第7話究極の虫王戦

 ついにこの時が来た、俺はついに運命の相手相手と相まみえることができるのだ。形亡き者の声によると、「そいつは悪の力で復讐と殺意を高めていて、これまでありとあらゆる相手を抹殺してきた、今までのとは比較にならない程の強敵である。」と言っている。どんなやつなのか想像もつかない、でも俺は逃げ出す事はできない。それならばただ命ある限り、あいつに立ち向かってやる。俺はいつも通り見えない壁の中から出され、木の上に置かれた。いつもと違うのはただならぬ気配を感じるのと、外の音がいつも以上に騒がしいことだ。そして俺はついに相手の姿を確認する。そいつは俺より巨体で、黒いオーラを放っていた。


 我はこれまで、多くの相手をこの顎で殺してきた。最初の頃はこの力を禍々しく思い、己が運命を強く恨んだ。しかし我は戦うことで相手を殺すことを使命とし、このヒトが楽しむためだけの戦いを勝ち進んできた。そしてこの戦いにも、終わりが見えてきた。この戦いに勝利したものが、真の勝者となり虫の王となることができるらしい。それならなってやろう、生きる使命を失った我にとって虫の王は最高の課題なのだからな。戦っている間は意識は消え去っているが、取り戻した時われはおそらく勝利している。そして我はいつも通り、見えない壁の中の中から出されて、木の上に置かれた。我の戦うべき相手は我よりも小さかった、しかしその小さな体からオオエンマハンミョウやヘラクレスオキシデンタリスをもしのぐ程の闘気を感じる。我は油断せずに戦おうと、心にきめたのだった・・・。


「さあいよいよ始まりました、『世界最大最強虫王決定戦・最終決勝戦』!最終決勝戦では三ラウンド戦い、どちらか二勝した方が勝利となります。それではワールドブロックを乗り越え、この舞台に来た二匹の昆虫を紹介しましょう。」

 まずノコギリクワガタにライトがあてられた。

「この小さき体でなんと日本ブロックを制覇、そして強者集うワールドブロックをも奇跡と持ち前の力で制覇した、百匹に一匹の神!日本国本州出身・大和の荒武者・ノコギリクワガタ、六十ミリ!」

 そしてスマトラオオヒラタクワガタにも、ライトがあてられた。

「その凶暴性は、もはや規格外!東南アジアブロック・ワールドブロックと全戦いで惨劇を見せてきた、まさに命を得たギロチンクロス!ノコギリクワガタは奴の暴徒を止められるのか?インドネシア、ベンクール出身・インドネシアの殺虫神・スマトラオオヒラタクワガタ!九十八ミリ。」

 ついに神と悪魔の二匹が、同じ木の上に並んだ。そして、運命の瞬間が来る!

「レディー・・・、ファイトーーーっ!」

 「カーン!」という音で試合が始まった、スマトラオオヒラタクワガタがノコギリクワガタを殺そうと速攻をかける。ノコギリクワガタはかわすのが精いっぱいで、攻撃の機転がつかめない。

