第172話 神奈川三浦エリア:ぜったいに付き合わないぞそんな企画……!



 衝撃的な事実が判明した。


『私のチャンネル、バイク系チャンネルなんだけど知ってた?』


『『え?』』


『その反応、言っておいて良かったわ。さっきから街をぶらぶらして食べてばっかりだからみんな忘れちゃってるかなー? って思ってたのよ。このチャンネルはグルメ系じゃなくてバイク系! 覚えておいてね☆』


 マジか。フィリーのチャンネルってバイク系チャンネルだったのか。他のバイク系の動画投稿者に訴えらないといいが。……訴えるのはフィリーだけにしてくれ。頼む。


『で、私たちどこに向かって走ってるんだっけ』


『次の目的地は―― 城ヶ島です! 拍手!』


『拍手は無理だろ』


 両手がふさがる乗り物を運転中だろうが。


『信号待ち! はい、拍手!』


『楽しみだねー』(パチパチパチ)


未天みそら、律儀に拍手しなくていいから』


 城ヶ島が楽しみじゃないわけではない。状況が許せば拍手もしよう。ただし今は運転中だ。そしてフィリーの良いように未天が利用されているのも承服しかねる。


 私たちは横須賀をあとにした。名残惜しい。が、次の予定も明日の予定もある。それに物足りないからこそまた来たいと思えるものだろう。そういう活力は、意外と得難い。






 城ヶ島。


 つまり三浦半島の南端だ。そこを目指してオートバイを走らせている。


 海沿いの道だ。海面がとても近い。エンジンを止めれば波の音が聞こえるだろう。


『やっぱり海沿いの道は気持ちいいわね! 景色が良いし、信号少ないし。あ! スピード出し過ぎちゃダメよ! メーターにモザイクかけるの面倒だから』


『面倒だからかよ』


 そこは模範的ライダーを目指す者として、とか言ったらどうなんだ。


『理由はどうあれ、安全に運転できるなら良いのよ』


 まぁ、それはその通りだろう。


 左手には青が広がっている。対岸が見えているのは房総半島だろうか。あの対岸から、逆にこの場所を眺めたりする機会もそのうちあるかもしれない。


「……」


 ふと【対岸からお互いの姿が見えるかどうか実験してみた】みたいな企画が脳裏をよぎった。が、それをフィリーに言うと実験に付き合わされるに決まっているので黙っておく。


『へぇ、千葉が見えるのね ――あ、そうだ! 【千葉と三浦でそれぞれ分かれてお互いの姿が見えるか実験してみた!】って企画はどうかしら!?』


 ぜ、ぜったいに付き合わないぞそんな企画……!


『う゛っ』


『え? メグからダメージ受けたみたいな声が聞こえたんだけどどしたの?』


『メグちゃんどうかした?』


『……なんでもない』


 決して自分の発想がフィリーと同レベルだったことにショックを受けたとかではない。断じて違う。


 ガソリンスタンドが現れたあたりで道は内陸側に反れていった。海から離れていく。ナビが示す城ヶ島への最短ルートとは合致していた。


 城ヶ島は三浦半島の南西側にある。一方で、いままで私たちが走っていたのは三浦半島の東側の海岸だ。城ヶ島に向かうのであれば順当な道筋だ。


『ちょっと遠回りして良いかしら?』


 半島の海岸線沿いを回っていっても良かったかも、なんて思っていた時だ。フィリーから提案があった。


『海沿い行く?』


『ううん。三浦半島の山? 丘? の上にすっごい広い畑と農道があるらしいの』


 それは予想外な単語の組み合わせだった。


『動画にした時にここまではほとんど海辺の映像になると思うから、また違った画柄の映像があると見てて楽しいと思うのよね。あと、走るとぜったい気持ちよさそうな道だった!』


 農道。


 山梨で走った農道は記憶に新しい。夢中になって走った道だ。


 あちらは盆地の斜面の農道だったが、こちらは周囲を海に囲まれた地形だ。きっと、いや必ず異なる風情があるに違いない。


 見てみたい。


『わたしは全然良いよ~』


『行きたい』


『お。メグが思ったより乗り気ね。じゃあレッツゴー!』


 バイク系チャンネルっぽくなってきた。



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