#5 より輝くための第2章の振り返りと、倉名という影の主人公について
エピソードごとの振り返り、今回は1年生編の後半となる第2章とMarch of Interlude 2013についてです。
まずは第2章「Brighter Stage」、もっと強く輝く自分たちに変わろう、という意味合いです。
ストーリーとしては、
恒例のテーマ書き。
①直面する向き・不向きと、それぞれの個性が活かされる場所
②来る者と去る者、それぞれの視点
③演者にも観客にもかかる、ステージの魔法
④人間関係の波乱……の、前振り
これまでの中ではコンパクトな章ですし、二年生へのつなぎという側面も強いのですが。パフォーマンス描写は割と込み入っていたりしました。
①直面する向き・不向きと、それぞれの個性が活かされる場所
「合唱やりたいけど向いていないのでは」という前章での不安通り、ビギナーにしても圧倒的に向いていません希和選手。パートの師匠である
音楽面だけでなく、体育祭前後では工作や運動でも能力の低さを露呈しています……まあ、この辺りは僕自身の投影でもあるんですが(ちなみにこの前、「発達性協調運動障害」というワードを知って心がざわつきました)。
しかし周りの部員は、(不満は言いながらも)指導を工夫したり、他の役回りを与えたり、美点を見出したりして、しっかり「居場所」を与えているんですよね。
希和が歌い手として成長を実感できるのってかなり先の話になるんですが、そこまで至れたのは「頑張ろうと思える居場所」にいたからだったりします。
僕が雪坂合唱部に託した希望ってそこなんですよね、「才能も適性も平等じゃないけど、誰もが頑張ろうって思える場所」にしたい。
そして希和以外にも。
詩葉は練習のペースに不安を感じつつ、体育祭に対して後ろ向きな仲間を勇気づけたり。
春菜は特長のない自身にコンプレックスを感じつつ、できることにまっすぐに取り組み。
軽音がないため、渋々「歌う場所」として合唱部を選んでいた
新たに部長になった陽子はダンスでも活躍しつつ、同期への引け目を漏らし。
中村は教え方に苦慮しつつも、リーダーとして悩む陽子を支え。
部員それぞれの才能や感性が合わさり、合唱部の新しい色に、お互いの新しい魅力をにつながっていくという過程が描けたかなと思います……本当はお当番回をより明確にした方が良かったかなとも思いますが。
②来る者と去る者、それぞれの視点
希和の入部と入れ替わるように、前章で最高学年だった(
和可奈も練習終わりに労いに来て、後輩といちゃついたりしていますが。今回焦点を当てたかった……というより視点になってもらったのは倉名でした。
先輩視点の導入。一番の理由は、「パフォーマンス描写に、観る側の視点が欲しい」という単純なものです。ステージ側の心理を描きたいのは勿論なのですが、やっぱり観客側の方が書きやすくて。ミックスすることで、似たような描写の連続を避けたかったというのもあります。
しかしそれを抜きにしても、チームを抜けた側の「みんな、どんなの見せてくれるの?」「すごいの見せてくれるじゃん……!」と熱くなる心理は書きたかったんですよ。僕自身、引退してからまた新しいサークルの楽しさに気づいたりしましたし……というより、現役中は余裕がないことが多かったという側面もあるのですが。
加えて、代が変わることによる路線変更も描いています。和可奈たちはスタンダードな、コンクールで評価されるような混声合唱。陽子たちは華やかな、エンタメ成分を重視したパフォーマンス。
この二世代間については、やりたい方向性が違うのも、世代交代に合わせて路線変更することも、しっかり話し合って共有できていた……という一幕はほとんど書けていなかったのですが。
とはいえ、新体制側も「これで良かったの?」という不安はあり。それに対して、引退側の感動を通して肯定を示したかったのです。
そして顧問の
③演者にも観客にもかかる、ステージの魔法
体育祭パートも盛り上がったのですが、本章でまず描きたかったのは7-8話でのゴスペルパートでした。というより、このステージから逆算して合唱部の2学期を描いていた節が強いです。
4章を読んでくださった方には分かると思うのですが、合唱部ではありつつもゴスペルの存在感がより強くなっていますし、この先はもっとそれが顕著です。その「ノンクリスチャン(大体)の学生による現代的ゴスペル」の、あるいは「ステージで歌う/歌を聴くことで、心が救われる」の第一歩。
今回は一つの曲で、全員が動きも歌も別パートのパフォーマンスを、希和(演者)と倉名(観客)それぞれの視点からみっちり描くという形式でした。イメージを固めていくのはめっちゃ楽しかったんですけど、いざ文字に起こしてみるとなかなかの異形具合、消化しづらさになったような……とはいえ、今でも正解は分からないですし、理想と熱量を封じ込めたパートでもあるので、ぎっちり書いたことに後悔はないです。メンバーひとりひとりの魅力を描きたい、というのは変わらず。
ちなみに種目は違いますし、読んだのは書いた後になるんですが、朝井リョウさんの「チア男子!!」のクライマックスが、まさに「こういうの!」な描き方でした。二分三十秒のチアリーディングの中で、具体的な動作とそれぞれの心情、関係性を熱量たっぷりに描き出していくという、最高のクライマックス。朝井さんは読んでない作品ばかりなので、これから掘っていきたい作家さんでもあります。ちなみに「何者」は別の意味で超最高でした。
このステージの中で、希和は合唱部の一員であることの喜びや自身の変化を、倉名は先輩として合唱部を見守る幸せを実感し。
そして(説明されるのは後からですが)陽向も客席で、人生観が変わるほどの感動を覚えています。合唱部の演奏に、特に詩葉の表情に。陽向の人生はこの瞬間に狂いました、たぶん幸せな方向に。
僕は歌系の部活・サークルで、ステージに立ったことは何度かあって。悔しさとか自己嫌悪も多々あったんですけど、やっぱり「その瞬間は別の自分になれる」感覚を、何度も覚えてきて。遡れば、誰かの演奏に感銘を受けたから、ステージに立つルートを選んだ訳で。
そんな、ステージの魔法のような感覚が、本作の核の一つだったりします。
あの部活で、サークルで。僕はずっと足を引っ張る側、光を借りる側だったけど、その経験を小説にできる人は、そんなに多くないだろうから。
④人間関係の波乱……の、前振り
合唱部の恋愛感情の交錯です。3章が酸いも甘いも一気に動くので、その前振りをこの章のあちこちに撒いてあります。
・希和から詩葉へ(当初からですが)
・陽向から詩葉へ(8話、終演後の突撃)
・詩葉から結樹へ(5話、希和への相談)
・結樹から真田へ(同上、加えて3話での高跳び応援)
・中村から陽子へ(6話、部室での打ち合わせ)
・倉名から和可奈&陸斗へ(倉名視点の随所で)
……描写が一瞬すぎて印象に残らない説もありますが! ちょっとずつ撒きながら、「こいつもかよ」「ここ繋がるんかい」とニヤニヤハラハラしてくれたらな~と思っていました。
まあ、誰がどうなるとか、事前に明示してるパターンも多いので、「どこに」よりは「どうやってそこまで行くの?」の方に興味を持ってくれているのでは、と思っています。Twitterで上げてる小話とか、カクヨムでの数年後とかだったりしますし。
*
March of Interlude 2013
三学期も合唱部の活動はあるのですが、あまり大きなイベントがないのも確かで山場を発想しにくかったので、今回は(恐らく次年度も)スキップしています。
しかし卒業・進級は描きたい。そこで、三月を舞台にした幕間です。
サブタイトルを日付にしているのは、レミオロメンの「3月9日」の影響なのですが。この章のイメージとして一番強かったのは、音楽ユニット「三月のパンタシア」でした。通称三パシ。
三パシは「終わりと始まりの物語を空想する」というコンセプトを掲げており、青春の移り変わりのまっただ中を切り取るような、ノスタルジーを切なく刺激するような世界観を聴かせてくれます。高校生の三月に、これほど似合うアーティストはなかなかいない。
