第2話 デート 〜前編〜
ぬんさんとデート
あの投稿から2週間が経っていた。つぶやきを見ると、今日会う予定みたいだった。ぬんさんとか曖昧な言い方をされるとどの人物かなかなか特定が出来ずらかったが、あいつと同じ大学の男で、今日は地元で会うようだった。
今日は動物園、楽しみ!✨
✨じゃねえよ。俺の心はどす黒いオーラに包まれそうだよ。黒縁メガネに、愛用している黒っぽいパーカーを着るが、春物のためもう今では暑い。しかしそんなこと気にならないほど、地元の駅の待ち合わせ場所に現れるかもしれないあいつを気にしつつ待っている。
白いスカートの女。
格好の系統が似てるだけか。
花柄ワンピースの女。
こいつも違うか。
綺麗な黒髪の女。
顔のパーツしか似てなかった。
…こんなストーカーみたいなことして楽しいか。俺は。
軽くはずむ足音がする。茶髪がふんわりとなびく。俺とのデートの時は髪の毛を巻いたことなんてなかったし、ジーンズなんて履いてなかったのに、クルクルした髪の毛に、ジーンズとスニーカー。なんだ、あの男の好みか?
全然気が付かなかったが、ヘラヘラしてた男ももう待っていた。
「ごめん、ごめん、待った?じゃ、行こっか。」
手をさりげなくあいつから繋ぐ。幸せそうに微笑む。
…なんかさ、くだらないというかありえない想像だけど、レンタル彼女とかさ?そういうあれの可能性もあるから?うん。さすがにキスしたらもう確実だな。うん。
そう自分でいいきかせ、一日ついて行くことにした。
チケットを2人で購入して男がさりげなくエスコートする。あいつも気づいてわざとらしくない程度のお礼をして中に入る。
俺も気づかれないようにしつつ急いでチケットを買う。受付のお姉さんに暑くないですか…?と心配されるが、だいじょぶっす、とあしらう。
2人は手を繋いで照れくさそうにゆっくり歩いていく。
アイスを食べる。楽しそうに写真を撮る。時々無言になっても、あいつはおしゃべりだから普通に間が持つ。あの男はそれに感謝するように楽しそうに話を聞く。
…俺と一緒にいた時はあんなに笑ってなかったし、ふざけてくる俺に、またふざけてこと言って。と怒っていた。
「ぬんさん、次のデートはどこ行こうか。」
多分そんなようなことを言っていた。
地味に遠いし、耳を近づけることも出来ず、溶けそうなソフトをちびちび舐めつつそば立てるしかなかった。
「来週はサークルの飲みがあるよね?君は来るの?」
「私も行くよ。」
「そうか。じゃあそこで色々話そうか。」
あいつは独奏のサークルに入っていた気がした。でも何の楽器をできるのかも知らない。そもそも吹奏楽だったかもしれないし、バンドだったかもしれない。
「トランペットはなんの曲やるの?」
「まだ決まってないんだよな。」
あの男はトランペットらしい。
「君はどうするの?」
「うーん…。私は、ベートーヴェンかな。好きなの、演奏するとワクワクしてきて、どんどん世界観に入れるの。」
目を輝かせて話す。お前はショパンの方がぴったりだよ。きっと。
「そうなんだ、君にぴったりだよ。」
お前はだまらっしゃい。
「ふふっありがとう、いい演奏ができるように頑張りましょうね。」
結局あいつの楽器は何か分からずに2人は移動していく。所々しか聞けない上に俺は耳がいい方ではないので、隣で混じって話を聞きたいくらいだったが、それはそれでプライドが許さないし、人間としてもどうかと思った。
よく聞くとセミの声がチラチラ聞こえる。
親子連れは幸せそうに動物と写真を撮ったりしている。
あそこにいるカップルは明らかに不釣り合いだが幸せそうだ。
俺も、その中の1人だったはずなのに、汗がじんわりしてくるパーカーなんて誰も来ておらず、世界に取り残された気分になった。
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