三日目
「三日目、だね」
『うん。ずいぶんと早いもんだね、時間が経つのは』
机を挟んで向かい合い、カウントを確認し合う。二日間とみっちり“おしゃべり”をしたところで、私たちの距離感が変わることは無い。
『じゃあ、今日は昨日、家で何をしたか教えてもらおうかな。普段何をしているか、どんな生活をしているか、ちょっと君の生態に興味があってね』
「幽霊は人間を観察対象として見るっていう習性でもあるの?」
『いやいや、気になるの君のことだけだよ』
君は少し僕と似ているから、共通点が見つかれば面白いな、なんて風に彼は言う。その言葉に、私は複雑な表情をせざるを得なかった。
『……あ、僕はね、この身体の特異性を使って、昨日はこの学校から家まで一直線、木も塀も家屋も通り抜けて帰ってみたよ。中々スリリングだったよ』
私が僅かの間思い出そうと頭をひねっていると、また彼は会話下手を発動させた。唐突の自分語りを好く人はそういない。やって気持ちがいいのは語る本人だけだから。そんなことを学ぶ機会は、彼には無かったのかもしれないけど……まぁ、きっと明日もこんなことが起きるのだろう。あまり気にしないでいよう。
それに、新しく得た情報、彼はこの学校に縛られているというわけではないようだ。だがそれも考えたら当たり前のような気がしてきた。死んだ場所は自宅なのだから、学校に縛られる道理は無いだろう。でも話ぶりすると、自宅に戻ること、家族に会うことに抵抗は無い……? だとすると、ますます自殺の理由が分からなくなる。家族には認められている、ならば居場所が無かったわけでは無いはずだ。だとすると一体……。
――自殺ってどういう風に思ってる?
不意に、あのときの、梶くんと話して初めてかけられた問いかけが過る。アレは、釘だ。きっと探ることすらもダブー。完全な拒絶を表していたのだと今更気づく。私の答えで彼が興味を引いたわけは、恐らく、悪く思っていない、つまりどうでもいいこと、探られる恐れが無いことを感じて、なのか。実際のところは分からないけど、下手に突く意味も無さそうだ。
『……木戸さん?』
「……なに?」
『一人ですごく集中していたようだけど、え、そんなに思い出そうと思っても思い出せないほど昨日は何もしてなかったの? 僕みたいなのができたから、少なからず普段にも影響出てるんじゃないかなとか思ってたんだけど、平常運転?』
「……そうだね、なら何もなかったかもしれない。食べてお風呂入って勉強して寝ただけ。平常運転が何も得られない生活、と思われてるなら癪だけどね」
癪だけど、でも……もしかしたら、死んだ彼、梶くんの方が、私よりも生きているのかもしれないと、そう思ってしまった。だって、私と話している間、梶くんは私の生きているどんな時よりも生き生きとしているように見えたから。
彼の存在が私に影響を与えているかと、彼はさっき言っていた。あぁ、かなりあてられているよ、梶くんには。おかげで私は、今どうして生きているのか分からない。死人より死人な気がするんだ。
今日の会話はあまり弾まず、帰宅を促すチャイムと共に私は席を立ち鞄を提げた。
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