神川②

 しばらくは、席替えは行われない。つまり、高城と話す機会が沢山ある。

 もちろん、それを無駄にするオレではない。事あるごとに、高城にアプローチした。社会でグループディスカッションをするときも。給食中でも。道徳のビデオを見るときだって話しかけた。帰り道を尾行したこともある(毎回かれたけど)。

 それでも高城の戸は開かなかった。


 何回もトライアンドエラーしてきて、分かったことが一つだけある。高城は、明らかにオレだけを避けているのだ。

 頑なにオレと会話しないのは、始めは『男子を避けているからだ』、と考えていた。しかし、オレがよく遊んでいるヤツらとは、ある程度話していたのを、見つけてしまった。

 普通は、嫌われている、と思うべきなのだろうが、無理だった。高城はツンデレで、オレを好きだから無視している。そんな妄想までした。


 とにかく、オレは高城に惚れていた。



 なので、というと少し変だが、高城と仲がいい、久代と同じ班にした。班と言っても、夏休みにある林間学校の、町巡りのときの行動班である。

 行動開始後すぐに、久代から、

「リンから、聞けって言われたんだけど……」リンとは、水口のことだ。

「高城ちゃんのこと、好きだよね!」

「……」図星だった。

「「やっぱりか!」」同じ班の男子二人が、ボーイソプラノで合唱した。

「……高城ちゃんは可愛いもんね」右手の女子は何故か、少しだけ上から目線で言った。

「認めたってことでいい?」久代が聞いてきたので、「……まあな」と答えた。

「もー、素直じゃないんだから」久代まで上から目線なのは気にしないでおこう。

「じゃあさ、その、高城の好きなこととか、教えてくれよ」一応聞いてみた。

「それが人に頼むタイドかな?」久代はまだ偉そうな口調だ。

「高城の好きなこと、教えてください」

「よかろう」急に古文チックになった。

「おぜんざいとか、かき氷とか。あと、本が好きって言ってた」

「ジャンルとかはわかります?」

「タブン、怖い話とかかな」

「どんぐらい好きですか?」

「ケッコー試してるみたいなんだよ。夜中に学校に行ってね」

「じゃ、じゃあさ……」オレは少し考えてから、「この話、高城に教えてくれませんか」と言った。

「んーいいよ」快諾してくれたので、よかった。




 そんな訳で、今オレは、三階の男子トイレの手前から三個目の個室にいる。

 今日、久代から『高城ちゃんに、アノ話、伝えといたよ!』と意気揚々に伝えられた。なので、今日にも来るだろう。

 そして、種明かしのタイミングで告白しようと思う。いや、言い過ぎかな。それができなくても、『友だちになってください』ぐらいは言えるか。せめて、会話してもらえ……

 気がついたら、ドアはノックされた。多分オレは寝てしまったんだろう。そして、多分高城がドアの向こうにいる。オレは静かに百秒待とうとした。だが、

「ろくじゅういーち、ろくじゅうにー……」急に大声を出された。少し驚いて、便座がガタっと鳴ったが、気づいていないようだ。

 そして、その声は確かに高城のものだ。大丈夫、オレはちゃんとコクれる。

 それでも、「ひゃく!」なんて、盛大にで叫ばれたら誰でも、ひっ、と思わず言ってしまうだろう。オレもそうだった。

 ひっ、く、くそ。後から気づいたが、このときのオレはフレンドリーモードなどではなく、ただの戦闘モードだった。

 ドアを開けると、そこには、高城がいた。というのは幻想だった。

 は小三のような見た目で、和服を着ていた。髪型は、いわゆる、おかっぱだが、ハサミの切れ味が悪かったのだろうか、前髪が揃っていなかった。また、何故かは知らないが、向かって左の髪に、ボリュームがなかった。

 そして、彼女は空中であぐらをかいていた。

 間違いない。彼女は、幽霊だ。向こう側が透けているのも、決め手の一つだ。

 それに、あの幽霊に見覚えがあった。美術室にいた幽霊だ。

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