決戦! 砂漠の地下闘技場! 2

 レンガ造りの廊下が歓声でビリビリと震えている。よほどの好試合なのか、観客のボルテージもマックスのようだ。

 その熱気に当てられてか、直接会場も見えないというのにトレーナーも上機嫌だ。クレイジー野郎の機嫌はいいに越したことはない。悪いと何をしでかすかわからない。


「記念すべき初出場だ! 会場も温まってるよ! さあ行こう! 栄光をその手に!」

「ちょっと待てトレーナーッ! 希稲きいなはどこだ!」


 だが、刀香とうかはそんなルンルン気分に水を差さずにはいられなかった。それ以上に優先すべきことがあったからだ。

 希稲の行方。目が覚めてからこっち、あまりに急展開が過ぎたものでうっかり忘れかけていたが、あの少女が見当たらない。

 まあ現状全裸なので、近くにいなくて逆によかったとも言える。それにしたって居場所がわからないのは不安だ。


(特にこのサイコ野郎に拾われたっつー状況が! 嫌な予感バシバシすんだよ!)

「きいな……? あ、もしかしてあの女の子のことかな!」


 なぜかトレーナーはそこで笑顔になる。刀香は思わず猟奇的な想像をしてしまい、トレーナーの服に血の痕なんかを探してしまう。


「あの子なら別室に休ませてるよ! クーラーの効いた部屋で水もいっぱい用意したし、たぶん今頃起きてるんじゃないかな!」


 しかし予想に反してトレーナーはまともなことを口にした。すでに希稲は口にもしたくないような凄惨な仕打ちを受けてしまった、とまで覚悟していた刀香は拍子抜けする。普通の、なんなら的確な処置だ。あとさらっとクーラーがあるとこいつは言った。


「というか駄目だよ、あんな小さな女の子を砂漠で歩かせるとか。十分な水もないのに砂漠超えとか、特別な能力でもない限り不可能なんだから! 保護者ならもうちょっと計画立てて行動しないと!」

「狂人に、説教を、されている……??」

「トーカがありえないシチュエーションに凍っちゃった……」

「それで、希稲ちゃんはどこにいるんだい?」


 千土せんどの言葉に、トレーナーはあっさり「こっちだよ!」と案内した。トレーナーが手で示した扉には鉄格子などついておらず、希稲が少なくとも人間扱いされていることがわかる。

 扉を開けると、クーラーの涼やかな冷気が爪先を冷やす。突然開いた扉に怯えるようにベッドの上で後ずさった希稲は、しかし入ってきた少年たちに安堵の表情を浮かべた。


「お兄ちゃん……! えっ、おに……?」


 希稲の視線は次第に下腹部に。トレーナーによって獣扱いされている少年たちは服を着ていないわけで、普段見えない股間のそれに希稲が違和感を覚えるのも当然であって、つい凝視してようやくお風呂場で見た父親のそれと脳内の画像が一致して、希稲は固まった。


「うい……」


 真っ赤な顔で。

 少年たちの罪悪感は頂点を突破した。いくら服を剥ぎ取られたとは言え、全裸であることを忘れてズカズカ部屋に入り込んだのは少年たちの方だ。加えて年端も行かぬ少女に己の分身を見せつけるこの所業。

 なぜか希稲に関してはまともな倫理観のトレーナーが、失望したように言う。


「……そういうの、マジでいけないと思うなあ。ぼく」

「じゃあ服返せッッッ!!」


 と威勢よく叫んだせいで、股間のそれがもるんと揺れた。希稲の悲鳴が聞こえる。

 熱中症で倒れるわ、狂人に拾われるわ、挙げ句に三つも男の象徴を見せつけられるわで、希稲の旅立ちは散々だった。

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