第176話 神奈川三浦エリア:おみょみゅむむ!?
「はぁ~、やっぱり大きなお風呂は気持ちいいわねぇ~」
浮いていた。
何がとは言わないがフィリーのアレが湯船に浮いていた。教室にいる時の私と良い勝負をしている。噂には聞いていたが実際に見せられると唖然とすることしかできない事象パート2であった。
「す、すっごいねぇ」
「ミソラもけっこうあるじゃない」
「はぇ!?」
「ていうか、メグよりミソラの方が大きいのね」
「ひっ!?」
未天が自分の胸元を隠すように身を縮める。やめろよ怖がっているじゃないか。いや、その仕草は可愛いのだが。
「わざわざ言及する必要はないと思う」
「みんな気になってるかなぁって」
みんなって誰だよ。
「んぁー、やっぱりカメラ回したかったなぁ」
「普通に犯罪だから」
「見えなきゃオッケーなんじゃない? そうだ! 見えちゃいけないところには広告出しておきましょう!」
「広告」
「我ながら素晴らしいアイデアだわ! いつまでも濃すぎる湯気とか謎の光じゃ芸が無いし、見たがるでしょう視聴者は!」
たぶんだけど見たいのは広告ではない。
「ミソラ! あなたのゲームの広告出さない!? このくらい万円で!」
フィリーが両手で金額を示す。普通に生々しくて実現可能性のある金額なのでやめてほしい。
「×アイコンで消せるやつ?」
「消せないやつ!」
「……もしかしてその広告枠を買えば広告自体を消すこともできたりする……のかな!?」
未天さん?
「消せます!」
消せるなよ。それだと広告の意味ないだろうが。
「う~~~~~~ん、悩むなぁぁぁ……!」
悩まずビシっと断っていただけないだろうか。頼むから。
お湯から上がった。
脱衣所で湯上りにするべき諸々をする。肌の保湿とかそういうのだ。
「や~ん♪ ミソラのほっぺもちもち♪」
「おみょみゅむむ!?」
3人して洗面台と向かい合っている。隣では風呂に入る前のアレのお返しとばかりに、未天がフィリーにほっぺむにむにされていた。正直、私もやりたい。
自分の湯上りルーチンが終わった頃、ふと隣を見るとフィリーはまだタスクが残っているようだった。人目を強く浴びる人間だ。気を使うことも多いのだろう。
「……手伝おうか?」
「?」
フィリーがきょとんと首をかしげる。まだ濡れている髪が彼女の肩に載ってくにゃりと曲がった。
「髪とか乾かそうか?」
「別に自分でやるけど……ああ、先に戻ってくれていいわよ?」
早く戻りたいから急かしているわけではないのだが。
「あ、わたしも手伝おうか? わたしもドライヤー持ってきてるし」
ドライヤーを構える未天に合わせて私もドライヤーを構える。それが可笑しかったのだろう。フィリーはぷっと小さく笑った後、じゃあお願いするわと笑った。
「わーい、お嬢様みたーい♪」
イスに腰かけ、私たち2人にお世話されてご満悦なフィリー。左右から温風を浴びる金色の髪がふわふわと揺れていた。風が駆け抜ける実り豊かな麦畑か、あるいは暖かく降り注ぐ太陽の光を思わせる。自分の長さでも面倒だと思っているのに、フィリーの髪はそれ以上にずっと長い。それをこの美しさで保っているのは、さぞ手間をかけているのだろうと素直に感心する。
「ねぇねぇ、ゴハン食べたあと何する? 私、枕投げしたい!」
どうか1人でやっていただきたい。
「あ、じ、実はわたし、花火とかやってみたいなぁ、なんて……」
「良いわねミソラ! あー、でも外寒いし乾燥してるからやめた方がいいかもしれないわ」
急にまともなこと言うなよびっくりするだろ。
「来年の夏にやりましょう! どこでやろうかしら? 花火ができるツーリング先を探さないと♪」
「あはは、ツーリングが前提なんだね」
「当然! 任せて! 花火ができる最高のツーリングスポットを見つけとくからスケジュール空けといてね! メグもわかった?」
「はいはい」
「よろしい!」
一体どれだけ先の予定を押さえるのやら。少し呆れもする。
だがしかし、こうしてゆるゆると未来を想うことは、どこか似通うところがあるらしい。つまり、大きな湯船に体を沈めた時の心地良さに、それはどこか似ていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます