第100話 東京:重要なので



(空いてた空いてた)


 下道を移動して羽田空港まで戻ってきた。道中見られた巨大な建造物が無数に臨海している、土地が貴重な大都市特有の光景は目に新しかった。埋め立てて造った土地もあるだろう。無駄にできるスペースなどありはしない。


 空港の建物が見えてからは案内に従ってバイク用の駐車スペースを目指した。静岡県内で見られた罠分岐なんて目じゃないくらい複雑なルートが伸びていたが、あれでも最大限分かりやすいように作られたのだと思われる。空港の周りを15分くらい彷徨さまよったのはナイショだ。


(1日駐車して500円……なんて良心的なんだ)


 ちなみに自動車の方は1日で1,500円くらい。浜松のコインパーキングは700円上限くらいがせいぜいで、1,000円以上のところなど見たことが無いが、東京でこの値段は良心的なのだと思われる。


 きちんと白線で区切られた駐車区画が用意されていて、隣との間隔をそれほど気にせず駐車することができる。金属製の輪留めが付いていて、チェーンがあれば地球ロックで防犯できるが、ここならよっぽど安全だろう。


 ヘルメットをロックにかける。その拍子にヘルメットの側面に貼り付けたステッカーが見えた。


 何日か前、フィリーから郵送されてきたものだ。スポークタイプのタイヤとVツインエンジンを背景に、金色の星が描かれたエンブレムがプリントされている。何を隠そう、フィリーが運営するのウィーチューブチャンネルのアイコンと同一のものだ。ようするに、彼女のグッズらしい。住所を尋ねられたので何かと思えばこんなものを送り付けてきた。


 彼女のファンだと思われるのは心外だ。しかしながら、このエンブレムはなかなか良い。スポークタイヤと星はエストレヤに通じるものがある。ヘルメットに貼ってもエストレヤとの調和にそれほど影響しない。


 そしてグッズを買ってしまうほどの彼女のファンなど、ヤバいやつに決まっている。私ならフィリーのファンと分かれば近づかない。つまり、これはある種のお守りというか、警告として機能する。触らぬ神に祟りなしだ。


 というわけで、フィリーからもらったステッカーは死蔵されることなく、ヘルメットの側面に貼り付いていた。ここにヘルメットを残していくのは少し抵抗があるが、かといって東京の街をヘルメットを抱えて歩く気にはならない。ステッカーの効果に期待しよう。


 それからとぼとぼと歩いて電車……というか、モノレールの乗り場まで向かう。ちなみにすれ違う皆さんはやっぱり半袖で、長袖なのはサマースーツのビジネスマンくらいだった。間違ってもデニムジャケットを着ている者などいない。私以外は。


(天王洲アイルで降りてりんかい線か……天王洲アイルって実在の地名だったのか)


 なにげにモノレールは初体験なので興味はあった。滑り込んできた車両は当然1本のレールを抱え込む形状をしていて、タイヤを挟み込むようなフルカウルを持つオートバイを連想させた。モノレールは浜松町行きらしく、少しだけ親近感が湧く。


(浜松の方から来ました、なんてね)


 羽田空港構内を走行している間は窓の外に展望はない。地下鉄と風景は変わらない。しかし構内を抜けると、高い位置に設けれたレールから東京臨海部の街並みを望むことができる。線路を引くのが難しいであろう運河の上やビルの隙間をすり抜けて進み、モノレールである利点を存分に発揮していた。使用者がいないつり革が規則正しく揺れる。


(……未来だ)


 ※東京モノレールは50年前からあります。


(未来だ……!)


 ※東京モノレールは50年前からあります。



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