平行線・2
四時間目が終わると、私の周りには誰もいなくなる。
各々は、各々で、仲の良い友人のところへ行って、昼食をとる。テラスへ行く者、カフェテリアへ向かう者、机を移動させて臨時テーブルを作る者。
離れ小島のようになった自分の机の上で、私は一人でお弁当を開ける。
今朝、私が作った。
母は作ってくれないから。
同じ料理でもレストランの料理と私の料理では、どうしてこうも味が違うのだろうと、機械のように卵焼きを口に運ぶ。まあ、そもそも腕の違い、というのも一因だろう。でもそれは上達すると解決できる部分ではある。
では一体なんなのだろう。
わくわく感がないのだ。
どんな料理が出てくるのだろう。パスタを頼んではみたものの、香りも見た目もわからない。それがレストランだろう。
対して、私のお弁当は、今朝、自分で味を調え、香りも見た目も知っている。心が躍らないのだ。
だから。
尿意が来て、トイレに立つ。
教室を出ていく際、視線を感じた。嫌な感覚だ。全身をなめられている。クラスのマイナスエネルギーが凝縮され四方八方から、浴びせられる。
ご苦労なことだ。
毎日毎日、私を嫌い続けるなんて。
何かされているならわからなくもない。
例えば。
私がある子の靴を隠しただの、教科書を破いただの、落書きをしただの、ネットに顔写真付きで悪口を書いただの、出会い系サイトにその子の名前で登録しただの、そういうことを私がしてきたなら、まだ憎しみをこちらに向けるのは、理解ができる。
それは思う存分、恨んでいいし、きちんと仕返しをすべきだ。
でも、そんなこと、やってないしなあ。
私は。
むしろ、私がされているのだ。
次から次へと、よくもまあ、別の道を歩いている人に対して、憎悪の感情を持ち続けられるものだ。
便座に座り、便座から立つ。
生理も今月はもう終わりが近そうだ。
月初が予定日なのに、今月は二週間遅れた。
精神的に不安定ってのもあるだろうなあ。心に負担がかかっているとは、思いたくもない。
いくら心を外に出しているとはいっても。精神っていうのは膨大な量の水みたいなものだろう。
いくら外に出しても、残りはやっぱり私の中に残り続ける。
手を洗って鏡を見て、充血している両目を見る。瞬きをしたら、涙がこぼれてきそうで、もういっそ涙くらい流しちゃえと鏡の中の私に提案してみようとしたとき、他の生徒がトイレに入って来る気配がしたので、急いで目を蛇口の水で洗い流した。
私の何かが、排水溝に流れていく。
廊下を歩いていると、にゃあ、と猫の鳴き声がした。
「あ、ハバル。元気?」
にゃあ、ともう一度鳴いた。
白と茶色の縞模様の猫が、私の足元にすり寄ってきた。
明日はエヴリンハバル 芙野 暦 @hiroshot
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