第193話 明秋と呼春ちゃん:非常に合理的なアプローチ
「
「じ、実用……」
「この場合の実用ってさもなくば
なお私が反省することは無いらしい。3人の話はいかに私に料理をさせないかという点に終始していた。ミスを人間の注意力によって完全に防ぐことはできないという視座のもと、システム的な取り組みによりそもそも
明秋はまた買い物に行った。
フィリーがこの家の食材を食いつくしたせいだ。おかげで荷物をたっぷり積めるPS250が早々に大活躍 ——と言えば聞こえは良いが、そもそもフィリーがこの家に来た原因の半分くらいはPS250なわけで。マッチポンプ……。
「でもこれで料理人が仲間になったわね!」
だからお前はどこの海賊なんだよ。
フィリーご希望のクリスマスパーティーだが、なし崩し的にこの家で催されることとなっていた。クリスマスに親が不在なことと、明秋が完全にリベンジに燃えているからだった。次こそ満腹にしてみせると意気込んでいたが……グッドラック。鎌倉で泊まった宿の料理を作ってくれた人の偉大さが今更理解できた。
「取ったらダメですよ。私のですから」
呼春ちゃん、口元は微笑んでいるけど目は一切笑っていなかった。メガネの奥の眼光が冷たすぎであった。
「あなたホントすごいわね。めちゃくちゃ外堀埋めてそうだわ。もうお父さんとかに紹介した?」
「もちろんしました。明秋を見てすぐに心が折れたようでした」
「ああ……」
「まぁあの顔を連れて来たら無理もないわね……」
「今では明秋が遊びに来るのを楽しみにしていますよ。ウチは3姉妹なので男性が父1人では何かと肩身が狭いのでしょう。『明秋くん来ないのか?』『明秋くんの料理が食べたいなぁ』とかしょっちゅう言ってますよ」
カノジョの父親の胃袋を掴んでやがる……。
「なるほど、参考になるね」
「他に何かないかしら?」
何の参考になって他に何があるというのだ。
「……本音を申し上げると、運の要素は多分にありますね」
「というとどういうことかな?」
呼春ちゃんは珍しく歯切れが悪い様子で語り始めた。
「あー、えーと、まあ何と申しますか、私と明秋が出会ったのは中一の夏なのはご存知の通りかと思いますが」
いえ、存じてないです。
「お恥ずかしながら、あの頃の私の食生活は終わっていまして」
えへへと彼女は笑った。
「夏休みの間は学校のコンピューター室を借りて作曲ソフトで作曲をしつつお昼ご飯も学校で食べていたのですが、当時シンセが欲しかった私は、少しでもお金を溜めようと昼食代としてもらったお金をまともな食事に変換しなかったわけです」
「例えば?」
「家の冷蔵庫にあった1/4レタスをくすねてきてそのままマヨネーズかけて丸かじりとか、生のナスにそのまま噛みつくとかです。」
「「……」」
分かる。たまにやる。キャベツの葉っぱ1枚剥がして食べるとか。
「それを明秋に見られました。ドン引きしてましたね」
分かる。あいつはそういう時すごい顔をする。
「即座に料理研究会……家庭科室に連行されました。『姉さんを見てるようで放っておけない』と」
おい待て。なんだその理由は。分からんぞ。
「その後はもう、夏休み期間中に登校したらお昼は餌付けの時間ですよ。あの顔で必ずごはんに誘いに来るし、Noと答えたらシュンとしてYesと答えたら嬉しそうにするし、美味しいと言えば超嬉しそうにするんですよ。胃袋とハートを鷲掴みにされるしかないじゃないですか」
胃袋はともかくハートまで掴まれる必要はないんじゃないかな。
「と話は戻りますが、これは運というやつに他なりません。私があの時にあまりにもテキトーな食事をしていて明秋に見られた。一方そのころメグ先輩は日常的にあのレベルの食事をして明秋を心配させていた。つまり――」
呼春ちゃんはソファから立ち上がって私のところまで来ると、私の両手を包むようにして掴んだ。
「私たちのキューピッドだったのです! メグ先輩の終わってる食生活が!」
どう反応したものか分からなかったので、とりあえず帰って来た明秋を説教しておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます