二日目
『契約一日目……いや、昨日を入れたら二日目だね』
飄々と梶くんは手を振り、早くも面倒くさげな顔をしてみせる私に笑いかける。昨日しゃべったことを一日経つと忘れてしまうという特質が幽霊に微粒子レベルで存在するんじゃないかなーなんて淡い希望を抱いたりしていたけれど、それは空しくも打ち砕かれた。
昨日と同じように、対面に彼の分の椅子を用意する。それにならい彼も席に着き、また“おしゃべり”とやらの時間が始まった。
「はぁ……。じゃあ今日は何話すの?」
昨日と同じスタイルで、彼に進行を促す。私は基本的に話題提供をするつもりは無い。前にも述べたが、話したいならそちらが頑張ってどうぞ、なのだ。元々私にメリットが無いのだから、これくらいはしといてもらいたい。
彼はにんまり顔で口を開く。
『そうだね、まずはお互い、趣味とか話そうよ。事実僕たちがこんなに話し合うことなんて、昨日が初めてだったんだ。お互いのことなんて殆ど知らない。だから、どうだろう? 君について教えてくれよ』
彼は質問を私に投げかけてきた。その口ぶり、進行、これらだけで相当彼は対話が下手くそなことが明らかにされる。あなたは学ばなかったのか、質問に質問で返すなと。この知識を披露する機会を私は持ち合わせては居ないが、それでもこれはダメだということくらいは分かる。
この彼の失策を今、私は突いてあげてもいいのだが、彼は飽くまで死人。将来の無い亡霊。私が設けたことにより貴重になった時間を、彼にとっては生産性の無い事柄で潰してしまうのは少し申し訳ない。だから言及は控えておいた。
「趣味ね……。……漫画とか、一人でやれるゲームとかかな。後は――」
梶くん相手に何を言ったところで漏洩の心配は無いため、惜しむこと無く晒してやった。彼はひたすらに笑みを浮かべ、まぁ、楽しそうに見えた。ならよかったのだと思う。
お互い、と言うことなので、彼からも趣味を聞かさせてもらった。意外というか、少女漫画を嗜んでいたなんて暴露された時には驚いた。「嘘でしょ」と声すらも漏らしてしまった。けれど仕方が無いと思う。自殺した人間が都合と希望にまみれた人工物を嗜んでいたと言うのだ。てっきりそういう人間は、上手く回る世界線を恨み憎み蔑むものだと思っていた。
言うわけにはいかないのだが、希望を好む心があったのなら、自殺なんてしない方が良かったのではなんて。
なんの希望も抱かず、ただのうのうと生きている私は、そう思った。
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