#3 心を重ねて踏み出す第1章の振り返りと、fhanaの話。

 

 エピソード毎に振り返ろうということで、今回は1章について書いていこうと思います。

 タイトルは「Link Up Our Hearts」――心をつなげよう、です。


 本章の主なテーマ、恒例の箇条書きで。

 ①まだ友達距離、だけど好きな人をきっかけに踏み出して変わる自分

 ②他者に向き合うこと、言葉を通して伝えること

 ③部外から見た、合唱部の魅力

 ④分かり合えない、だからこそ際立つ「それぞれの色」「通じ合う尊さ」

 

 ストーリーとしては、希和まれかず詩葉うたはをきっかけに合唱部を取材して、居心地いいしみんな輝いていたので、あれこれ悩んでいたけど入部しちゃいました、ですね……まとめると短い……


 ①の、片想い要素から。

 好きな人と帰りを合わせたくて学校に残っているという、そんな頃もあったな(遠い目)なシーンから始まります。ただ言い換えれば、偶然会えば一緒に帰るくらいには仲良いんですよね。会話も軽快ですし。ただ希和と詩葉のペアというより、結樹ゆきまで加えての(中学時代からの)トリオとして仲良いってのが正確です。

 希和と詩葉のふたりっきりになっても、話題は結樹のことで。けど、お互いにストレートに「友達になれて良かった」とか言うくらいには、大事に思っているし、ピュアなムードです。ちなみにこの、詩葉から結樹への執着の深さってのも後々で大きな意味を持ってきます。


 その後、女性陣(というか詩葉)の「充実している合唱部をPRしたい」という声を受け、希和は属している報道編集委員の活動として、合唱部の取材を選びます。

 詩葉にも、そして合唱部の面々にも歓迎され、ときに評価も受けながら、「異性としての自分」に詩葉からの意識は向かないし、無理して向かせようともしない、そんなすれ違いもあり。

 恋人ルートの気配は薄いながらも。

「えへへ。けど私は好きだよ、君の言葉」(詩葉→希和)

「歌ってる時の柊さん、すごく素敵な、楽しそうな表情してるから。もしかしたら僕はそれにもつられたのかもしれない、とは言っておきます」(希和→詩葉)

 みたいな、勇気を出した発言もあって、友達距離ならではの爽やかな甘さってのも、あるんじゃないかなあと……


 ②他者に向き合うこと、言葉を通して伝えること……というのは、前回のノートでも触れた「自分の武器を、好きな人たちにどう関わらせるか」というテーマの一環でもあります。

 希和は、僕自身の投影なしには成立していないキャラなんですが、この要素は特にそれが顕著でして。学生時代に校内新聞制作に関わっていたのもそうですし、今も「推しを語る文を書く」活動は拙いながらも続けていますし。


 この頃は丁度、fhánaさん(ファナと読みます。主にアニソンシーンで活動している音楽グループで、本作ひいては僕の人生を語る上で欠かせない存在)の内面が明かされる濃密なインタビュー記事に物凄い感銘を受けていまして。コンテンツの背景や内面を知ることで、より鑑賞が楽しくなる、「取材と発信」という行為への憧れが強く。

 かつ、オリジナル小説を書き出した自分を、言葉で憧れと関わろうと踏み出した希和の昂揚に重ねているのも確かです。

「誰かの世界を伝えようと書くことに、誰かへと心をつなぐために記すことに、こんなにワクワクしているのだから」(5話)

「書いたものが響く楽しさを、どうやら知ってしまったらしい」(7話)

 そしてその熱のままに、二次創作小説に手を伸ばし始めた姿というのは、もしかしたら書き手でもある読者の方に、共感を頂けるのかもしれないと思っています。この小説きっかけで、キーキャラのつむぎともつながりますね。


 また取材記事には、テキスト担当の希和以外にも、レイアウトや指導担当の阿達あだち先輩や、イラスト担当に抜擢された由那ゆなの力も関わっており、個性を活かし合うチーム感も楽しいのではと思います。


