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 どちらもが黙る。口を開けぬ空気があたりを包んだ。先に口を開いたのはベルナデットだった。

「トモヒロ。うまくいくから告白するのかというと、違うだろう。君は彼女が好きだ。だから告白する、だろう」

「僕みたいな意気地なしに告白されたら、相手がきっと迷惑だよ…」

 ベルナデットはこれはいけないと感じたようだ。何がなんでも告白させたほうが後々に良さそうだ。一度度胸をつけるだけで良いのだ。成功か失敗かの違いなど、面と向かって告白できたかできなかったか。恋愛と言う問題に正面から取り組めたかどうかの問題でしかない。

「トモヒロ。私が天の使いたる聖霊であることを忘れているな? ましてや、今は君の問題に関して全権を委任されている存在だ。君の助けになるためなら、私はなんだってやれるのサ!」

 ベルナデットは小さい胸を張った。

「君はどんな手助けをしてくれるのさ!?」

「よくぞ聞いてくれました。私の存在意義が問われる時! 見せましょう。天界の秘蹟の数々を! まずは天の宝物から。蔵よ開け、いでよ、幸せキャンディ🍬!」

 ベルナデットがステッキをクルクルと回す。光の渦が現れ、その中からビニールに包まれたキャンディが現れた。

「これは?」

 智浩はキャンディを拾ってベルナデットに尋ねる。

「一つ舐めるだけで幸せな気分になれる天国のキャンディさ! 多幸感があるうえ、まるで自分が全知全能になったかのような気分が味わえる!」

 智浩が不安そうな表情になった。

「なんだかヤバイ材料なんじゃないだろうな!」

 チッチッチッとベルナデットは指を振る。

「天界に危険なものなどありませーん!」


 先に言わせてもらおう。ベルナデットは嘘をついている。危険なものだらけである。後々わかることであるので、今は説明は避けよう。ともかく、効果はてきめんだが、安全性の保証がされているわけではないことだけは先に告げておく。


「1つだけ?」

 智浩はビニール袋を開けようとしている。

「舐めすぎると大変な事になるからね」

「…やっぱり危険そうだな」

 智浩は嫌そうな表情だ。

「幸せも程々が一番さ!」

 ベルナデットはニッコリ笑った。

「…じゃあ試しに使ってみるよ」

 智浩はビニール袋を開けて、包みからキャンディを取り出した。

 意を決して口の中に放り込む。

「激甘っ!クッ、きっく〜!」

 智浩は頭を抑えてクラクラしていた。

「まずは徐々に多幸感が来るYo!」

「ハァハァ、なんだか幸せな気分になってきた気がする」

「バッチリ効いているね! 鬱な人も一発で廃に…ぢゃなかったハイになるんだ。様々な幸せってものがあるもんだ。これは手軽すぎるのでご禁制の品だがさ。まぁ、今は有事だしちょっとくらいならダイジョーブ!」

「えっ、ご禁制? それってまずいやつじゃあ…」

「人間は幸せ依存症なんだ。病みつきになっちゃうのさ。何も得ていず何も達成していない状態で、容易く幸せ物質に身を浸していてもなんの為にもならないから禁止されているんだ。でも、今の君にはこんな仮初のものでもポジティブになれる道具が必要なのさ」

「はれぇ、気持ちが良すぎて何も考えられない…」

「作り物の幸せ物質は今回はただのおまけ。本質はこれからさ!」

 智浩は幸せそうな表情で顔を緩めている。

「はれれぇ、今なら何をやってもうまく行く気がしてきたぞ!」

 幸せな時は何をやってもうまく行きそうな気がするものだ。

「よし、効いてきたみたいだね! さぁ、さっそく愛しの春野バンディエッタちゃんを克服…ぢゃなかった告白だ!」

「僕が…バンディエッタちゃんに告白…よし、やったるぜぇ!」

「彼女の連絡先は知っているのかい?」

 智浩はスマホを探し回った。

「あったあった。LINEなら連絡先がわかるよ」

「ヨシ、今日はそれでサクッと告白だ!」

「…告白ってどうするのさ?」

 ベルナデットがずっこけた。

「小学生だものな。わからなくても仕方がないよね☆ 借り物の言葉なんかより、智浩自身の言葉が一番いいんだけど」

「なんて書いたらいいかわからないよ。頭の中が真っ白だ!」

 智浩は好きな子のLINEアカウントを見ただけで舞い上がり、何も考えられなくなっている。

「そだねぇ。好きです。付き合ってください。で良いんじゃないかな。シンプルが一番伝わりやすい」

「じゃあ、その言葉をバンディエッタちゃんに送るね…」

 智浩はスマホを持ったまま動きが止まった。

「どうした、トモヒロ?」

 ベルナデットが智浩の顔を覗きあげる。

「やるならみんなの前で堂々とやらなきゃフェアじゃないよな? グループチャットで告白するよ」

 智浩はあろうことか、グループチャットで『バンディエッタちゃん。君が好きです。付き合ってください』と書き込み始めた。

「あっあっあっ。トモヒロ、後々困る事になるかもしれないから辞めたほうが…」

「いや、堂々と好きだと言えなきゃそれは嘘だ。エイヤー!」

 智浩はグループチャットで告白してしまった。薬…では無くキャンディの万能感が影響しすぎたようだから

「なぜそんな大胆すぎるやり方を押し通したー!」

 ベルナデットは絶叫している。

 智浩のメッセージに1つ、2つ、3つと既読が付いていく…。

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