第8話二匹のその後
互いに神と悪魔を宿し、激闘の末共倒れになってしまったするとスマトラオオヒラタクワガタとノコギリクワガタ。この二匹の勇姿ある亡骸は、皮肉なことに処分されるはずだった・・・。
ノコギリクワガタの亡骸は、一人の男の手に渡った。
「このノコギリクワガタは、小さきながらも素晴らしい活躍をしてくれた。死んでしまったのが残念だが、君のことは私達が大切に使わせてもらうよ。」
男はノコギリクワガタの死体を小さなビニール袋にしまうと、そのビニール袋をかばんに入れてその場を去っていった。
男が向かったのは、とある大きな研究施設。この研究施設では科学技術とある力をどうすれば多くの生きるもののために、そして平和のために使うことが出来るのかという研究を日々続けている。男はその施設の理事長と呼ばれる男に、ノコギリクワガタの亡骸が入ったビニール袋を手渡した。
「これで開発するサイボーグのDNAサンプルが全て用意できた。ありがとう。」
「理事長、今回のハイブリッドサイボーグ開発はどういった思いがあるのでしょうか?」
男が理事長に質問すると、理事長はこう答えた。
「今回のサイボーグ開発は、誰もが安心して生活が送れるようにというテーマで研究している。人間の中には生れつきの障害がついてしまったり、突発的な原因で障害が付いてしまった人達がいる。そんな人たちが安心して暮らすため、そして夢を追いかけられるように、障碍者をサイボーグ化して新たな希望を見出して欲しいと私は思っているのだ。それと昆虫差別への警鐘を鳴らすためにもな。」
「なるほど、感心しました。」
「だが、我々の作ったサイボーグは後に本来の姿に戻すつもりだ。君もそのつもりでいてほしい。」
「わかりました。」
その後、ノコギリクワガタの亡骸はDNA採取のために使われた。
そして新しい命へと・・・。
さてスマトラオオヒラタクワガタはその後、一体どうなったのか?実は亡骸を処分されそうだった所を、一人の女性が引き取った。その女性は美人ながらも昆虫標本のコレクターで、世界最大最強虫王決定戦を撮っていた撮影会社に勤めている知り合いから秘密に引き取ったものだ。
「このスマトラオオヒラタクワガタ、やっぱり他のと何か違う!もう他のクワガタが、さび付いて見えてしまうわ。」
女性はスマトラオオヒラタクワガタの亡骸を、器用な手さばきで標本にした。そして自分の部屋に大切に飾った。このままいけばボロボロにならない限り、標本として大切にされ続けられるはずだった・・・。
ある日の夜、女性の部屋に三人の男が入ってきた。その一人はその女性の弟で後の二人はとある組織の執行員である。
「ここに例の物があるんだな?」
「ああ、持って行ってくれ。もし姉貴が嫌だと言ったら、殺してもいいんで。」
弟はいわゆる薬物中毒になっていて、常に金欠だった。そんなある日、「このスマトラオオヒラタクワガタの遺体を探している。」と組織の男に尋ねられ、報酬をもらう代わりに渡すという契約をした。弟は姉に「薬物を止めろ!」と怒鳴られていたので、ついでに姉を殺してくれたら万々歳だった。
「おっ、あったぞ!」
男が標本を手に取った時、何と姉が目を覚ましてしまった。
「誰ですか、あなた達は!」
と姉が言った時、もう一人の男が拳で姉の腹を殴り、姉は気絶した。
「おい!ロープかなんか持ってこい!」
そういうと弟は家の物置から、宅配用のビニール紐を持ってきた。男はその紐で姉の首を絞めて殺害、標本だけを持っていくと後から来た者たちに「この家に火を付けろ」と指示して、逃走した。そしてこのスマトラオオヒラタクワガタの遺体は、サイボーグを作るための素材となる。そう、この二匹は運命の名のもとにまた戦うことになるだろう・・・。
その時がいつになるかは、誰も分からない。
神と悪魔の大顎 読天文之 @AMAGATA
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