第2話 惨殺少女☆メルアイヴィー!

 時は、晴れぬ闇が世界を覆った、後に死霊の宴と名付けられた騒乱の3日後。


焼け野原となり、今も火の笑い声と叫喚響く地獄より離れた街で。


「良い子のみんなーぁっ!! こーんにっちはーぁっー!! 歌って殺せて拷問できるみんなのアイドルゥーご主人様、メルアイヴィーだよぉー!!」


「ギャアァァァッッッ!! 逃ゲロ! 逃ゲロオォォッッ!!!」


桜色の髪を背中まで伸ばし血走った目を瞳孔から見開いた少女が『人間ではない者たち』を惨殺して回っていた。


きっかけは、闇夜晴れぬ今朝の候。


「ねぇねぇそこのピンク髪の可愛いお姉ちゃん、僕と一晩遊ばない?」


「おうこら三下、てめぇ何可愛い可愛いこのあたしに醜い面晒してんだ、あ"ん!? 膝にプリン打ち込んだろかおい!!」


「ヒッ!?」


この時まで、この時までは彼女メル・アイヴィー曰く、何もなかったと言うが。


「おー元気だな、一生泣き叫んでろ!!」


「ギャアァァァッッッ!!!」


自身に纏わりつく男の関節にプリン体を転送させて、今日も今日とて元気に社会のゴミ掃除をしていた時までは平穏だったと言うのだが。


「あ、隕石」


街は突如華々しく吹き飛んで、火の手が天高くまで舞い踊る。


「いや、えぇ……?」


そんな光景に、悶える男の頭を踏みつけていたメルは戸惑ったかのような声を響かせて。


「あ、また隕石」


現れた巨大な船に、察したような表情をした。


「愚カナ猿共ヨ……」


あ、これ知ってる。この展開知ってる。


白くなる頭の中でそんな言葉が浮かんだというメルは、強張った笑みを浮かべて後退り。


「我々ハ、貴様ラ猿共の言ウ宇宙人ダ……」


「ほらやっぱりぃっ!!」


「ゲェフッ!!」


天に浮かぶ巨大な船より響く無機質な声に、無意識に足下の男を踏み潰し叫んでいたという。


「手始メニ隕石ヲ落トシタ、理解デキヌ者ハ早ク滅ビロ」


「投げやりだなぁ……」


続く面倒臭そうな声に、足下で呻く男をより深く埋め込み呆れたような声を響かせて。


「オイソコノ頭オカシソウナ毛色ノ女」


続く声に、不思議そうな顔をして周りを見回した。


「そんな面白そうな人……」


だが、見渡せど見回せどメルの表情は晴れることなく。


「貴様ダ貴様地球の言語で『ピンク』とか言う毛を頭カラ汚ラシク伸バシテイル猿、貴様ダ」


続く言葉により視線を浴びたメルは、不思議そうな表情をし首を傾けて。


「何ト愚カナ、体ノ厚サガ薄イ者ハ言葉スラモ通ジヌトイウ噂ハ本当ダッタカ」


「おし、消すか。 魔法少女舐めんじゃねぇぞこら」


船より光を差されたメルは、額に血管を浮かべ中指を立てて吐き捨てた。


「プ リ ン に 飲 ま れ ろ !!!」


その瞬間、巨大な船は爆音と共に塵となり。


「私、爆発プリン作った覚えないんですけども」


呆然とする人々の中、1人微かな声を紡ぐメルは息を吐く。


「まぁしょうがないか、プリンは生き物だもん! たまには爆発したい日だってあるよね☆」


そんなメルは即座に表情を変えて何事もなかったかのように虚空から杖を取り出して、残虐な笑みを浮かべながら振り下ろす。


「てめぇらの記憶をぶっ飛ばぁすっ!!」


その瞬間、カメラを向け呆然と佇む群衆は吹き飛び記録装置は霧と化し。


「「ヘ、兵長、猿ガ野蛮デ怖スギマス……!!」」


新たに現れた船がそんな音を響かせながら急速旋回している様子に、メルは大きく息を吐き。


血走った目を瞳孔から見開き歪な笑みを浮かべて低い笑い声を響かせて。


