第2話 魔女

《儀式まで あと6日》


「行ってきます・・・」

「ルア、少しだけいいかしら。」

「何?お母さん」

「イリョス君が、牢屋から消えたみたいなんだけど、あなた知らない?」

少し沈黙した後、ルアが、口を開く。

「うん、ごめんわかんないよ」

「・・・そう。もしも匿ってたりしたら、魔女が、あなたを・・・。」

「・・・大丈夫だよ、お母さん」

そう言い残し、ルアは、母の元を去る


村では、大人達が総出で、イリョスを探していた。

「くまなく探せ!まだ近くにいるはずだ!!」

「おぉ!あの馬鹿め。勝手な真似を」

「魔女様に生贄を差し出さないと、我々の命も危ないのだ。」


ルアは、大人達の異常さを見て、心配になりその場を去る。

『待っててね・・・イリョス』


そして向かった先は、村から少し離れた場所に在る洞窟だ。

此処は、昔イリョスが、ルアに教えた秘密の場所。


「お待たせ!イリョス」「ありがと!ルア」

「うぅん!貴方の為なら、いくらでも!」

「なんだって?」「うぅん、なんでもない!気にしないで!」

イリョスは、珍しく真剣な顔で、ルアに相談し始めた。

「なぁ、ルア」「うん?」

「この村から、抜け出さないか?」

「えっ?」

ルアは、突然の提案に、戸惑った。


「そうすればさ、二人とも自由になれるし!」「でも・・・!」

「そうだ!俺も生贄になる必要がないし!」「協力してくれるって言ったじゃん!!」

「でも・・・!それで、俺は助かるのかよ!!」

ルアは、黙ってしまった。なんと返答すればいいのかわからず。

そして畳みかける様に、イリョスは、

「おれは、まだ死にたくねェし・・・それに!」

「もぅいい・・・!」


ルアの言葉が、洞窟中に響き渡った。

今まで聞いた事のないルアの声に、イリョスも戸惑った。

「ルア。」

「イリョスの馬鹿!知らない!」

そう言うと、ルアは、洞窟から出て行ってしまう


「ルア!!待ってくれ!!」


ルアが、洞窟から出ようとすると。

村の方から、大人達が、こちらへと向かってくる


「どうして・・・」「ルア・・・!」

追いかけてくるイリョスに、向かってルアは、再び大声を放った。

「逃げて!イリョス!!!」「はぁ・・・?」「早く!!」


「いたぞー!!」

イリョスの姿を、目にした大人達が、イリョス目掛けて走ってくる


「ルア!?」「早く!!」

「お前も一緒に来い!!」「行けない。」

「早く!お前も!!」


そうこうしているうちに

大人達が、イリョス達の所まで来てしまう


「やっと見つけたぞ・・・イリョス!今度は逃さんからな!」

「ちっ!」

大人達総出で、イリョスを捕まえ様と、魔法を唱え始める。

その隙に逃げようとしたイリョスの前に、魔女が現れる


「何処へ行く?」


突然現れた魔女に、何が起きたのかわからず立ち止まってしまうイリョスに向かい

魔女は、イリョスに魔法陣を描く

その瞬間、イリョスの体中を蛇が、縛り、身動きが、とれなくなる


そして、イリョスは、力を振り絞り蛇から逃れようとするも、

蛇に嚙みつかれ、倒れ込んでしまう

「イリョス!!!」

イリョスの方へ行こうとするルアを、大人達が取り押さえる

それを見て不気味に笑う魔女。


大人達は、震えていた。

魔女の恐ろしさの一つは、通常魔法を唱えるには、魔法陣を描き呪文を唱えるのに、

平均で3分は、必要となるが。

魔女は、2秒で、それが出来てしまう事。

もしもイリョスが、自分ならばと思えばゾっとする。


「今度は、逃がすでないぞ・・・」

「はいっ!」


魔女、ルアの所をわざと通り過ぎ、一言残す。

「ご苦労であった、小娘」


ルアは、その場で泣きじゃくる。

それを見た大人達は、ルアを離すも、イリョスは、連れて行かれてしまう。


イリョスは、再び、牢屋に入れられ。

ルアは、部屋に篭り、泣き続ける


《儀式まで、あと5日》


イリョスの牢屋前には、厳重に警備兵がいる

そして、気力を無くしたイリョスは、ただルアの事を想うだけであった。


その頃ルアは、部屋に籠っていた。

そんなルアを心配し、母が、ルアの部屋に入ってくる

「ルア、やっぱりあんた」


ルアは、何も言わず部屋から出て行こうとするが、

「何処に行くつもり・・・?」

「イリョスに逢いにいく」「駄目よ」「なんでよ」

「イリョス君は、生贄。あの子は、選ばれたの」

「選ばれたって何!?大人達が勝手に決めた事でしょ!!」

「ルア!!」

「大人達の都合で、イリョスは死ななきゃ駄目なの!?」

「彼にだって。生きる道は、あるでしょ!!」