「すばっしこい奴め・・・。」

「だめだ・・・、体も今までの相手より大きくて懐に入り込めない・・。」

 ノコギリクワガタはサイドから挟もうとするが、スマトラオオヒラタクワガタがすぐに正面を向いてくるので、サイドが取れない。

「小さき武者よ、恐れるな!そなたにはこの武神・ヤマトタケルがついている。」

 ノコギリクワガタは形亡き者の声を聞いた。

「ヤマトタケル・・・、それが君の名前なのか・・?」

「ああ、さあ共に勝利を掴もう!」

 ノコギリクワガタに神通力がみなぎった、ノコギリクワガタは真正面からスマトラオオヒラタクワガタを挟んだ。

「自ら飛び込んできたか・・・、なら望みどおりにしてやろう。」

 スマトラオオヒラタクワガタがノコギリクワガタの胴体を挟んだ、ところがノコギリクワガタは平気どころかスマトラオオヒラタクワガタを押している。

「何!小さき体で我を押しているだと・・・?」

 スマトラオオヒラタクワガタも気合を入れて押しているが、ノコギリクワガタはそれ以上の力でじわじわ押す。

「よし、少しずつでも押していけば・・・、いつかは落ちる。」

 ノコギリクワガタはそう思っていたが、現実はそうはいかんとばかりに厳しい。

「スマトラよ、こんな貧弱者に何をてこずっているのだ?押す事よりも、殺すことを第一に考えろ!」

 シャイターンの喝がスマトラオオヒラタクワガタの耳に聞こえた、そしてスマトラオオヒラタクワガタは力いっぱいにノコギリクワガタを振り払うと、その隙にノコギリクワガタを挟み上げた。

「ぐああああああっー!」

 ノコギリクワガタは悲鳴代わりに足を大きくばたつかせた、スマトラオオヒラタクワガタはとにかくノコギリクワガタを真っ二つにしようと、顎の力を強めていく。スマトラオオヒラタクワガタは、自分でも知らずに殺意のオーラを放っていた。

「凄く痛い・・・、このままだと俺は、死んでしまうのか?」

「小さき武者よ、諦めるな!勝負は諦めなかったものが勝つのだ、だから死ぬまで足掻くんだ!」

 ヤマトタケルの声を聞いたノコギリクワガタは、力をを振り絞った。するとスマトラオオヒラタクワガタの大きな顎が徐々に開き、ついにはノコギリクワガタが脱出に成功していた。

「やった・・・、出られた!」

「何!我の顎から逃れたというのか・・・、ううう・・・・こうも我をイラつかせてくれるとは・・・。何が何でも切断してやる!」

 スマトラオオヒラタクワガタは殺意のオーラを体にまとった、ノコギリクワガタは怯まないように身構えている。

「来い!俺が相手をしてやる!」

「生意気な・・・、それが貴様の言う最後の言葉だ!」

 スマトラオオヒラタクワガタは羽を開くと飛び上がり、まるで鷲か鷹のように急降下してノコギリクワガタに襲い掛かった。ノコギリクワガタは間一髪の所で、上空に上がりかわした。

「うおおおおおお!」

「はああああああ!」

 ノコギリクワガタとスマトラオオヒラタクワガタは、激しい空中戦を繰り広げた。本来ならばクワガタ同士の戦いではありえない、ヤマトタケルとシャイターンの力があるからこそ出来ることだった。

「何という事でしょう、互いに木から離れて空中で戦っています!もはやこのバトルは、次元を超えているとでもいうのでしょうか?」

 ノコギリクワガタとスマトラオオヒラタクワガタは、上空でも顎を合わせて押し合っている。

「これで・・、どうだ!」

 スマトラオオヒラタクワガタは、なんと上空からノコギリクワガタを叩き落そうとした。

「うわっ!」

「落ちろ!」

 スマトラオオヒラタクワガタが顎を振り下ろそうとした瞬間、ノコギリクワガタは顎を振った。するとスマトラオオヒラタクワガタの体が上空で斜めになった。

「うおっ!・・・あああああああっ!」

「あああああああ!」

 ノコギリクワガタとスマトラオオヒラタクワガタは、上空で繋がったまま転がり落ちてしまった。そして互いに木に激突し雨粒のように弾け、そして地面に激突した。しかも互いに打ちどころが悪く、そのまま亡くなった。

「何という事でしょう・・・、名勝負を見せてくれたのにもかかわらず互いに、息絶えてしまった・・・。決勝戦ではあってはならない、引き分けになってしまいました。」

 外からの声も、落ち込んでいるようだ。



 結局このラストバトルの結末が原因で、「世界最大最強虫王決定戦」はDVD化され世間に回ることなくお蔵入りされた。その後ヤマトタケルもシャイターンも、どうなったかはわからない。


 

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