魔法少女メル・アイヴィー
氷桜羽蓮夜
第1話 爆誕☆魔法少女メルアイヴィー!
終わりの調べが
闇夜に紛れ人ならざる者が牙を向いて腐った吐息を吐きかけて。
ここ桜島は、死霊が跋扈する人外魔境へと姿を変えた。
「何!?」
ある晴れた新月の夜、小洒落た飲食店の中で。
窓を割り、呻き声を挙げながら店内へと侵入する人間を見て少女、メル・アイヴィーは悲鳴のような叫び声を響かせる。
だが、彼の者はそんな叫び声など気にした様子もなく窓辺にいた女性客に近寄って。
「ちょっと、な……ぎゃあぁぁぁっっっ!!!」
ふざけるなと口を開いた女性客の頭を抑え、首筋を噛み切り咀嚼する。
「え……?」
店の空気は一瞬止まり、何の冗談だとでも言いたげな視線が店の中を駆け回り。
遂には噛み切られ虹彩を失った首が転がり落ちたのを見て、初めて生者たちの顔から血の気が退いて。
「「きゃあぁぁぁぁぁっっっ!!!」」
「「わあぁぁぁぁっっっっ!!!!」」
蜘蛛の子を散らすかのように窓辺からは客が捌け、店内にいた客たちは入り口へと押し寄せて。
「誰か!! 警察を……」
一番最初に扉から出た男性客が、そう叫んだ瞬間だった。
「グアァァッッ!!!」
正面に立った血塗れの男が、叫ぶ男性客の肩に噛み付いた。
「は?」
呆然とした声を響かせる男性客だったが、そんな男性客から男は離れ。
「ヴァアァァッッ!!」
頭部を殴り、抵抗能わぬままに地へ引き倒して殴りつけ。
「ち、ちょっと……」
「何……? 何なの、これ……!!」
ようやく街の様子が異様なことを悟った客たちが、顔面から血の気を退かせて辺りを見回し。
「し、翔吾ちゃん……!!」
「瑞穂ちゃん、無事なの……!?」
1人2人と家族や親しい者たちを探すために、客たちは思い思いの場所へと足を向け。
「そんな……!!」
100メートルも移動すること能わぬままに、徘徊していた
そして、当然とばかりに最後に残ったメルへと食人屍たちの視線が刺さり。
「ひぃっ!?」
メルは頭を抱えて蹲り、呪詛が如く意味のない言葉を延々と紡ぐ。
そして、
「やっほー☆ 君、生き残りたくないかい?」
この場の空気には似合わない、軽薄で弾んだ声が軽やかに響く。
「え……?」
腕に置かれた手の感触に驚いたような表情をして、メルは右腕の方を仰ぎ見て。
「もう、何が何なの……?」
自身の右腕に手を置く、無表情の熊の縫いぐるみを見て息を吐く。
そんなメルに、対する熊の縫いぐるみは表情を動かすことなく相対し。
「僕は……おっと、残念ながらそんな時間はないみたいだ。 僕が君に言いたいのはたった1つ。 君、魔法少女やってみない?」
先程よりかは低い声を響かせて、時間がないと選択を迫る。
「え……? え……?」
戸惑うメルに、近づく
「時間がない。 生きるか死ぬか、早く決めてくれたまえ」
唐突に威厳のある低い声を響かせた縫いぐるみは、戸惑うメルの腕から手を離して一歩引き。
「残念だ、惨たらしく死ぬがいい」
呆然と固まるメルにそう吐き捨てて踵を返し、振り返ることなく歩を進める。
そんな縫いぐるみに、メルは手を伸ばして口を開けてはまた閉じて。
「ま……待って!!」
腐臭が迫った瞬間に、意を決したように縫いぐるみの方を見据え。
「私を……助けてください……!!」
祈るかのような、縋るかのような叫び声を響かせる。
その声に、縫いぐるみは体を反転させてメルの方へと目を向けると。
