伝説
「朔良は、八上野伝説、知ってる?」
「知ってるけど、どんな話か忘れちゃった…」
「そっか。雪くんは知ってるよね」
「もちろん。幼い頃からここに住んでるし」
「敬語じゃなくていいってさっきから言ってるのに。まあいいか。不老の少年少女がいて、少年は月に、少女は太陽に嫌われていたのは知っているよね?」
「そこまでは私も覚えてるよ」
「この伝説はね、今でもずっと、この町で続いているんだ 」
少年は少しでも月に好かれるように、何度も夜に歩くようになった。夜の間、彼の姿は消えてしまって、人から認識されなくなってしまった。それはとても悲しいことだったが、それ以上に彼は夜の世界が好きでたまらなかった。
反対に少女は昼の世界を呪った。太陽が私のことを嫌うのであれば、私も太陽を嫌う、と昼の間は家で過ごしていた。日が暮れてから外に出て、真夜中に散歩するのが彼女の日課だった。夜の静かな世界が彼女の全てだった。それだけが彼女の味方だった。
ある夜、ふと彼女は神社を見つけて、吸い込まれるようにその場所へ足を踏み入れた。新しい場所に入るのは初めての経験で、なんだかわくわくした。
少女は、その神社の境内の奥に影を見つけた。近づいてみると、それは少年だった。少女には夜の間でも少年の姿が見えたのだ。二人はすぐに意気投合した。
少年はある時言った。君もただ嫌うんじゃなくて、一度昼の世界へ足を踏み入れなよ、と。君のその嫌う気持ちが、君が昼の世界へ行くことを許さないだけなのかもしれないよ、とも言った。
少女はその少年の言葉に勇気をもらい、昼に外へ出ることにした。すると、呪いは既に解けており、少女は少年のおかげで呪いが解けたことに気付く。何度もお礼を言おうとあの神社に行ったが、昼でも、夜でも、少年は現れなかった。呪いが解けた今、彼女の体は周りと同じように年を取るようになった。
少女は、大人になってから、あの少年のおかげで私の人生は変わったから、と言って少年の石像を作った。それが、駅前にあるあの石像なのだ。
「伝説から何百年も経った今でも、この地域に残ってるもの。それは、病だよ」
「病…?」
「ゆうくんと、朔良。そして、昔の雪くんと、あたし。月の光に当たると倒れる少年と、太陽の光に当たると倒れる少女。ちょっと違うけど、伝説に近いでしょ。この病を治す方法はたった一つ。少年と少女が出会って、恋に落ちること。ただそれだけ。雪くんとあたしは、その方法で治った」
恋に落ちる。自分の頭でぐちゃぐちゃになっていたパズルピースが、ぴったりとはまった。そっか。
「恋に落ちて、一定期間会わないようにしないと治らないみたい。二年前、同じことが起きた雪くんとあたしは、もう会わないように、あの神社に行かないようにしていたの。でも同じ高校にいて、また会えるなんて。変なの」
お姉ちゃんは泣きながら笑っていた。ちぐはぐな表情から本当はずっと会いたかったという本音が覗いた。
「だから大丈夫。信じて」
お姉ちゃんのその言葉で、私は決心した。
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