第75話 工具をキーホルダーにする系JK


 ホームセンター。


 それはバイクに乗る上で避けては通れない場所だ。進路上で道を塞いでいるという意味ではない。


 整備に必要な工具の購入をはじめとして、消耗品やちょっとした部材、場合によってはマシンの補修に必要な部品などを求めて、何度も訪れることになる。


 ホームセンターにはトイレや自販機があり、さらに駐車場も広く、なんだったら飲食店も併設されていたりする。なのでツーリングに出かけた際にホームセンターで休憩するライダーもわりといるらしい。


 急なマシントラブルで見知らぬ土地のホームセンターに駆け込むことだってあるだろう。個人的にはまだその経験はない。この先も無いと思いたい。


(工具工具……)


 少し店内を歩いただけで工具コーナーが見つかる。ありふれたドライバーから使い方も想像できない名称不明の工具まで並んでいた。グラインダーとサンダーは何が違うのだろう。お目当てのスパナだけでもピンキリで、ワンコインのものから1万円札が欲しいものまで値段の幅が激しい。


(17……あった)


 エストレヤのミラーのナットは17mm。なのでスパナも17mmのものでOKだ。というかこれじゃないと話にならない。17mmのスパナだけでもいろいろ種類があり、違いが分からないけど値段が違うものや、明らかに長さや厚さが異なっているものもあった。


 今日はたまたま自宅に近くて何とかなったが、例えば山中湖でミラーがグニャっとなったと思うと血の気が引く。そんな時に備えて、多少の工具は車載していたほうが良い。だから携行性に優れる短いスパナを手に取った。


(長い工具なんて邪魔なだけだと思うけど……あ、力か)


 てこの原理だ。どのボルトナットも支点と力点はほぼ同じ場所にあるから、作用点が離れれば離れるほど、つまり柄の部分が長ければ長いほどスパナは強い力をかけることができる。


(悩むな……)


 もしもに備えるなら携行性に優れた短いスパナが向いている。しかしもしも以前に、不意にグニャっとならないように整備するのであれば、長いスパナできっちり力を掛けてそもそも急に緩まないようにした方が良い。


「これかな」


 結局、通学バッグに入れることができる一番長いものを選んだ。通学バッグにスパナを仕込む女子高生の爆誕だった。コンビネーションレンチ(柄の反対側が輪っか状になっている)なので、結束バンドあたりを使えばキーホルダーにできる。やらないけど。


 それから同じ長さのモンキーレンチもカゴに入れた。家にあったのは家のものなので私が持ち歩くわけにはいかないし、ミラーの調整には2つのスパナが必要だ。そしてエストレヤには他にもボルトナットが使われている部分がある。ひとつモンキーレンチを持っていれば役に立つ場面もあるだろう。通学バッグにモンキーレンチも仕込む女子高生が爆誕した。スパナと合わせると普通に重い。


 工具を持ち運ぶためのケースが欲しかったのでこれも物色する。しかしホームセンターにはゴツい工具箱しか見当たらなかったので、隣にあった100円ショップで適当なファスナーケースを購入した。ついでに出番が多そうなプラスとマイナスのドライバーのセットも買っておいた。


「あ」


 ホームセンターで買ったモンキーよりやや小ぶりだが、それなりのサイズのモンキーが100円ショップにも置いてあった。が、17mmまでは対応していないタイプだった。いやしかし、100円ショップも侮れない。侮ったこともないけど。


(工具は奥が深い……)


 という話を未天にしたら、「たった1mmしか違わないのに結ばれないボルトとスパナの恋の話?」と返ってきた。たぶん違うと思う。




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