 ③部外から見た、合唱部の魅力

 本作は「みんなで歌うの楽しいよ」な話でもありますし。合唱部PRのための取材のはずが、自分が入りたくなってしまうという希和の心情に説得力を持たせるという意味でも、また各キャラクターに興味を持ってもらう意味でも、合唱部の魅力はバシバシ描いています。

 初めて生で聴いたときの、その後の原動力となるような強烈な感動であったり(3話)。

 交替で歌いつないでいく輪に入ったときの、グルーヴ感や羨望であったり(4話)。

 ときには重たい事情を抱えながらも、大事な仲間と賑やかに過ごす温かさであったり。


 合唱に限らず、様々な演奏・発表においては、音だけでなく「表情」も大きな要素でして。希和は生き生きとした、真摯な顔つきにも惹かれていきます。特に詩葉の。

 僕自身、歌系の部活やサークルに、数年ほど身を置いていたのですが。やっぱり、音楽に身を任せ、あるいは音楽と向き合っているときの人の表情の彩りというのは大好きです。


 ④分かり合えない、だからこそ際立つ「それぞれの色」「通じ合う尊さ」

 4話で、合唱部の温かなグルーヴを浴びた希和は、その感覚を「心が一つになっていくよう」と形容しますが、和可奈わかなは即座にそれを否定します。彼女が「分かり合える、一つになれる」を否定する背景には、途中で部を去った仲間・畠野はたのの存在があったからでした。

 畠野にも去らなければいけない理由があり、だとしてもすんなり諦めるには和可奈にとって畠野は大きすぎる存在であり。この離別が、和可奈の蟠りの一つです。


 彼女のケースに限らず、同じ場所で同じ技芸、目標に取り組む中での各員の意識やヴィジョンの相違というのは避け得ないことだと思います。それはごく自然なことですが、抱える熱量が大きすぎるほど、ずれによる痛みは強く、無視できないものに変わっていく。

 そんな感情に対し、希和が記事を通して伝えようとしたのは「分かり合えないこそ、音楽によって心が通じ合うような感覚は尊い」「それぞれ違うからこそ、その場限りの輝きが生まれる」というアンサーでした。

 そしてこれは、次章から合唱部に飛び込み、「周りのようになれない」自分への苛立ちを覚えながらも、自分の強みを探していく希和自身にも活きてくる発想です。


 こういうテーマを描きたかったのは、僕自身が部活・サークルで何度となく、親しい人が去っていくのを見送ってきたから、という理由もあったのですが。

 それ以上に、fhánaの影響が大きかったです。彼らの作品、特に2nd アルバムの「What a Wonderful World Line」では、「人と人はそれぞれ違う、だから世界は面白い。分かり合えないことこそが希望だし、心が通じ合う瞬間は眩しい」というテーマを全面に押し出していまして。僕がもやもやと抱えていた孤独感や疎外感に寄り添ってくれた、そんな感動をストーリーに反映させたかった。

 このテーマに限らず、fhánaのこのアルバムはRN執筆の原動力として、欠かさずには語れません。まあ、fhánaの全作、存在自体に大きく影響されていることは間違いないんですが。ちなみに現在、fhánaの入門盤として最適なベストアルバムが好評発売中ですし、各種サブスク配信サービスでも広く展開されています。まずは一枚、あるいは一曲、ぜひお耳に。


 1章は2年以上前に、長編どころかまとまった一次創作の経験もない中で書いていたパートなので、技術的な拙さも目に余りがちですし、後はキャラの解釈違いも散見されるのですが。どうして当時の希和には中村がチャラ男に見えるのかすごく謎。

 それでも、「こういう話を書きたい!」という初期衝動は籠っていますし、読者様が何かのビギナーだった頃の、あるいは誰かを好きだと気づいた頃の感覚を刺激するようなパートにもなっていると思います。

 何もかも違う僕とあなたが、一瞬でも心が通じ合うような言葉を探しに。よければご覧くださいな。

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