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「トモヒロ、任せたまえ! 私達にかかれば、君を導く事くらい朝飯前だとも! 君の子供時代の人間関係を整理しよう。少年時代の体験が後々に影響を及ぼしているようだからな。まずは橘剛たちばなつよし君。武闘派で将来世界を掌握せんとする子供。君は彼によくいじめられていたようだな」

「ツヨシの事!? なんでそんなことまで知っているの!」

 智浩は驚いている。

「フッ、君の事なら過去から未来に至るまでリサーチ済みなのサ!」

「怖っ、まるでストーカー!」

「君は天界では有名人なんだよ。生まれる前からの、ね」

「そんな僕がどうしてヒキニートなんかに…」

「君は少年時代から勉強ができず、運動も苦手で周囲に劣等感を抱いたまま成長してしまった。故に不幸が起きたんだ。まずは君の少年時代を正すのさ。勉強や運動も大事だが、ミュニケーション力がとても持て囃される時代だ。周囲との人間関係の構築が上手になれば、大半の物事はうまく行くさ。さぁ、ツヨシ君を見返してやりに行くぞ!」

「ムリデス」

 智浩は急にテンションを下げて、布団の中に包まった。

「ムムッ、こんなすぐに挫折するとは!」

「人間、急に変われたら苦労なんてないさ」

「一見悟ったかのような諦観、良くない、良くない。It's so bad!」

 智浩は布団を顔まで被った。

「僕の事なんか放っておいてくれよ!」

「トモヒロ…いきなり大魔王に挑むようなものか…ツヨシ君は将来、世界の25%を征服する覇王にまで成長するんだ。君が勝てないと思うのも無理はない」

 智浩がガバッと起き上がった。

「ツヨシ君は有言実行しちゃうの?」

 ツヨシ君とやらは常日頃から世界征服すると宣言しているようだった。

「彼も君と同じ偉大なる者の一人に数えられている。そんな彼にいきなり挑もうと言うのが失敗だったようだ。まずは彼の子分の御堂狩夫みどうかりおに挑もう」

「カリオ君? カリオ君はイケメンで金持ちで女の子からもモテモテで、僕に勝ち目なんかないよ」

「フッフッフ。No problem! 私達天界の調査で、彼には背が低いというコンプレックスがあると判明している。弱点を付けば倒せるぞ!」

「えっ、それはいいことを聞いた。みんなに言いふらしてやろう!」

「うむ、その調子だ、トモヒロ!…救世主としてどうなのかと言う手段に訴えるのは別として」

「勝てばよいのさ、勝てば! その為には手段の是非など値しない!」

「う〜ん。やはり将来のトモヒロの片鱗が見えている。いいことなのか何なのか…」

 智浩は少し自信をつけた、否、調子に乗り始めたようだ。

「なんだかやれそうな気がしてきたぞ。他にはどんなところを改めれば良いのさ?」

「そうだね。天界の調べによると、君は同級生の春野バンディエッタちゃんに片思いをしていたという話が出ている。だが、告白できずに初恋を拗らせて大変な事になったとか。ずばり、告白しちゃいなよ、You?」

「えっ、ムリムリムリムリ! てか、なんでそんなことまで知っているの!?」

 智浩は顔を真っ赤にさせて両手を横に振った。

「天界に不可能はない。さぁ、恥ずかしがらずに今すぐ告白しちゃいなYo☆」

 ベルナデットは面白半分に介入しようとしている。他人の色恋沙汰に関わるのが好きなおませな天使だからだ。ギリシャのキューピッドに憧れを持っているようだった。

「他人事だと思って、告白するだなんて簡単に言わないでくれる!?」

「だって、他人事じゃん。ホラホラ、ウジウジしていないで思いの丈をぶつけちゃいなヨ!世界が変わるかも☆」

「ムリムリムリムリムリムリ! 絶対にムリ! どうせ僕なんて…」

「はいそこ。どうせ僕なんて、など言わない。悪い口癖其の一が出ましたー。捨てよう、劣等感」

 ベルナデットがブーブー文句を言う。

「そんなこと言われても、勉強はできない。運動は苦手な僕がどうこうしたところで、振り向いて何てもらえないさ!」

 ベルナデットは呆れた顔で智浩を見つめている。いや、見下している表情なので、表現は適切ではなかったかもしれない。

「トモヒロ。君は勝てる戦いしかしない主義なのかな?」

「誰だって負けるのは嫌に決まっているだろう」

 ベルナデットはニヤリと笑った。

「ホホウ。負けるのは嫌だとおっしゃいますか。なるほどなるほど。ならばなおさら戦わねばなりませぬなぁ?」

 ベルナデットはニヤニヤ笑っていた。何やら良からぬことを考えている表情だ。

「負けたくないから嫌だよ」

「戦わなければ不戦敗で負けだ! さぁ、今すぐファイティングポーズだ!」

 ベルナデットはまたしてもズビシと智浩を指差した。

 智浩はベルナデットの言葉を受けてショック状態だ。

「不戦…敗?戦わなければ、負け?」

「そうだとも。恋愛も戦いだ。君はどこの誰ともしれない男を不戦勝で勝たせるつもりか? 一生不戦敗を引きずって生きていくつもりか? 君の想いはその程度か?」

「なっ、そこまで言わなくてもいいだろう!」

 流石に智浩が怒り始める。

「ごめん。トモヒロがそんなだから、私はついカッとなってしまった。君は戦いの舞台にも上がらずに負けようとしていたんだ。それをつい見過ごせなくて」

 場を沈黙が包んだ。

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