そして希和の一年次のこの時期は、倉名にスポットを当てました。和可奈との関係性、後輩への想い、同性に惹かれる自分の恋の形。
詩葉や陽向に先駆け、セクマイの自覚、性指向を巡る葛藤を最初に描いたのが彼でした。
現代日本で、レズビアンの子たちもヘテロ自認の子たちも含めて「百合」を描こうってのが本作の出発でして。昔も今も百合は深刻に大好きなんですけど、BLはそうではなく、むしろ苦手意識の方が強かったです。今では楽しめることも増えてはきましたが、正直好きとは言いがたいような。
(ただブロマンスとか宿命感は好きです。「PSYCHO-PASS」の男たちの関係性とか、超グッと来ました)
加えて、現実でも男子との濃い接触って苦手なんですよね。小学校くらいのいじめ経験が尾を引いているのか、他人の手が急に近くに来るとビクッとする。そんな意識もあって、男子→男子の恋を描こうという発想やモチベは、当初は全くありませんでした。
しかし1章を書きながら今後の展開を詰めて、詩葉がこれから直面する同性愛への悩みを考えるうちに、「僕がそうだったら?」という思考が頭を掠めるようになって。
マイノリティは男子側にもいるよね、という思考は棚に上げるつもりだったのですが、もう一度向き合わなきゃいけない可能性だと思い直して。
これまでに出てきた、あるいはこれから出てくる男子陣の人間関係と内心を洗い直したときに、倉名くんがそうなのでは、と気づいて。謎の多かった彼をゲイとして描こうと決めました。
和可奈とは恋愛感情の絡まないパートナーだ、という前からあった設定の裏側を掘った形ですね。彼の和可奈と弦賀への感情は、
“
世界で一番、大事な君と。
世界で一番、大好きなあなたが。
ずっと、幸せに、結ばれていますように。
この祈りを、自らの手で壊さずに済みますように。
“
というフレーズに集約されてます。作中でもトップクラスに気に入っているフレーズですし、シリーズでたびたび描いている「好きな人の好きな人は大事な人」の極致だったりします。
2章の途中から、倉名の内心に思わせぶりな記述を混ぜていたのですが、そこに注目したうえでその正体をじっくり考えてくれた人がいたら嬉しいです。和可奈に向いているというミスリードのつもりでもあったので。
後編(3月23日)では、卒業組と先生との送別会に加えて、中村→陽子の感情を改めて置いているんですが。こういう複数人数での恋愛物だと、「誰が誰の気持ちを知っているか、感づいているのか」も小さくないテーマになってくるじゃないですか。
例えば「同じ部の女の子が好き」という点は同じでも、少しずつ回りに開示している中村に対して、希和は誰にも言っていないですし。まあお互い割とバレバレで、知らない所で「どうなんだろね?」と盛り上がられているのですが。
けど、そういう周りからの憶測って、やっぱり異性間を前提にしていることが多いんだろうな、ということを書きながら実感していました。確率の問題でいえば外れではないのですが、意識するとやっぱり引っかかります……まあ現実的には、個人の内心を外から邪推すること自体どうなんだという話にもなりそうなのですが。
この時期の3年生コンビ、和可奈は「後輩から見た理想の先輩」で、倉名は「自分がなりたい理想の先輩」でした。4章の途中でラスカルさんに「素敵な先輩で溢れてますよねえ」という言葉を頂いたんですけど、同感です。
*
2章は高校編の起~承、こういう話だよって提示の側面も強いパートで。描写の仕方に悩みながらも、理想を詰め込んだ世界が形になっていくのはやっぱり楽しかったなと、振り返って思います。
どんな顔でもいい、あなたの脳裏に、ステージで躍動する彼らの姿が浮かびますようにと、祈りながら書き進めています。
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