僕の言葉、君に捧ぐ。
ウキイヨ
第1話 Egg
この物語は、とある夏休み前のいつもと違う。
星の降る夜まで続いた僕と彼女と同級生達を巻き込んだ。
少し不思議な1週間の物語である。
蝉時雨が鳴り響く校舎は、あと一週間で「夏休み」と言う僕等、
学生に取ってのこれからの楽しみで浮かれる者ばかりだ。
けど僕は違う。
予定もなく恐らくバイト三昧の日々が待ち受ける夏休みが
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、周りの皆はまた夏休みの計画を話し始める。
嫌気をさし携帯をいじっていると、隣のクラスの幼馴染で僕とは正反対で陽気な
面白がって僕の顔を覗いてきた。
「
「夏休み、夏休みってな。知ってるだろ?予定ないの!本当夏休みなんてなくなればいいのに!!」
直樹は笑いを堪えながら、僕の携帯を取り上げてきた
「何すんだよ!」
「アハハ、お前って奴は。だから澤田に振り向いて貰えないんだよ!」
馬鹿!と携帯を取り返し、澤田の方を確認する。
良かった。彼女は友達と話すのに夢中になってこっちの話なんて聞こえてない。
澤田あゆみ。彼女は背が低くショートヘアーで、それでいてお
僕がイメージする「女の子」と言う言葉がぴったり似合う。
密かに思いを寄せる女の子だ。
「彼氏いないらしいぜ」
直樹がまたたぶらかすように僕にちょっかいをかける。
「知ってるよ!そんな事!」
「チャンスじゃん!良二。告っちまえよ」
「・・・出来る訳ないじゃん。」
そうだ。こんな僕なんかが、彼女に告白出来る訳がない。
高校に入って3ヶ月。彼女と話したのなんて挨拶とプリントを回収する時の「はい」だけ。
彼女と接点なんて同じクラスなだけ。
「良二。実はな朗報を持ってきたのだ」
「朗報って澤田に彼氏いない事だろ?」
「実は!」
そう言うと直樹は、自信満々に自分の携帯を僕の目の前に持ってきた。
画面に映っているのは、日頃よく使うSNSのグループチャットだ。
「これが何?」
すると直樹は呆れた顔で画面を指さす
「よーく見てみ?」
僕は、目を凝らして画面を確認した。グループ名‟夏休みはっちゃけ隊”?
実に学生らしくふざけてるなー。とメンバーを見ていると。
そこに澤田あゆみの名前を発見し発狂しそうになった。
直樹の名前もある。直樹の顔を見ると凄く鬱陶しいドヤ顔をしている。
「実はさ。夏休み皆で花火大会行こうって話になって今女子5人。男子5人集めてんの」
「ちょっと待て!なんでお前がこのグループに?」
「いやー。
香織?あー。僕と直樹と同じ小学校だった兄貴がいるからか男勝りで、
おちゃらけ系の渡辺香織か。
「いるね。あれ?お前仲良かったけ?」
「家近所だしな。んで香織が誘ってくれてさ」
いいなー。僕も渡辺と仲良くしとけば良かった。
「で?何?自慢しに来たの?」
「捻くれてるねー。言っただろ?朗報だって?」
その一言に、何故だろうか。鼓動が早まった気がした。
「実はさー。女子5人集まったんだけど、男子あと1人足りないのよー。」
「え!?マジ!?」
僕が喜んだ事を良い事に、直樹は澤田や他の女子が話してる所に行って、声をかけ始めた。
「澤田さん!矢野っち!」
「どうしたの?中野君?」
澤田さんの声だ。嗚呼なんて心を癒してくれる声なんだ。
「あと一人なんだけど、良二が丁度空いてるみたいでさー。」
えっ!?
「良二って・・・。どんな子だっけ?」
ほらー。矢野なんて僕の事わかってないじゃん!!
「園部君だよ。ほらあそこの席に座ってる。」
澤田ーッ!!僕の事わかってくれてたのかーッ!!
「そうそう、園部。いいかなーあいつでも?」
「いいんじゃない?ねぇあゆ。」
「うん。いいよ」
ありがとうーッ!澤田!直樹ーッ!!あと矢野!!
