1-5
グループチャットのメンバー全員の既読がついた…。
「やった、やってやったぞ、僕は…」
智浩は何故か達成感を感じていた。ベルナデットはアチャーといった表情で、手で顔を覆っていた。
「とも…ひろ。大変な真似を…慣れない事をさせたからこうなったのか…」
LINEのグループチャットは不気味な静けさだ。誰も何も書き込まない。当の春野バンディエッタちゃんからの返信もない。
「あれっ、誰も何も返さない…」
「みんな、気を使っているんだYooo!」
智浩は不思議そうだった。
「バンディエッタちゃんの返事がないんだけど、なんで!?」
「当たり前だ! みんなの前で返事なんか出来るか!」
これでは告白がうまく行くはずのものでも返事など貰えるはずもなかった。
「あっ、僕は良かれと思って…」
ポジティブ過ぎるシンキングで、いらん気を使った結果、こうなったようだ。
「トモヒロのバカヤロー!」
「うわっ、バンディエッタちゃんは今どう思っているんだろ…」
と、ポコッと一つメッセージが出て来た。『台風来てるけど、みんな大丈夫?』と、春野バンディエッタ以外の女生徒のメッセージだった。
『こっちは大丈夫』『うちも問題無い』などのメッセージが飛び交う。
その間、春野バンディエッタは黙ったままだった。
智浩は『こっちは大荒れで雷も酷く、停電したりしたよ』と返した。
智浩がLINEでメッセージを送った途端に、グループチャットはまた無言に包まれた。
「何この雰囲気。もしかして僕やっちゃった!?」
「Yes.yes.yes…」
ベルナデットは頭を抱えている。
「誰も一言も喋らないんだけど、なんで!?」
「トモヒロ〜。なんで君は自分自身を追い込むような真似を…」
「一対一でいきなり告白されても気味が悪いだけかなと。ならみんなの目の前のほうがいいかと思って…」
「なぜそこでそんな訳のわからない気を回したぁぁぁ! Fuck!」
ベルナデットはあらん限りの悪態をついている。聖霊にあるまじき姿だ。
気がつけば雨は弱まっていた。台風は通り過ぎたようだ。
しかし、智浩は嵐の渦中にいた。荒らしはいないが、壮絶な人生の嵐の中だ。
救世主智浩の伝説の始まりだった。同窓会で様々な武勇伝や逸話が語られる男、智浩の始まりだった。
「みんな…何か言ってくれよぉぉぉお! バンディエッタちゃんもまさかの既読スルー?」
「うーん、それが無難だもんなぁ。普通はそうするかも。波風立てない優しいバンディエッタちゃんに感謝するんだぞ、トモヒロ?」
ベルナデットはポンと智浩の肩を叩いた。
小学生にして、色濃い沙汰の伝説を持つ男。威霧智浩が春野バンディエッタに告白したという噂が後程学校中に知れ渡ることになる。それもこれからの智浩伝説の中では些細なものかもしれない。
「うわーん!それは無いよぉ!頑張って告白したのに、返事無しなんてぇぇ!」
諸君。世の中は白か黒か。イエスかノーかだけでは無い。グレーもあるし、このように返事無しもある。
智浩は一歩大人の階段を登った!
レベルアップ!みたいに言ってみました。ええ。レベルアップかもしれませんし。
「ともあれ、トモヒロは一歩前進したんだ。おめでとう。君の周りの人間も、春野バンディエッタ自身も君の気持ち『は』知っている」
「うわーん! 学校に行きたくないよぉ!」
「それはダメだよ。ちゃんと学校で向き合うのサ! 面白い事になってきたゼ! ヒャッホー!」
ベルナデットはハイテンションで楽しそうだ。反面、智浩の表情は暗い。
「それもこれもベルナデット。お前のせいだぞ! 責任を取れよぉ!」
「トモヒロ、今回の件は自業自得であると思うぞ?」
「うわーん!」
気がついた時には雨がやんでいた。
「トモヒロの人生は私がちゃんと導く。大船に乗ったつもりでドンと構えたまえ!」
「ベルナデット。よく言う表現だけれど、それって絶対泥舟だろう!」
「やだなートモヒロ。潜水艦じゃないと安心できないのだろう? 私は天界から遣わされた原子力潜水艦だ。安心すると良い」
「まさか、沈みゆくのか僕の人生は!」
「アッゲアゲで行きますことYo! ヒャッハー!」
「…まさかうちに居座るつもりなのか!」
ベルナデットは天使のように微笑んだ。
「正解! 親御さんは既に説得済みだyeah!」
「そんなバカな! いきなり受け入れられるわけがない!」
「おたくの息子さんを救世主にするために天から遣わされたと言ったらすぐだったよ。ヨロシクなBrother!」
「なん…だって…」
智浩の家に居候。新たなる家族、ベルナデット。
どうなる、少年。人類の救世主、智浩。君の未来に幸あれ!
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