カデンツ


会場は少しずつ静寂を取り戻した。

ピアノの音はいつしか、溶けたように消えていて、彼はマイクを握っている。


「みなさん、今夜は集まっていただいてどうもありがとう。

今夜は、恥ずかしながら私の60歳の祝宴会です。」


ここでふふっとはにかんで、


「私がこうして、世界中をまわってピアノを弾いてこれたのは、ひとえにここにいる、私の大切な人たちの支えがあったからこそです。本来ならば、一人一人にその感謝の念を告げたいところですが・・・」


彼は、少し複雑な、言葉では表せないような、憂げを持った目線を会場に配った後、


「今宵は私の大切な人同士が知り合う時間にしたいものです。どうか積極的に話し合ってお互いを知っていってください。私はいつでも、ここのピアノとともにいましょう。」


少し、緊張しているかな。それでも、かっこいい。


「応援と感謝の気持ちをもって、その人をイメージした曲を弾いてご覧にいれましょう。」


一体、誰の曲を弾くんだろう・・・そんな会話をしようと、ざわめく声が波だった。


「ただし、言葉では言い難い・・・そんな繊細なところまで表現させてもらうため、どうかどなたのイメージかは、ふせさせていただくよ」


「それでは、どうぞ楽しい夜を過ごせますように。乾杯!」

「乾杯!」


_____会場にいるすべての人が、輝いていた。

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