国王 ロベリア

 ロベリアは王である。大陸の中部に位置して、古くから厳格な王政を営んできた都市の国王なのであった。とは云うものの、圧政を敷いているというわけではなく、市民はごく普通の、慎ましく平和な暮らしをしていた。ときには独裁国家だという声も聞こえたが、実態としては可もなく不可もなく、どこにでもあるような都市の一つだった。

 しかし、あえて問題点を取り上げるとすれば、王政でありながらロベリア自身が宮殿の王の間にいないことが多いということだった。ロベリア自身が玉座にいることは滅多になく、重要な意思決定以外の政治運営は忠誠を誓った家臣数名と市民から選ばれた幾人かの議員による合議制で行わせていた。

 そうして彼は、政治よりも自身の趣味に時間を割くことを好んだのだった。その中でも歴史研究に傾倒していた。ほとんどの時間を書庫にこもって過ごしていたのだった。城の地下、かつては牢獄だった場所だ。とはいっても半地下構造でもあり、大規模な改築をして天井付近には明り取りの窓があちらこちらに作られていた。そのため、日中は意外なほど明るかった。部屋にあるのは大量の本棚とそれを埋める書物の数々だった。買い取ったり、時には略奪にというかたちで、大陸中から集められたものだった。もちろん、所蔵はここだけにとどまらず、都市の中心地には大陸でも最大規模ではないかと思うような図書館も存在した。

 そのためか、ロベリア王の代になってから、いつしかこの都市は‘書物の都市’といわれるようになっていた。そうすると、噂を聞きつけた学者たちが、なにか新しい発見はないものかと知識を求めて訪れるようなった。都市の図書館は、ますます発展することとなった。


 ともかく、彼がなぜここまでするかというのは、純粋な知識欲によるものだった。もちろん、そこから何か役に立つことも得られるとは考えていたが、知への探求心の方が勝っていた。特に、今となっては神話としてしか語られない‘神々の時代’についてひどく惹かれていた。

 それで、ロベリアは時折夢想することがあった。かつての神に仕えた時代の完全な知識や技術が手に入ったならば、大陸全土を支配できるかもしれない。しかし一方で、我々を見放した神々が、もし当時の文明を復活させたと知ったとしたら何が起こるのだろうか?神話でしかないことだが、神の怒りに触れたときの世界は、一夜にして混乱と災いがもたらされたという。もし、同じ仕打ちをうけるのならば、諸刃の剣であるともいえる。彼は神に対する恐れの念も持ち合わせていた。つまり、どちらかというと信心深い性格だった。

 彼は貪欲な知識欲は持っていたが、大陸中の都市を支配し、世界の王として君臨したいというところまでの欲は持ち合わせていなかった。むしろその知識と論理的思考が、そのような欲求は不必要だと彼に教えていた。近隣の都市だけならまだしも、大陸全土の都市を支配しようとするとどうなるか?とにかく、まずは人手が必要となる。それに武力で抵抗された場合の対処や、そのための兵力。各地への迅速な情報伝達の手段の確立など、さらにはそれらに必要な資金。考えれば考えるほど、必要な事柄は増えていった。都市連合を作るのですら、非常に苦労するというのに大陸全土を手中に収めようなどとは、ロベリアにとってバカげた考えに過ぎなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る