「願いを言え!!」
低く、荒々しい声で吐き捨てる。
そんな縫いぐるみの態度に表情を変えることなく、メルは大きく息を吸い。
「力を!! この状況で生き残れる、力が欲しい!!」
刹那に満たぬ瞬間に、体が輝き桜色の鎧を身に纏う。
その様子に、縫いぐるみは初めて顔を綻ばせ。
「さぁ、それが君の新たな力だ!! 思い浮かべ、実行しろと願うだけでいい!! 君の活躍を祈っているよ!!」
最初現れた時のような、軽薄で弾むような声を響かせ空気に交じる。
「え……? ちょ……」
そんな熊に、手を伸ばして呆然と固まるメルだったが。
「グアァァッッ!!」
頭を掴まれた瞬間に、右手で拳を握り首を噛み千切ろうとする
自分の体から引き離し、蹴り飛ばして距離を取る。
「あれ……? 力強くなってる……?」
疑問げな表情を浮かべるメルだったが、立ち上がる
「えぇっと、思い浮かべるだけだとか……」
微かに困惑したかのような表情をしながらも、指を振って
「……ウソー」
頭部がプリンで覆われた
だが、窒息する前に
「……アハッ☆」
手を伸ばし弓を顕現させて、手を掲げ煌々と燃える矢を握り。
「よく出来ました♪」
プリンが噛み切れる正にその瞬間に、眉間目掛けて躊躇うことなく撃ちつける。
「グガアァァァッッッ!!!」
顔を抑え叫ぶ食人屍だったが、元凶たるメルに浮かぶは残酷な笑みで。
「よくも怖がらせてくれたなっ☆」
指を鳴らして辺り一体の食人屍をプリンで包み、弓を消滅させてバズーカを顕現させて。
「アッハハハハハハハ!! 死ね!! 燃えろ!! 藻掻いて苦しんで泣き叫んで死ね!! 私を怖がらせた罰を、思い知れ!!」
先程の
「我はプリンを愛し主神ゴッドプリンより天
啓を受けたプリンの使者!! プリン教教祖メル・アイヴィーだぁっ!!
歪で狂ったように嗤うメルは、燃える町並みを背に高らかな笑い声を響せて。
「グ……ガアァァァッッッ……」
呻き声と共に起き上がる、肩を噛まれ頭部の原型を失った男を見てその顔を嗜虐的に歪ませた。
「アッハハ……さいっこぉっ……!!」
愛しげな息を吐くメルは、指を鳴らし液体プリンを
傷口より流し込み、握るバズーカを消して燃え盛る棍棒を現し手にとり、血肉と脳が零れ落ちる頭部へ目掛けて振り下ろす。
「ガアァァァッッッ!?」
燃え上がる頭部に手を当て悶える
「アッハハハハハハハ!!!」
歪な笑い声を響かせながら、集まる
跳躍し地を駆け燃え盛る棍棒を打ち付けて、
棍棒で燃え盛る火が手に近づいてきたところでメルは棍棒を投げ捨てて、先程顕現させたバズーカをまた手に取って。
「もし神様がいるなら、この状況に感謝してやるよ!!」
叫ぶことすら許されず藻掻き苦しむ者たちを、歪でよく響く高らかな笑い声と共に吹き飛ばし。
「あっれー? もう終わりー?」
煌々と燃える炎だけが揺らめく視界に、メルは嗜虐的な笑みを崩すことなく残酷で弾むような声を響かせる。
そんなメルは、まだ見ぬ
怯え地下に隠れる
桜島を跋扈する
その日、起こった前代未聞の
「すばらしい、これは期待以上だ」
事の推移を火の手が回らぬ建物の屋上から見ていた熊の縫いぐるみは、無表情で愉悦に満ちた声を響かせた。
何度も何度も島を周り、本当に
世界が常夜に飲まれたことを知るのは、まだ先のこととなる。
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