第6話 名残惜しき

今日も付けてしまっている…。

単純に男とさわがデートするのが気になって仕方ないというのがある。

「ぬんさんアイス付いてるよ。」

店にある紙で頬を拭く。

「あ、ありがと…。」

照れたような顔をする。やめろやめろ。さわをうっとり見つめるな…。

さわもそれに気づいたのかふっと顔を下に向ける。そりゃ嫌だよなあんな目で見つめられたら。

「ぬんさん…。この間の話だけど…。」

…聞いていていいやつなのだろうか。いやそもそもストーカーしてる時点でだめに決まっている。

「やっぱり…やめておく?」

残念そうな顔で男はさわを見る。

さわが気まずそうにする。

「う、うん…ごめんね…。」

主語をつけてくれ…なんのことだよ…。

「きょ、今日は…帰るね…ごめんね。」

まだ午前11時でのお開き。集合は9時半だった。

今日のさわはストレートヘアにブラウス、スカートの格好だ。いつもみたくヒールを履いている。イヤリングをしている。…俺が過去にあげたイヤリングだった。

つかつかとヒールを鳴らしこちらへ歩いてくる。


…ん!?お、俺!?


「あなたっ…着いてきてるのバレバレなのよ!!こっち来て!!」

さわの後ろを必死について行く。ヒールでも歩くのが俺より速い。

「わ、悪い…付けたりして…。」

「それはいいけど…ぬんさんにバレるかと思って焦ったわ。」

この間より付けるのが下手だったと思うと恥ずかしくて俯いてしまう。バレたことのほうが恥ずかしいか。

あの男と離れて10分ほど経った。駅についた。この駅は地元の駅から50キロほど離れた都会で、たくさんの花が植えられている。怒ったさわとは裏腹に綺麗に咲いている。

「…あのねえ!別に着いてくるのはいいけど、ぬんさんといるときはやめて。」

「自分で言うのも変だけどストーカーは許したらダメだぞ。」

「…っ、そりゃあ、誰でもいいってわけじゃないけど…。」

さわの顔にシワができる。なんて続けようか悩んでいる。

「だからって…あなた…えっと…。」

「さわのことは忘れるよ。だけど、あいつと付き合うのはやめろ。後悔する。」

「…なんで。」

「愛されたほうが幸せ〜とか思ってるか知らんが、付き合ってる以上…そういうことしない訳には行きにくいだろ。それは女として後悔する。やめろ。」

「男のあなたに言われたくないわよ…。それに…そういうことは断ってる。」

「は!?断った!?それで、なんて。」

「…さわちゃんが嫌なら仕方ないねって言ってる。」

お互い黙る。俺たちはあった度にしていたし、余計なお世話だが、さわの欲求加減で俺と別れてから我慢していたと思うと末恐ろしくて仕方ない。

「もう…やめようかな…。」

正直、気を使うのも疲れてきたという顔をする。

「俺と会うのも本当に最後にしよう。」

「…。」

さわはお別れも苦手だ。

「なんで。」

「もう別れてるのに会うのも変だろ。」

付けてた俺の方が変だよ。と自分に思う。

「そ、そうね…。」

下を向く。サラサラと肩から髪が零れそうなほどすとんっと下りる。

カタカタした手で俺の首に手を触れてくる。

「…っ…。」

そんなに寂しいかよ。もう別れたんだろ。おまえなんて前、お会計まで持っていって去ったくせに今更なんだよって話だよ…。

「忘れないで…。」

「ん?なんか言った?」

そう聞き返したところで雨が急に降り出す。ゲリラ豪雨だ。

さわの髪がぺったんこになりそうなのを見て、駅の雨宿りできそうな場所にいく。

「ん。」

タオルを渡される。

さわはいつも準備がいい女だった。

「さんきゅ。」

2人で体を拭く。さわは髪の毛も大事そうに拭く。

別れが惜しいように雨は振り続ける。電車も来ているのに、タオルで拭くということを口実に2人とも動かない。


雨はその後10分ほど振り続け、やんでからもしばらくベンチに座り続けた。


[完]

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記憶 はすき @yunyun-55

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