その反応を見て、嬉しそうに戻ってくる直樹は、こっそり僕の耳元で
「お昼ご飯よろしくな」と囁き自分のクラスに戻って行った。
直樹が教室に帰っていくのを確認し、すぐに送られてきた招待により
グループチャットに参加した。
休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響き静まり返る教室の隅に
未だに僕の鼓動が鳴りやまなかった。
この日受けた授業のほとんどを僕は覚えていない。
ただただ嬉しくて。ただただ澤田との共通点が増えた事が誇りに想った。
気が付くと、午前の授業は終わりお昼休みの合図が鳴る。
未だに震える身体に、ブルルっと携帯のバイブレーションがズボンの右ポケットで振動した。
すぐに確認するとさっき入ったグループチャットで矢野が、僕に自己紹介を要求している
【園部っち、自己紹介よろー。】
震える身体を深呼吸で一旦落ち着かせ返信をゆっくり打つ。
【2組の園部良二です。直樹の紹介で入りました。よろしくお願いします。】
自分でも固い挨拶だな。と、自分の文章を見て想っているとすぐにまた携帯が振動した。
【固ェなw 良二(≧▽≦) まぁ俺の同級生だからよろしく頼んます♪】
直樹らしい返信で、また少し落ち着きを取り戻した。
ふーっと息を吐くと。また携帯が振動した。
【園部君。同じクラスの澤田あゆみです。夏休み楽しもうね(#^^#)】
そのコメントを見た瞬間、顔がにやけてしまった。
澤田の方を見ると、ぺこりと一礼し手を振ってくれた。
もうそれだけで僕は十分だった。
あの憂鬱だった1限目終わりまでは、なんだったんだ!?と自分にツッコミながら
澤田のコメントを見ていると次々に同級生から返信やスタンプなどで、いつの間にか澤田のコメントが
画面から消えてしまっていた。
必死にスライドして画面を戻すも次々と入るコメントにスライドが追い付かず
少しだけ不機嫌な顔になってしまった所に直樹がお昼ご飯を奢ってもらおうと僕を誘いに来た。
「楽しんでるなー良二。」
どうやらご機嫌そうな様子の直樹。
必死に照れ隠しするも、直樹はお見通しの様でニヤニヤしている。
また携帯のバイブレーションが鳴ったとは思ったものの確認せず直樹と食堂へ向かった。
廊下を歩いている時も直樹は自分の事の様に嬉しそうにしている
「良かったなー。良二。俺は凄く嬉しい!」
「あのな。でも澤田と直接メールした訳じゃないからさ」
「そこはお前次第だろ?応援してんぞ」
「うっせー。」
食堂に着くや否や早速今日の日替わり
遠慮する仕草もなく直樹は、大盛カツ丼を平らげる。
「で?これからどう攻め落とすつもりなんだ?良二君。」
「え?」
「え?じゃねぇよ!澤田の事だよ!」
「うーん。」
「うーんってなお前。折角スタートラインに立てたんだ。色々あんだろ」
「澤田と直接メールする・・・とか?」
「いいな!その意気だ!」
「でもさー。勇気ねぇわ」
弱気な僕の発言に直樹は、箸を止め呆れたように話を続けた。
「良二、別に俺は面白がってお前をこのグループに誘った訳じゃないんだぞ」
「わかってるよ。」
「お前にとって簡単なことじゃない事くらい百も承知。俺だって好きな子になんてどう打とうかなーとか悩むよ。」
「直樹でも?」
その一言が意外だった。誰とでも仲良く過ごせる直樹でも異性ではそうなるんだと。
「当たり前よ。俺達小心者だろ?」
「ハハ。言えてる。」
「きっかけなんてなんだっていいよ。同じクラスなら明日の課題なんだっけ?とかでもいいじゃん」
「頭いいね!」
「だろ?そっから趣味とか聞いちゃえばいいんだよ」
「そっか。そうするよ!」
「おぅ!頑張れよ!良二!」
嬉しそうに微笑んだ後、直樹は再びお箸に手をつけカツ丼を食べ始めた。
直樹からのアドバイスを早く実行したくて午後からの授業もまた頭に入らなかった。
次の休み時間に送ってみようかな。
いやでも帰り際に直接聞かれるのも怖いし。
やっぱり帰ってから送ろう。
長い1日を終え帰宅の準備をしていると直樹が迎えに来た。
「帰るか」
「・・・だな。」
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