魔法人形と医療兵の少女(3/3)

シラヌイが戦場から戻ってきたのはスズとアリサが戦場から戻ってきて数週間、

戦争が終結してから三日後の事だった。

その知らせを聞いた二人はすぐに修理室へと駆け込んでシラヌイと

再会することとなった。

戦場から戻ってきたシラヌイは文字通りの無残な姿となっていた。

右腕は千切れており片目は失われ足がそれぞれ無くなっていた。


「これは君達の逃走を助けるために壊れるのを覚悟で

足止めしていたらしいな」

「治るんですか?」

「無駄だよ、ボディの替えならいくらでも効くが

肝心の記憶媒体がないのでは話にならない」

「あの、記憶媒体なら私達が託されました。」


とスズが言うと開発部門の局長は


「ふむ、戦闘データが無事なら以前と同じ戦闘を重ねられるな」

「ああ、私としては戦闘記録が残ってさえいればそれでいいからね」

「ちょっと待ちなさいよ!記憶データはどうするのよ!?」

「記憶データに関しては必要がない、むしろ邪魔だ」


とそう言った開発部門の局長にアリサは


「ふざけんじゃないわよ!コイツとアンタが良くても私とスズは

良くないのよ!」

「何を怒っているんだ君は、これはしょせん兵器でいくらでも

替えの効くただのだろう?」


と局長が訳が分からないという表情でそう言うとアリサは

勢いよく局長へと掴み掛かろうとしてすんでのところで

スズがそれを止めた。


「な、放しなさいスズこいつを殴らないと」

「駄目!!そんなことしたらここにいられなくなっちゃう」

「そんな事関係ない!!私はこいつを殴るの」


とスズとアリサがそんな会話をしていると突然入口から声が響いた。


「これは一体何の騒ぎだ?」

「おや、指揮官様」

「え」


と驚きと共に動きを止めて二人がそちらを見るとそこには

軍服に身を包んだキツイ目つきの女性が立っていた。


「これは何の騒ぎだ?答えろミケ開発局長」

「この二名が自分の隊の魔法人形の記憶データを消すなと

暴れかけていただけです」

「ほう、そこの二名所属部隊と名前を」


と指揮官が言うと二人はすぐさま敬礼し


「はい、第四部隊隊長アリサ・マリアベルクです」

「同じく第四部隊の医療兵スズ・ガーディナーです」


とそう答えた。

それを聞いた指揮官は目を細めると


「マリアベルク、なぜその魔法人形の記憶データに

こだわっている、戦闘さえできればいいだろう?」

「確かに、指揮官様の言う通りで戦闘データさえあれば

後はいいかもしれません。けどそれじゃ駄目なんです」

「なぜ?」

「記憶が消えてしまったらコイツは私たちの知るコイツじゃ

なくなってしまってだから、それがなんかいやなんです」


しばらく指揮官は黙ったまま考え込んですぐにこう言った。


「編成されまもない部隊でそれほどまでとは随分と愛されてるのだね

その魔法人形は」

「あい・・・ちがいます、そう言う意味じゃないんです」

「アリサ、落ち着いて」

「ふふっ、これからもその思いを大切にしなさい。

ミケ開発局長、その魔法人形の記憶データ残してあげなさい」

「はい?」

「今回は特別に認めよう」


と指揮官が言うとスズとアリサは互いに顔を見合わせ

指揮官へと頭を下げる。


「ありがとうございます!!」

「指揮官!?」

「いいじゃない、別れよりもずっと一緒の方が

寂しくないでしょ?」


という指揮官の命令に開発局長はその後無事シラヌイのボディを

完成させると記憶媒体をそのまま何一ついじらずに挿入した。



「無事、記憶が残ったままだといいんだけど」

「戻ってなかったらあの局長を殴ってやるわ」

「さすがにそれは駄目だよ」


コンコンコン


と不意に部屋の扉がノックされた。


「開いているわよ」

「失礼します」


と言って部屋に入ってきたのは真新しい軍服に身を包んだシラヌイだった。


「シラヌイさん!」

「シラヌイ!」


と名前を呼ぶと二人はすぐにシラヌイへと駆け寄った。

対してシラヌイは会釈すると


「お久しぶりです、具体的に言えば3日と18時間と30秒ぶりですね」

「正確すぎ、でも記憶が元のままでよかったわ」

「良かったですシラヌイさん」


とスズが言うとシラヌイはスズの頭を撫でて


「無事に帰ることが出来ず申し訳ありません」

「気にしないでいいんですよシラヌイさん」

「ところでシラヌイ、ちょっと顔を見せてくれない?」

「この距離でもよく見えると思いますが」

「いいから、こっちに寄りなさい」

「しかし」

「あーもー」


というとアリサはシラヌイの軍服を引き寄せ

そのまま口をふさいだ。

スズは驚いた表情でそれを見つめるとすぐに


「な、アリサ!?」

「人形なのに、随分と柔らかいのね?」

「この行動に何の意味があるのです?」


とシラヌイが問いかけるとアリサは


「秘密よ」


とそう答える。

二人だけだった空間に一人の少女が入り賑やかな空間へと変わるのだった。

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