「ぶっ殺ぉーす!!」


地獄の底より鳴るかのような、太く低い声を響かせ逃げる船を撃ち落とす。


逃げ惑い船より転げ落ちる敵が一体を跳躍して踏み潰し、メルは腰を曲げて頭を近づけ杖を向け。


「おうこら、てめぇの体擦り下ろしてプリンに練り込んで仲間に食わせたろうか、あ"ん?」


杖で目を抉りながら、腹に載せた足に力を込めて嘲笑う。


「3、3#$Ωωヲ助ケ……」


だが、銃を手にわらわらと集まる『人ならざる者』に忌々しげに舌を鳴らして息を吐き。


「ピーピーピーピーうっせぇんだよ……プリンの偉大さにでも泣いて死ね!!」


憤怒に顔を歪めて杖を振り下ろし、集まる者共をプリンで包んで嘲笑う。


「アーッハハハ!!! 死にたくねぇならプリン喰い切りな!! 食えたらの話だけどな!!」


「ゴボ……コボガボガ……!!」


涙を流し、声を挙げることすら能わず悶え苦しむ者たちを見ながら高らかな笑い声を上げるメルは、ふと思いついたかのような顔をして。


「いいこと思いついたっ♪」


杖を振って手近な宇宙人を粉にして、プリンに練り込み天へ上げ。


「お仲間入りのプリンがどんな味か、教えてもらってもいいですかぁっ!!」


遠巻きに様子を伺う人ならざる者へと落下させ、漆黒のプリンで頭部を覆う。


「あー、困ったなー。 これじゃあ味聞けないじゃん……」


最早苦しむ様子にすら興味を示さなくなったメルは、さらに手近な者たちを粉へと変えて漆黒のプリンを量産し。


「ま、いっか☆」


現れた瞬間撤退を始める船をさらに撃ち落とし、中より現る人ならざる者の穴という穴より押し込んだ。


誰も何も音を立てること能わず1体、また1体と倒れゆき。


「あ、ご退場がお望みですかー?」


ふと視線を動かした先で動く、自身より距離を取ろうと走る影を見て明るい声を響かせる。


だが、いくら待てども帰ってくるはずのない返答にメルは瞳孔から開いた瞳を禍々しき深紅に輝かせ。


「おい! 無視してんじゃねぇよ!!」


野太い声を響かせ杖を逃げる者へと向けた瞬間、逃げていた者は動きを止めて蹲る。


「へぇ……! 宇宙人にもプリン体は効果あるんだぁ……」


そんな様子に、メルは獰猛な表情を残虐に歪めて微かに嗤い。


「良い子のみんなーぁっ!! こーんにっちはーぁっー!! 歌って殺せて拷問できるみんなのアイドルゥーご主人様、メルアイヴィーだよぉー!!」


「ギャアァァァッッッ!! 逃ゲロ! 逃ゲロオォォッッ!!!」


響かせる高らかな高い声に呼応して上がる叫喚に、満足げな笑みを浮かべて杖を振る。


「みーんなぁーっ! 応援ありがとぉー!! お礼に、みんなの頭にプリン体の結晶を送っておくね♪」


そんな声が響いた瞬間、叫んでいた者たちは頭を押さえて蹲り。


「あっれー? 声が小っさいぞぉー? お礼はまだかなー!」


運良く魔法から逃れた者たちも、続く爆発によって塵と化す。


「アーッハハハ!!! たーのしいー!!!」


それがため、辺り一面に生体物が消えた大地をメルは何度も見渡して。


「ほら、もっとおいでよ。 まだいるでしょう……?」


新しい玩具を探すかのように、墜落した船の外装を手で千切る。


「「ギャアァァァッッッ!!!」」


そんなメルの様子に、中にいた者たちは我先にと飛び出し逃げて。


「ほら、やっぱりいた!! ねぇみんな……アソボウヨッ!!!」


この日、地球に攻め込んだ宇宙人は……一体の帰還者すら出すこと能わず消え去った。

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