第161話 神奈川三浦エリア:私のように眩しい太陽が!



『寒い!』


 耳がキーンとしないのは、インカムが良い感じにボリュームを調整してくれているからだろう。


『寒い! 腹立つ!』


『気候に腹を立ててもどうしようもない』


『あはは、怒りのボルテージで多少は体温上がるかもね。確かに寒いし』


 東名と新東名が合流して御殿場を通過している。高速道路はここから山間部に突入する。


『あ゛ー! 最高標高454メートルとか書いてあるし! 余計に寒く感じるじゃない!』


 東名高速道路の最高標高地点は御殿場にあり、フィリーが言ったとおり標高454メートルだ。山中湖の標高980メートルと比べると半分程度だが、それでもずいぶんと登って来たことになる。こころなしか気温も下がった気がする。


『太陽がありがたいわ』


 それはその通りだ。出発した頃はまだ周囲は真っ暗だったが、今はもうずいぶんと明るくなっていた。オレンジの光が混じっているが、太陽は直視できない程に光を放っている。


『そう私のように眩しい太陽が!』


『太陽に謝れ』


 フィリーが太陽並みにあたたかくて暖を取らせてくれるなら話は別だが。






『それにしても、認めたくはないけど、3人だと走りやすい』


 ここまで違うとは思わなかったというのが本音だ。

 単独で走っていると何かと肩身の狭いバイクだ。まるでこちらが存在しないかのようなふるまい――中途半端な車線変更でこちらの横スレスレを追い抜かされたり、ともすれば煽り運転も同然な所業——を四輪車にされるのは日常茶飯事。


 一方で今はどうか。非常に快適だ。道路上のかなりの範囲を3台のバイクで制圧しているおかげだ。


 万が一の場合に巻き込まれないようにするためか、後方の車両はフィリーのかなり後ろにいる。そのフィリーとの間には前後に3秒間ほどの距離を取った未天みそら。そして私は前方の大型トラックに対し5秒ほどの距離を確保していた。


 バイクの群れの中に突撃してくる四輪車もそうそう無く、ここまで無理な割り込みや追い越しは一回もされていなかった。運転中のストレスは軽減され、連動して疲労も軽減していた。



『メグも分かってきたわね。このまま私ナシではいられない体にしてあげるわ』


『チッ』


『え!? いま投げキッスした!? きゃー! お返ししちゃう! ちゅっ♪』


『正真正銘の舌打ちだけど???』


『そのやり取り普通ぎゃくだよね? 舌打ちしちゃって投げキッスだって誤魔化すやつ……』


『未天、この手のやからは自分に都合よく物事を解釈してくるからはっきり示さないといけないんだよ』


『え? あの、完全に誤解を招く表現だったと思うけど……?』



 まさか未天にも投げキッスに聞こえたのだろうか。そんなはずあるまい。


『私たちが使っているのは高性能インカムだから、そういう誤解は生じない』


『インカムって何だっけ?』


 何なのだろうか。


『何気なく使ってるけど驚くべきものだよ。スマホでもないのに無線で通話できるし。通信制限ないし、しかもけっこう離れても大丈夫』


『その通り! 私たちは離れていても気持ちはすぐそばに――』


『あるかどうかは疑問だけど、便利なのは確か』


 ミラーの中にいる人間と会話できる違和感は正直ちょっと面白いし。


『1人で走ってると眠くなったりするけど、喋ってるとだいぶ軽減されるわよ』


『確かに。フィリーとしゃべってて眠れる気はしない』


『あはは。同じく』


『なんて殊勝な感想なのかしら! 話のネタならいくらでもあるから任せて! じゃあまずは――』


『未天、ミュート機能あるらしいよこのインカム。試してみようか』


『ちょっとー!!』


 フィリーが不満げに騒いでいる。理由に心当たりはない。インカムの機能を使ってみようと思っただけなのに。




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