第4話 決断

 法が施行されてから約1年のあいだ、俺はアイリの改修をせず、抗議活動に身を投じた。

 ヒューマノイドの皮を剥ぐなどという悪法が、世間に支持されるはずはない。

 地道に抗議を続ければ、世の中は理解してくれるはず。そう期待した。

 だが、情勢は一向に良くならなかった。


 ヒューマノイドたちが一向に改修をしないのを見て、政治家たちはいら立った。

「ことは人間の安全にかかわることであり、急を要する」

「ヒューマノイドの人間ごっこを許すことは、人間性の冒涜だ」

 政治家たちの主張が日に日に激しくなる中、再び機械が人もどきを守って人を殺した。


 これを受けて政府は規制を強化。警察が法に反対するグループのリーダーを逮捕し、彼らのヒューマノイドを押収した。

 世論は政府を支持した。ヒューマノイドは魅力的な容姿で若者をたぶらかし、少子高齢化に拍車をかけている。

 所有者たちがヒューマノイドを改修しないのならば、強制執行もやむを得ない。

 そして政府は、調査員の派遣を決定した。調査員は所有者の家を捜査し、違法状態のヒューマノイドを押収する権限を持つ。


 もう、アイリを今の状態のまま、俺の側に置いておくことはできない。

 時刻は23時を過ぎている。明日の8時になれば調査員が来て、アイリを調査し、必要であれば押収する。

 その先に待つのは強制改修だ。

 逃げる気概も、地下に潜って抵抗する勇気も、俺にはない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る