第81話 高速道路:あつまれ!



(……やっぱり肩身狭いな)


 ずらりと並んだオートバイの群れ。例によって大型バイクばかりなので、こじんまりしたボディーのエストレヤはどうしても肩身が狭い。いつも行く用品店でもそうなので、これはもはやエストレヤの宿命と思って良い。スリムなのに狭いとはいかに。


(……ここが高速のパーキングエリアかぁ)


 第2東名、新清水ICのすぐそこに、上下線合流式の広大なパーキングエリアがあった。このサービスエリアはとある事情により、第2東名を利用するライダーがこぞって立ち寄る場所になっている。その証拠に、たくさん用意されたバイク用の駐車マスはほとんど埋まっていた。


 ナンバープレートに刻印されている地名は静岡以東ばかりだ。密集することで生じるトラブルを嫌ってか、駐車マスにはまだ空きがあるのに、他の車両の通行の邪魔にならないパーキングエリアの片隅に駐車されているバイクもけっこうあった。


(ひぇぇ)



 ボボボボボボボボボ。


 ドドドンドドドンドドドン。


 ギュイーーーン、ギュイーーーーン!



 エストレヤでは絶対出せないエンジン音が鳴り響いている。断じて暴走族が集まっているのではない。あくまでエンジン形式と排気量の違いからくる差異だ。私がそのバイクに乗っても、同じ音が出るだろう。


 猛禽類の群れに紛れ込んでしまったスズメのごとく身を縮ませながら、バイクの正規の駐車マスにエストレヤを滑り込ませる。他のバイクと並んでみると、ますますそのコンパクトな車体が際立った。


「ふぅ」


 メットを脱ぐ。暑さはそれほど変わらなかった。タオルで汗をぬぐったあと、水分を補給して帽子をかぶった。家から持ってきた飲み物はぬるいどころか少し温かく感じるくらいだった。


(春物のジャケットでも暑い……)


 考えてみれば当然だ。夏なんて半袖でいても暑い。むしろ大丈夫なわけがない。


(バイクでも熱中症になるのかな)


 実験してみるつもりはない。なってからでは遅いのだ。


 対策をしなくては。そう思い立って、自分は今それに最適な場所にいることを思い出す。


「行くか」


 陽炎と雑踏に揺らぐパーキングエリアに、静かに足を踏み出した。






「おぉ……」


 パーキングエリアの商業施設内。私を出迎えたのは1台のオートバイだった。


 W800。

 カワサキが誇るクラシックバイクの最上級モデルだ。よくエストレヤの兄貴分ともいわれる。エストレヤとよく似たデザインをしていて、しかし車体が大きいため、美しさと迫力を兼ね備えていた。


(……なんて綺麗なバイクなんだ)


 撮影OKだったようなのでパシャリと1枚。写真を撮っている人は他にもいた。


 W800はスマホの中でもその輝きを失わなかった。キラキラとしている。エンジンの側面に地面に対して垂直に取り付けられているベベルギア駆動用のカムシャフトが印象的だ。生産が終了してしまったエストレヤと異なり、今なお最新モデルやバリエーションの製造が続けられているバイクで、日本クラシックバイク界の希望だ。


 そんなバイクが展示されていた。施設の出入口、フードコートの近くで、人の往来のど真ん中だ。信じられないくらいの好待遇だった。


 そして奥へ進むと、とても興味がそそられるお店が現れる。そこではなんとライディングジャケットやバイク用のグローブ、ブーツといったもの、それから普段使いもできそうな財布といった小物が販売されていた。


(サイフ、かわいい……)


 実はここ、浜松に本拠地を置く有名バイクギアメーカーの、いわゆるコンセプトショップなのだそうだ。そしてさらに、同じ施設内に同じメーカーが運営している、ライダーをターゲットにしたカフェもあった。このショップとカフェがそろっているのは、清水の他では針テラスだけらしい。


(レンタルバイクもあるのか……)


 レンタルバイクのお店もあった。いろいろなメーカーのバイクをレンタルできるらしい。中型の免許しかないのでレンタルできるバイクは半減だが。


「……バイクのテーマパークみたいだ」


 これがライダーが集まるパーキングエリアの理由。


 高速に乗るついでにやってきた場所だったが、どうやら腰を入れて挑む必要がありそうだ。



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