第3話世界最大最強虫王決定戦・日本代表選抜
あの日から、俺の日々が一変した。俺は世界から戦う事を、強要されることになってしまった・・。
俺はあの日、木の上でいつも通りに過ごしていた。すると木に強い衝撃が走り、俺は木から落ちてしまった。しかしこれはしばしあることで、この程度の事では傷つかない。俺は本能的に動きを止めていたが、それが間違いだった・・。突然、体が宙に浮きあがり、今までにない大きさの者と目が合った。
「何だこいつは、顔が俺よりも大きいなんて・・。」
その者は俺をある所に入れた、そこは地面が黄色で木の匂いがする。しかし周りは一見何も無いように見えたが、歩いていくと俺はこんっとぶつかる感触を感じた。
「何だこれ!おいっ、外へと行けないぞ!」
俺はしばらく足を激しく動かしていた、しかしそうしていくうちにこれは「見えない壁」だということがわかった。
「どうしてこうなるんだよ・・・、俺はこのまま見えない壁に閉じ込められて、死んでしまうのか?
するとまたもやあの声がした。
「いいえ、これからあなたは武の道を進んでいく。そしてやがてはこの国一の小さき猛者となるだろう。」
この国一の小さき猛者・・・・、一体どういうことなのだろうか・・・。俺は考えるのも何だかと感じ、地面の中に入っていった。
こうして見えない壁での生活が始まった、どうやら俺以外にも見えない壁に捕らわれた者たちがいるようだ。腹を空かせていた俺は、木の上にある白い円に惹かれていった。
「何これ、凄く美味しい・・。」
俺は夢中で舐め続けた、木から出るもの以外の食べ物を食べたのは初めてだ。そして腹が満たされた俺はしばらくの間、静かに過ごしていた。するとまた体が宙に浮いた、どうやら俺は何者かに掴まれているようだ。そして俺は木の上に置かれた、しばらくするともう一匹が、同じ木の上に置かれた。その一匹は俺によく似ていたが、体の色が明るい色をしていた。
「日本ブロック・一回戦第二試合」
外からこんな声がした。
「赤コーナ・日本国本州出身・大和の荒武者・ノコギリクワガタ!六十ミリ。」
そしてその後、
「青コーナ・日本国トカラ列島出身・孤島の美しき剣豪・トカラノコギリクワガタ!六十三ミリ。」
と聞こえた。
「レディーーー・・・・ファイトーーーっ!」
そして何かが始まった、この木にはエサは無いようだ。しかし俺は相手と目が合うと、本能的に向かって行った。互いに顎を挟みあい、押し合いが始まる。
「さあ、互いに組み合って押し合っています!どっちが勝つのでしょうか!?」
俺は相手を上に持ち上げた、そしてそのまま下に落とした。すると「カンカンカンカンカーン!」という音がした。
「勝者・ノコギリクワガタ!」
こうして俺は意味も解らずに、勝負に勝った。その後はまた、見えない壁の中に入れられた。それからしばらくして、俺は再び木の上に置かれた。今度一緒になった奴は、俺と同じぐらいの大きさだが頭の部分が独特な奴だ。ちなみに俺は青コーナになっていて、奴が赤コーナになっていた。
「赤コーナー・日本国北海道出身・北の伊達男・エゾミヤマクワガタ!六十五ミリ。」
そしてあの合図とともに、戦いが始まる。エゾミヤマクワガタは以外にも押しが強かったが、持ち上げて下に叩き落した。
「勝者・ノコギリクワガタ!」
俺はまた勝った、しかし何か対価や利益を得たわけでもない。それでも戦うのは、生まれつきの本能によるものだ。
「全く、どうしてただ戦っているんだ?」
毎日自問自答した、きっと同じ見えない壁に捕らわれた者たちも、同じことをしていたかもしれない。そしてまた俺が戦う時が来た、今度はあの変わった角を持つ者だった。ただそいつは、白い目をしていた。
「赤コーナー・日本国本州出身・ホワイトアイズキング・国産カブト、ホワイトアイ!六十八ミリ。」
そして戦いが始まった。しかし挟もうとした瞬間、素早く下に角を入れられ投げられた。
「うわっ、ととと・・。」
しかし辛うじて、木から落ちずに済んだ。
「あいつ、強いな。」
「私の跳ね上げを受けきるとは・・・、久しぶりの強敵だ!」
そしてその者は、私に向かってきた。すると私の中に不思議な感覚が芽生えた。
「何故なんだ、追い込まれそうなのに・・・、この高揚する感覚は。」
そして私はその感覚のままに動き、ついに相手を持ち上げた。しかし高く上げすぎたのと相手の重さで、重心が取れずふらついた。
「あわわわ!」
すると相手が俺の顎から自分の角を自力で抜いた。
「見事なり・・・。」
そしてその者は落ち、俺は三度勝利した。
「また勝った・・、このままいくと一体どうなるんだろう?」
俺はふと疑問を抱いた。そしていよいよ、この戦いの大一番に差し掛かった。
「日本ブロック・決勝戦。」
俺と戦う相手が、木の上に置かれた。
「赤コーナー・日本国本州出身・大和の荒武者・ノコギリクワガタ!・六十ミリ。」
「青コーナー・日本国本州出身・日本の最後の大将・国産カブトムシ!・七十五ミリ。」
互いに向き合い、相手を見据えていた。
「レディー・・・ファイトーーーっ!」
いつもの合図で戦いが始まった、しかし俺と相手は向き合ったままだ。しかし徐々に互いの距離が縮まり、俺の顎と相手の角が触れそうになった。
「このままでは、埒が明かない・・。このままいくしかない!」
俺は咄嗟に奴の角の根本を挟んだ、しかしそれに合わせるように相手は角を俺の下から突き上げた。それにより俺は足が木から離れそうになってしまった。
「ぐぐぐ・・・。」
「こやつ、なかなかの粘りだ。」
相手も力を入れて持ち上げようとする、このままでは俺は跳ね上げられるか一気に投げられる・・・。俺はついに負けるのかと思った時、
「ここからが武神の真骨頂だ!」
とあの声がした。すると全身にあり得ない程の力がみなぎり、逆に相手を持ち上げようとしていた。
「何だ、この凄まじい力は・・。」
そして相手を一気に持ち上げた。
「うおおおお!」
そして俺は相手を振り投げていた、相手は凄く重かったというのにも関わらずまるで空気を払うように・・・。
「ばかな・・、この俺が、小さきものに投げられるなんて・・・。」
相手は空中で羽ばたいたが、それも空しく落ちてしまった。
「カンカンカンカンカーン!・・勝者、ノコギリクワガタ!日本ブロック制覇、日本甲虫代表決定だ!」
外の声が一段と盛り上がっている、どうやら俺は戦いの転換点にきたようだ。
「この次は、何が待っているのか。そしてこの意味なき戦いに、終わりは来るのか?」
俺は勝者の喜びを味わえなかった。
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