかったんだよな」

「・・・」

直樹の言葉の意図は、すぐにあの日の苦い思い出の事だとわかった。

中学3年になった僕は、ずっと思いを寄せていた女の子を勇気を振り絞り放課後呼び出し

直樹が見守る中、告白するも撃沈した事。


今思えば脈すらない無謀な戦いだった。

告白するか迷って辞めようとした時、告白しなきゃ一生後悔するぞと背中を押してくれた直樹。

あの日があるからこそ、直樹は僕の恋愛に対して積極的になってくれる事もわかっている。


「直樹。今度は絶対に自分の力でなんとかするよ」

自然と出たその一言に直樹は、また笑顔で答えてくれた。

「俺に出来る事なんてお前を応援する事だけだからさ。だから精一杯俺はエールを送るよ」


それから少しバイトの愚痴やゲームの話で盛り上がり、電車に乗り

一駅越えた自分達の住む街に戻ってきて直樹と別れ

20分程歩いて自宅に辿り着いた。


自宅に入り携帯を確認する。

グループチャットを確認すると20件もの未通知が溜まっていた。

直樹からの応援メールも届いていた。

想えば携帯が、これほど鳴ったのは、中学の卒業式以来ではないか。

思い出に浸りながらメールを確認すると、身に覚えのない招待メールが届いていた。


送り主:不明。

【貴方の大切なコトバを、コノ子に教えてクダサイ】


なんだこれ?

メールを開くと。

画面中央に、アニメタッチの幼虫がこちらを見つめている。


「なんだこれ?」

少し考えて【 友達 】と打ち送信すると

幼虫は、喜んだように上下に身体を動かし画面上に表れた【 友達 】という言葉を食べ始めた。


違う違う。こんな事してる暇ないんだ!

グループから澤田の個人チャットを開き勇気を振り絞り

【こんばんわ。同じクラスの園部です。】

まで打つも、まだこの時間だ。

もしかしたら矢野達と一緒にいるかもしれない。

そんな中、僕からの個人メールが来て、同級生に言われるのも。

急に不安になり携帯を閉じ、自分の部屋に戻りベットに横たわる。

そして自分の意気地なしな部分が嫌で、気晴らしに音楽を聴く。


「良二ー!ご飯出来たよー!!」

母の声に、目を覚まし時計を確認すると時間は、19時45分。

やばっいつの間にか寝てた。と1階へ降り夕食を食べ

お風呂に入り。携帯を確認し勇気を振り絞り澤田にメールを送ろうとするも

グループチャットで、矢野が今日の課題についての質問が入ってしまい

どうしようもなくなってしまった僕は、また明日にしようとベットに横になった。


次の朝。

携帯のアラームと同時に母の声によって目が覚め

制服に着替え下に降りて朝食を食べ

学校へ向かう。


駅に着くと直樹が、ニヤニヤしながら近づいてきた。

「どうだったんだ?」

「実はさ。」

直樹に昨日の自分を話すとヘタレと呆れ同時に溜息をつく。


「ゆっくりでもいいけどさ。せめて夏休みまでには何か仕掛けとけよな」

「わかってるけどさー。」

責められるのが嫌になり話題を昨日の招待メールに変えた。

「え?幼虫?お前そんな事に時間費やしてたの?」

「違うよ。なんか大切な言葉を教えてくださいって来てさ」


そう言って昨日の画面を直樹に見せた所で、電車が到着し

乗り込んだ。


「なんだこれ。あれか?今流行ってるネコに言葉教えるゲームのパクリか??」

「わかんないけどさ」

「で?何教えたんだ?澤田とかか?」

そう言ってまた直樹は、楽しそうに微笑んでいる

「違うよ!あれだよあれ・・・。」

「あれってなんだよ?」

「・・・あれだよ。」

「あれ?」

‟あれ”?なんでだ。思い出せない。幼虫に打った【言葉】を。


「ほら俺達の事だよ」

「幼馴染?」

「違う。仲いい奴の事」

「仲いい?あー!」

そう言うも直樹も、言葉を詰まらせる。

「あれだよな!わかるよ!あれ・・・えーと。」

「あれだよね。ずっと一緒にいる奴の事」

「そうなんだよな。くそー!ここまで出てるのになんでだー!!」

苛立ち始めた直樹が、話題を変えようと幼虫に何か言葉覚えさせようぜと言いだした。


「そうだな。もしかしたらそれで思い出すかもしれないしね」

そう言って二人で何を覚えさそうか相談した結果


【 夏休み 】という言葉を打ち込み、昨日と同じ様に

幼虫は、喜んだように上下に身体を動かし画面上に表れた【 夏休み 】という言葉を食べ始めた。


「こうして見ると可愛いんだな。」

直樹が夢中になり始め

「どんどん覚えさそうぜ!」と言い始めた時

電車が学校のある街に着いていた。

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