第159話 神奈川三浦エリア:メグちゃんそれはフラグだよ
『それじゃあ出発!』
『ん』
『はーい』
色とりどりのエンジン音がリズムを上げ、3人と3台は一斉にコンビニをあとにする。目的地は
『はぐれた場合の合流ポイントを先に決めておきましょ。富士川SAと海老名SA,
それから横須賀でいいかしら? 他の休憩は適時相談ということで』
複数人で走るマスツーリングでは、同行者とはぐれてしまうという事態がわりと発生する……らしい。そんな時に無理に合流しようとして過度なスピードを出したりすると事故を招くことになる。あらかじめ合流ポイントを決めておけば、はぐれてしまってもとりあえずそこを目指せば良い。慌てず騒がず、路上での合流を早々に諦める。それが安全につながる。
『了解だよ』
『わかった……けど、はぐれるとかある? インカムの通信範囲って最大1,000mとかあるみたいだし。お互いの現在地ぐらいすぐ共有できそうだけど』
『甘いわよメグ。高速道路の1キロなんて1分もかからないから一瞬よ』
『メグちゃんそれはフラグだよ。ミステリーモノの「こんなところに居られるか! 俺は部屋に戻るぞ!」並みの』
『さすがだわメグ。何だかんだ言って動画を盛り上げようとしてくれているのね。楽しみにしてる!』
勝手なことばっか言いやがって。意地でもはぐれてやるものか。
『これ、
信号待ちで尋ねる。3人の順番は前から私・未天・フィリーだ。こういう時はより運転に慣れている人が後ろというのが一般的と思っていたのだが。
『色んな考え方があるけどね。先導する人が1番ベテランの方がいいとか。今回は2人をフレームに入れておきたいから最後尾は
そういうことであれば理解できる。さしずめ露払いといったところだろうか。
『あとほら、エストレヤはスピードが……ゆっくり走っても楽しいバイクだし?』
高速道路ではスピードが速くなるため、それに応じてエンジンに求められる回転数も多くなる。
その点、ドラッグスター400クラシックはVツインエンジンでエストレヤより高回転に強い。
そしてSR400はエストレヤと同じシングルエンジンだが、ショートストロークと呼ばれる高回転に強いエンジン形式となっている。ロングストロークエンジンのエストレヤよりは高速域が得意だ。
そしてDS400CもSR400も排気量は400cc。大型バイクに片足突っ込んでるようなものだ。おかげでパワーも出る。特にSR400はビッグシングル(大排気量の
それにそもそもの話をすれば、250cc以下のバイクは基本的に高速道路は得意ではない。速度が出なかったり、速度が出ても瞬発的なスピードだったり、車体が軽くて風の影響を受けやすかったりするからだ。
『気が付いたら置き去りされてそうだし、このままで良い』
信号が青になって一斉に走り出す。
エストレヤではないエンジン音がずっと後を追ってきていた。音の発生源は当然、未天のSR400とフィリーのDS400C。最初のうちは時折
『いまから高速走るんだよね……き、緊張してきた……!』
『おやぁ? ミソラさんは高速初体験ですかぁ? これは良い悲鳴が聞けそうですねぇ!』
『ひええ……! ごっ、合流とか大丈夫かな!? かな!?』
『怖がらせるようなこと言わないでフィリー。未天、大丈夫だよ。この時間帯なら交通量は少ないから合流しやすいはずだよ』
『ミソラ、こう考えると良いわ。つまり……「初見プレイ」だってことよ!』
『楽しみだなぁ高速道路! どんな敵とアイテムが待ってるのかな! ショートカットとかある!? ワクワクしてきた!』
敵もアイテムもショートカットも無いと思うが……まぁ未天が良いなら何も言うまい。
高速道路のインターへ左折して間もなく、料金所のゲートが見えてきた。ETCは未だに装備していないので、一般ゲートに進路を取る。そのタイミングでヘルメット内にフィリーの声が響く。
『ミソラ、ETC付いてるならETCレーン行っていいわ。メグの後ろじゃなくて』
『わかったよ』
えっ。
思わずサイドミラーを見る。未天とフィリーの姿はすでになかった。ETCレーンに進んだらしい。右手を見ると、2人が早速ゲートに進入していった。そしてバーは無事に道をゆずった。未天のSR400はすでにETCを取り付け済みだったようだ。
『あ! こっ、これどうしたらいいの!? メグちゃんまだだよね!?』
『ミソラそこに止まらないで! 進んでいいから! ああ、ええと……! メグ! 後から追い付いて!』
『あ、うん』
『進んで進んで! 後ろの車つまっちゃう!』
『う、うん!』
2台のエンジン音が離れていく。たしかに料金所のETCレーンで停車しているわけにはいかない。そんなことをしていたら事故の原因になる。
その点、一般レーンはのんびりしたものと言えば聞こえはいいかもしれない。私はヘルメット内で響く『静岡方面!』とか『カーブ結構きついから気を付けて!』『後ろの車はガードしとくから落ち着いて!』『スピード上げて!』『オッケーオッケー!』とかいうフィリーの言葉を聞きながら通行券を取った。それをポケットにしまってようやく走り出す。
「お待たせ。追いかける」
言葉を投げる。
「? ……未天? フィリー?」
しかし―――― 反応がなかった。
「……」
上を見上げた。少し空が明るくなった気がする。深いため息を
「…………はぐれた」
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