四日目

『紙を用意して』

「……はい?」


 対面に座る彼は、そう私に指図した。促されるままに私は、必要性の無い配布物を取り出し、白紙の裏面を上に向け机に置く。すると、次にと急かされ、五十音を書けと言われたからそのままに書いた。加えて1~9の数字も表記する。そして、『はい』と『いいえ』を文字列の上に書き、最後に鳥居のマークをその間に……。


「……こっくりさん?」

『正解。幽霊とこっくりさんなんて、きっと経験したことのある人間はいないはずだよ』

「こっくりさんって、複数人でやるモノだと思ってたんだけど。実体のある人間、複数人で」

『こっくりさんが存在するのなら、そんな人数なんて関係ないだろう? 正直なところを言うと、僕以外の幽霊ってのを見てみたい』

「……アクティブだね、梶くんは」


 クツクツと笑って彼は、十円玉の催促をする。その様子は、今まで、自然に笑っていたとか、生き生きとしていたとか、遠回しに表現していたけど。彼はやはり、明らかに楽しそうにしていた。それが私には、どうも……妬ましく思えてしまったのは、墓場まで持って行き後に埋めてしまおうと決意した。


『こっくりさん、こっくりさん。どうぞおいでください。もしおいでになられましたら『はい』へお進みください。……あれ、動かないね』

「当たり前でしょ。私が動かしていないんだから」


 こっくりさんは現れなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る