第160話 神奈川三浦エリア:つまり私に早く会いたかったってことね?
「久しぶり!!」
「うるさい」
結局2人と合流できたのは富士川サービスエリアだった。浜松からだと約1時間半といったところで、久しぶりといえばその通りかもしれない。合流ポイントを決めておいて本当に良かった。
「おいしい! ファインプレー! ナイス撮れ高よメグ!」
私がSAに姿を見せてからフィリーはずっとこんな感じだ。この金髪はそろそろ1回くらい殴ってもいいのではないだろうか。殴らないにせよこのSAにある観覧車にぶち込んで泣くまで高速でぐるんぐるん回してやりたい。
「み、見事にはぐれちゃったねぇ」
あまりにも早すぎるフラグ回収にさすがの
「全然追いつけなかった」
ここで合流すれば良いと分かっているものの、あわよくば合流を試みたいのがライダーの
エストレヤだって高速道路を走ることが許されたバイクだ。無理をさせている気がするが、時速100キロ程度で巡航することもできなくはない。そしてエストレヤより高速道路に向いているとはいえ、のんびり走りたい人向けのバイクであるSR400やドラッグスター400クラシックの方も、追うものをぶっちぎって逃げられるほどの高速性能を持っているわけではない。
さらにいえば、追いかけて来る人がいると分かっているのなら、スピードは控えめになるのが世間一般
これらが合わさった際に導き出される結論は「まぁ、なんだかんだそのうち追いつくだろう」となるのが自然というもの。しかし、そうは問屋が卸さない。
「追い越しって案外できない。加速が苦手っていうのもあるけど、追い越し車線が詰まってることも多かった」
始めて高速を走るわけではない。追い越しをしたことも何度かある。しかしそれは無理なくできる範囲で、であって、隙あらば追い越ししたいような状況下ではもどかしいシーンの方が多いのが実情だった。それでもなお合流しようとした時、無理な追い越しやスピード超過は発生する。ドツボにはまるというやつだ。
「じれったいコトこの上ない」
「ふーん。つまり私に早く会いたかったってことね?」
「この話は終わりだ」
「SAって早朝でもけっこう人がいるんだね」
水筒のコーヒーをすする未天。彼女のメガネ越しの瞳は物珍し気にSA内を見回している。
「高速のSAとかPAはいつでも人がいるわよ。でもここは他より多いかもね。道の駅とSAが合体してるから」
富士川SA、もしくは道の駅
「プラネタリウムとかもあるんだって。へぇー」
「見ていく!?」
「まだ営業してないでしょ」
朝だ。早朝だ。営業開始時刻はまだまだ先だ。仮に営業していたとしても、目的地までの距離を考えればここでのんびりしている時間はない。
「いいなぁープラネタリウム! 恋人と一緒に座席で横になって『綺麗だね』『キミの方が綺麗だよ』ってお約束を囁くのよ! メグちょっとキミの方が綺麗だよって言ってみて!」
「夜空の星とドラッグスター、どっちが好き?」
「ドラッグスター!!」
即答だった。こいつにはロマンスは期待しない方が良いだろう。人のことは言えないが。
「……こんなところにいるなんて思わなかったな」
ぽつりとこぼれた未天の言葉に、私とフィリーの視線が集中した。
「あっ、『こんなところ』って悪い意味で言ったんじゃないよ! 予想外とかそういう意味! 朝早くに出かけて、来たことが無い所に来て、バイクがあって、でも見知った友達がいて……そんな景色。自分がそれを経験するなんて全然想像したことなかった。それが急に目の前に現れて――あはは、ちょっと驚くの早すぎたかな」
気持ちは分かる。ライダーの誰もが通る道だ。そしてそれが序の口だとも知っている。これから彼女が、私たちがかつて抱いてきた感動に出会えることを願って
「その疑問に答えてあげてもいいけど、まぁ……もっと走ってみれば分かるわ。答えはお楽しみということで、そろそろ行きましょ。無事合流もできたとはいえ、ハプニングで若干予定は狂ったからあんまりのんびりしているわけにもいかないわ」
「ハプニングを喜びまくってたヤツが言うセリフか」
「一人だけETCついてなくてハプニングの原因になった人が何か言ってるわ」
「あれは私のせいじゃない。ソロツーだったらあれはハプニングにならなかった。3人だったからはぐれたとか、はぐれなかったとかいう解釈が生じただけ。つまりあれをハプニングたらしめた原因は、3人だったこと」
「団体行動を全否定するロジックめっちゃ早口じゃん、
おいしいとか許すとか何様なのだろうコイツは。
「ていうか、はぐれたらインカムの案件的にNGじゃない? 通話できなくなるんだし」
「ちょっとメグ! もうはぐれちゃダメだからね!」
「いま気付いたのかよ」
先が思いやられる。
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