第143話 山梨:するする
52号線をひた走る。
少し前に身延山へ続く分かれ道を通り過ぎた。個人的にはロープウェイがあるという印象が強い場所だ。山地に広大な寺院が築かれており、周囲には門前町が広がっているらしい。そのうち足を運んでみたいところだ。
(みのぶまんじゅうは……お店が開いてないよね)
みのぶまんじゅうは色々な所で販売されているが、有名なのは身延駅前のお店らしい。ただし身延駅は富士川を挟んだ対岸にあり、残念ながら現在のルートからは外れていた。それに例によってまだお店が開店していないだろう。帰りに寄るチャンスがあれば立ち寄りたい。
(ここが身延町かぁ……)
人家や商店、ガソリンスタンドなどが現れる。ぽつんぽつんという感じではなく、道沿いに立ち並ぶような感じだ。それに車どおりが一気に増えた。早朝というより朝という時間帯に入ったということもあるだろう。人々が動き出している。
(良い時に来たかも)
マンガだアニメだ高速道路だと、何かと話題の街となっている身延町。朝の陽射しを浴びる街並みは、見た目以上に明るく見える。
正直に言うと山奥の街という印象だが、近隣の都市部へのアクセスに優れ、本栖湖やクラフトパークといった観光レジャースポットもある。名物だってある。遊びに来るにはちょうど良い。全面開通した中部横断道はその後押しになるだろう。
(右に行くと本栖湖か……)
賑やかな十字路で信号待ち。地図で見た限り、右折してずっと進んだ先が本栖湖となる。以前行った山中湖と同じ富士五湖の一つだ。富士山の北西側にあり、山中湖との位置関係としては、富士山を挟んでほぼ反対側になる。おそらく互いの顔も見たことが無いだろうから、ひとくくりにされているのはちょっと困惑かもしれない。
富士川沿いの52号線をするすると進む。するするという言葉が本当に似合っていた。高速道路のようにかっとばすわけではなく、信号だらけでストップ&ゴーな街乗りとも違う。程よい速度で気持ちよく走ることができる。
緩いカーブを繰り返す道は、カーブをパスするたびに新しい景色を現れさせる。道をカーブたらしめているのはたいてい山の裾や崖で、前方の視界を遮りがちだ。それを回り込んだ先では当然視野が開ける。これが道を飽きさせない。次はどんな光景が待っているのだろう。そう思わずにはいられない。
しかしそれは間もなく終わった。太陽が高くなって空気が暖かく感じられるようになったころだった。
(……遠くの山が見える)
遥か彼方、うすぼんやりとした山の連なりが見えた。初めて見る山だ。八ヶ岳だろうか。浜北の方に行くとみられる山々は南アルプスの南麓だが、いま目の前に見える山々は、浜松からは絶対に見ることが叶わない。南アルプス南麓と比べると、あの山々はずっと北にある。
(甲府盆地に入ったのかな)
入ったのだろう。川岸にひしめくように並んでいた道路や建物が広範囲に広がり始める。マンションと思しき建物や、高層化した公共施設も姿を見せ始めた。道路の両脇には広々とした耕作地があり、先ほどまでと比べると空間的な余裕がかなりたっぷりとしたエリアだった。
(これが甲府盆地……)
夏は猛烈に暑く、冬は猛烈に寒いと噂。春や秋はどうなのだろう。そんなにいうほど果樹園だらけなのだろうか。富士川の起点はどこにある?
(いやぁ)
そんな興味がジワジワと湧いてくる。本か何かで調べればわかるんだろうし、それを調べるために来たわけではないが、目の前にあるなら見てみたい。そういうものだろう。
(来ちゃったなぁ)
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