ルアの真剣な気持ちに、母は、黙ってしまう。

そのままルアは、家を出て行く


「待って!!ルア!?」


牢屋の在る場所まで行くと、そこには、警備の人間が5人待機している。

村の中でも選りすぐりの魔法使いだ。


しかし、ルアは、そのまま牢屋へ向かおうとすると大人達に止められる。

「ルア・・・」「通して!!イリョスに逢わせて!!」

「駄目だ!!」「なんでよ!!」

「またイリョスを逃がすつもりだろ!!そうは、させん!!」

「逢う位いいじゃない!!」「駄目と言ったら駄目だ!!」

「なんでよ!!」「なんで、そんな。」


そこへ魔女が、訪ねてくる。


「良いではないか」「魔女様」

「わらわの魔法がかかっておるのだ。絶対に、イリョスは逃げられんよ。」

「しかし・・・。」

魔女の言葉に、動揺する大人達だったが。

「最後の別れ位させておやり。」

その一言で、大人達は、道を開ける。


そして、魔女は、不気味に微笑んでいた。

何故なら自分を恨むように睨むルアの視線が、嬉しくて仕方がないからだ。


「いい目だね。殺意に満ち溢れておるわ」

ルアは、その言葉に、返事をせず。

イリョスの元へ向かう


そして、ようやく辿り着いた牢屋で、イリョスを見つけ駆け寄る。

「イリョス!!」「ルア?お前、なんで此処に?」

「ごめんね、イリョス」「なんの事だよ・・・。」

ルアは、泣きそうな感情を抑えて、無理やり笑顔を作る。

顔を上げ、イリョスを見つめる。そして、震えた声で。

「絶対に助けてあげるから・・・!」


ルアの異変に、イリョスは、嫌な予感がした。

何故かルアを失う気がした。

「やめろ」「・・・待っててね」

「止めろ!ルア!!」


初めてだった。イリョスが、ルアに対して声を上げたのは。

そして今度は、イリョスが、ルアに告げた。

「・・・おれ決めたよ、生贄になる。」「イリョス。」

「俺が生贄になれば、お前は幸せに暮らせるんだ。ならいいじゃねェか。」

「ヤダよ。」

「お前が、何もなく生きれるなら、俺は、それだけで。」「勝手な事言わないでッ!!」

イリョスの言葉が詰まってしまう。

そしてルアが、泣きながら、イリョスの顔を見る。

「もぅ、皆なんで、勝手なの。あなたも!お母さんも!大人達も!」

「約束したじゃない・・・!!この村を一緒に救うって。」


「私一人じゃ駄目なの。あなたが」

「イリョスが、必要なの!!」


ルアの言葉が、イリョスの胸を締め付ける。

どうしたらいいのか。自分でもわからず。


「・・・ごめんな。ルア、俺が馬鹿だった。」

「絶対に、約束は、守る!必ず!それで。二人で一緒に住もう!」

「・・・イリョス。」「必ずだ!!」

ルアは、その場で泣き崩れ、無言で頷く。


「だから、今は待て。必ず俺が、上手くやるからな」

その一言に対して、再び頷く

それから二人は、無言で、ただ一緒にいた。

今どれくらいの時間が、流れたのかも分からず、ただただ一緒に。


そして、ルアは、牢屋から出る。


それを遠くで見つめる

魔女が、不気味に微笑んでいた。


家に帰るなり。

ルアは、ある本を読んでいる。

そこへ母親が、ルアの部屋に入ってくる


「ルア、ごめんね。」

ルアは、母親の言葉が、耳に入らない位に、集中していた。

しかし、母親は、そのまま話し続けた

「ルア、馬鹿な事を、考えてないわよね?」

そこで、初めて母親の声が、聞こえたが、あえて聞こえないふりをした。

しかし、母親は、それでも話し続けた。

「“永遠の魔法”なんて、ないのよ。」

そのワードに対して、本を読んでいたルアが、止まった。

「あなたが、今しようとしてるのはね、絶対に失敗する。」

「あなたに、“私のようには、なって欲しくないの!!”」


「あなたに、あの時の私の気持ちを。」

「お母さん。」

ルアは、本を閉じて、母親の方に向いて、笑顔を作って返答した。


「大丈夫だよ。」

「わたしは、絶対に、この村を変えて見せる。」

その言葉に、母親は、言葉を失ったのだ。

そしてルアは、立ち上がり

「お父さんとお母さんのような悲劇を生まないように。」

「これで終わりにしてみせるから。」

ルアは、母親に、一礼し、家を出ていく。


「ルア!待って!!」

「ル、ア・・・。」

ルアの魔法により、ルアの母は、眠りについてしまう。

今まで育った家を目に焼き付け、ルアは、洞窟とは、反対方向にある。

魔女の家へ向かう。

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