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轟く雷鳴。闇を切り裂く閃光。停電は直ったが、いつまた停電するかわからない。
「トモヒロ。よく聞いてくれ。君は本来救世主になるべくして生まれたんだ。だが、何らかの手違いで歴史が狂い、君はヒキニートになってしまう未来がある。そうなると世界は滅亡してしまうんだ!」
窓の外に閃光が走る。即座に轟く雷鳴。雷が近いみたいだった。
「僕がヒキニートになるだって!?」
そんな未来は嫌だ。僕の人生は勝利と栄光に彩られてなくてはならない。
「だが安心してくれる? そんな破滅の未来にならないように私が来たのサ! Yeah!」
ベルナデットは決めポーズをしている。テンションが気持ち高めのような気がする。天の国はこれが標準なのだろうか。
「ベルナデット、君の気持ちは理解した。そんな嫌な未来を回避する冴えたやり方がある。君の協力が必要なんだ。手伝ってくれ!」
僕はキラキラした瞳でベルナデットをまっすぐ見つめた。
Webカメラスタンバイ。
僕の部屋の中に燃え盛る火輪。
「レディース、アンドジェントルメン! 皆さんお待ちかねの今日のトモヒロ・チャンネルは、なんと天使ちゃんの登場です! 彼女はあの火輪を無事くぐる事ができるのかご覧下さい! さぁ、行けっベルナデット! 君に決めた!」
僕は床にピシャリとムチを振り下ろした。
「ギャァァァス! 何この天使使いの荒さ! トモヒロ、待て。何をする!」
「僕の夢はユーチューバーなんだ。君が僕のチャンネルの目玉になってアクセスを稼げれば、僕はヒキニートにならずに済むだろう? さぁ、協力してくれ!」
僕は再びムチを振るった。
「ヒグゥ!」
ベルナデットは奇声を上げながらピョ~ンと火輪をくぐり抜けた。
「皆様、ご覧いただけましたでしょうか? 恐らくは世界初、天使の火輪くぐりでございまーす。拍手!」
「何が拍手だ、このっ、このっ!」
ベルナデットがゲシゲシと僕の後頭部を蹴り上げた。
「イテテッ! これなら閲覧数がうなぎのぼりたろ! 僕の輝ける人生が今始まる!」
ベルナデットはWebカメラをゲシゲシと蹴っている。
「なんて人間なんだ。この年齢にして、既に最悪の未来の片鱗が垣間見える! こうなったら天界の介入によって、君の人生をハイジャックする!」
「待ってくれ。ハイジャックってなんだよ!」
「フッフッフのフ! 私には君を更生させるために天界の全権が委ねられているのサ! 人材の投入も神器の持ち出しも自由! さぁ、天界より来たれ、導きの使徒よ。いでよ、語り部天使!」
ベルナデットがステッキを振るい、くるくると回っている。だが何も起きないようだ。
「なんだよ、誰も現れないじゃないか」
そんな事はございません。地の文は語り部天使がハイジャック致しました。これより、将来の救世主。
「甘いな、トモヒロ。君を更生させるためならば、武力介入さえも辞さないゼ!」
ベルナデットは大胆不敵に笑った。既に智浩の人生への天界からの介入は始まっている。
智浩には何が起こったのかわからなかったようだ。
「なんだ。こけおどしか。この天使め。驚かせやがって!」
「将来の夢がユーチューバーだなんて、そんな時代を反映したかのような子供の夢を持っちゃダメぢゃないか! 君は百億人に一人の選ばれたものなんだヨ?」
ベルナデットの攻勢が始まる。
「僕が百億人に一人?」
「そうなんだ。だから、よくありがちな小学生の夢を掲げるなんてナンセンスなのさ!」
ベルナデットが人差し指を智浩に突き付ける。智浩は既にベルナデットの術中にハマっていた。
「ユーチューバーになりたい小学生になってはだめだと!?」
「小学生がなりたい職業の上位ランキングにユーチューバーがある。と言うことは、大半の小学生が憧れる職業というわけだ。君は自ら大多数と同格の者に成り下がろうとしている。それが事実なのだヨ!」
智浩は考えても見なかった論理に激しい衝撃を覚えた。
「僕の将来はあらゆる人類をぶっちぎりで凌駕した存在になれるのか?」
ベルナデットは満面の笑みを浮かべた。それは天使ながらにデビルスマイルと言っても良い笑顔だ。相手が思惑に乗ってきた喜びによる笑顔だからだ。
「なる。だからこその神に選ばれた者。君は大衆に迎合した子供になってはいけない!」
天界がこんな調子だったからこそ、かつての
「僕の未来がわかるんだ? 僕の将来のお嫁さんは誰なのさ。最悪の未来と言うからには、とんでもないモンスターと結婚するとでも言うの?」
チッチッチッ。と、ベルナデットは指を振った。
「甘い、甘いね。トモヒロ。君はヒキニートだったんだよ。生涯独身無職さ!」
「なん…だって…それで住所不定なら詰んでいるじゃないか!」
「そうぢゃなくても詰んでいるって!」
「そんな未来は嫌だ!」
「では、これから私が言う話をよく聞くんだ!」
ベルナデットはとても真剣な表情だった。
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