第61話 消し(?)ゴム
山中湖ツーリングに費やした休日を終えた月曜。
当然ながら教室やクラスメイトに特に変わった様子はない。先週の金曜日と間違い探しをしても何も見つけられないだろう。
ただしそれはあくまで外見的な話。1日中バイクで走り回った代償として、私の全身には若干の筋肉痛が発生していた。特にお腹や背中が痛むあたり、走行風圧というのはバカにできない負担を生むらしい。バイクのスタイリングを壊すレベルの風よけスクリーンを搭載したバイクも目にしたが、体にかかり続ける負荷を少しでも軽減したいと思えば採用するのも理解できた。
従姉に送った数々の画像は、従姉の眼鏡にかなったようだった。パノラマ台で撮った富士山と山中湖のツーショットは特に好評で、従姉の職場の皆さんにも気に入られたようだった。曰はくプリントアウトされ、職場の休憩スペースに他の風景写真に混じって額縁に入れられているとのこと。素人の写真なので、正直恥ずかしい。
エストレヤはあの後、なんと無給油のまま浜松に帰ることができた。噂に
「はい、おみやげ」
「え゛!?」
ミソラが上げた大声にクラスの視線が集まる。しかしそれも一瞬で霧散した。君子危うきに近寄らず、というやつだ。
フリーズしているミソラに小さな紙袋を差し出していると、恐る恐るといった具合で両手を出してきたので、そっとその上にお土産を置く。
「えっと…………………………お金とります?」
そんなに顔を青くしなくてもいいだろうに。私を何だと思っているのか。
「取らないよ」
「ほ、ほんとにいいの……?」
「……ごめん、迷惑だったなら」
「あ、だめ! いる! いります! ありがとうメグちゃん! すっごく嬉しい!」
最終的には私の手から奪うようにして彼女はお土産を受け取った。
「色々あったけど、それならミソラも使うかなと思って」
彼女は首をかしげてから袋を開ける。セロハンテープをべりっと剥がした後の袋がクシャリと鳴る。袋を傾けて何度か振ると、中から何かが転がり落ちてミソラの手の上で止まった。
「? 消しゴム?」
空色の消ゴムは、その中芯部分が白になっていた。
「うん。使っていくと空色の部分がすり減るから、だんだん白い芯が見えるようなって、雪をかぶった富士山みたいになるんだって」
「あー、なるほど。面白いね。文字を消すのが楽しくなりそう」
ほーん、ふーん、と彼女は消しゴムを眺める。
正直めちゃくちゃ悩んだ。お土産コーナーで1時間くらいはうなっていたかもしれない。友達にお土産を買うなんてことは初めてだった。
ここまで来たので何か富士山っぽいものが良い。日持ちがする焼き菓子が無難だったが、何かアレルギーがあってもいけない。アレルゲンがあまり含まれないよくあるご当地サイダーなどは、ビンだったり重かったりで運搬に難があった。キャラクターものもあったが好みは人それぞれだ。万が一の場合でも邪魔にならず処分にも困りそうもないものとして辿り着いたのがこれだった。彼女は画を描くらしいのでその時に使えそうだし、そうでなくても最悪授業でノートをとる時に使用できるはずだ。
といった感じに、脳内で散々言い訳をしてようやく選んだものだった。小心者だ。
「イラストはデジタルだから消しゴム使わないけど、授業中に使わせてもらうね」
彼女は早速封を切ってペンケースの中にしまいこんだ。そしてペンケースを両手でつかんだまま、にへらとした笑顔を浮かべた。
「……えへへ、なんだか使うのもったいないな」
そして私は初めて知る。
消しゴムでも、笑顔は描ける。
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