ネモフィラとアルメリア_5

 二人は再び道を進み始めたが、しばらくのあいだは気が抜けたように呆然とした思いだった。

 ネモフィラは彼に尋ねた。

「あの、何があったの?」

「賊に襲われた」

 アルは少しごまかした説明をした。詳しく話したところでややこしくなるだけだと思った。

「そうなの?」

「ああ、唐突だった。どうしようもなかった。オレは君のおかげで命拾いしたけど」アルはため息をついた。

「あの、亡くなったのはお友達?」

「まあ、知り合いだ。そこまで親しいかといわれると微妙だがな」

 少しの間沈黙があった。

「そうだ、君はなんて名だい?オレはアルメリア」

 それからアルは少し考えた。宮殿にいたときは皆からアルという愛称で呼ばれていたが、街ではリーというのが彼の愛称だった。「まあ、リーという愛称が多いな」

「そう?アルっていう方が、似合うと思うけど」

「じゃあ、好きなように呼べばいい」

「私は、ネモフィラ。みんなからはネモって呼んでるわ」

「そうかい、よろしくネモ。ともかく、あんたは命の恩人だ。なにか礼をさせてくれないか?」

「そんなこと、突然言われても」

 感謝されるのは悪いことではなかったが、ネモはどうしたらいいものか、すぐには思いつかなかった。

「まあ、それもそうかもな。ところで君は旅をしているのかい?」

「ええ、始まったばかりだけど」

「じゃあ、迷惑じゃなければ、ついて行ってもいいか?」

 ネモはそれを聞いて少しばかり迷った。どこの人とも知れないのと一緒に旅をするのは大丈夫なのだろうかと。しかし、怪我を治したのに違いはなかったし、彼は礼をしたいといっている。無表情な感じだったが、悪い人のようには思えなかった。

「まあ、別にかまわないわ」

「それじゃ途中で、なにか礼ができるかもしれない」

「勝手にしてちょうだい」

 それからネモは再びアルに尋ねた。「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど、もしかして図書館で会ったことあるかしら?」

「図書館?」彼女の唐突な質問にぽかんとしたが、それから彼は苦笑した。

「それは、オレが滅多に行かないような場所だ」

「そう、」

「なんでそんなことを?」

「いえ、まあ、なんていうか」

 彼女が言葉に迷っているうちに、アルの方から先に答えた。

「知り合いにでも似てるってか?」

「まあ、そんなところよ」

「他人の空似ってやつだな」

 それから、またしばらくの間は沈黙があったが、唐突にアルの方から聞いてきた。

「ネモ、もしかして君は、製本の都市の出身か?」

「そうよ。どうして分かるの?」

「いや、なんとなく。あまり旅に慣れている雰囲気じゃないし、大変なことになっただろう?」

「そうね、」

「実は製本の都市の出身なんだ。正直に言うとオレも旅を始めたばかりのとこ」

「そうなの?」ネモは同じ都市の出身と聞いて、少し親近感がわいた。

「じゃあ、やっぱりどこかで私と会ったことがないかしら?」

「さあ、ないと思うけどね」

 そう言われてネモは思った。やっぱり自分の思い違いなのだろうかと。たしかに、図書館で会った青年より少し背が低い感じがしたし、見た目だっていたって庶民という感じだった。

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