少年兵 アキレア

 大陸南部の海岸沿い、年間を通して温暖な気候に恵まれ、海は青く透き通っていた。砂浜のある海岸から、海へ向かってまっすぐ一本の橋が伸びていた。さらに視線を海にやると、その先には巨大な島が一つ、まるで海に浮かんでいるかのような姿を見せていた。橋は神に仕えた時代に作られ、橋桁は巨大な石を切り出して作られたと伝えられていた。そして、満潮の時になると橋は水面下に沈むようになっていた。それが、わざとそのように作ってあるのかは分からなかった。

 ともかく、この島も多くの市民が暮らし、他の都市のように国王が存在していた。ただ、政治の実権を握っているのは軍だった。


 島に住んでいる少年の一人、アキレアは貧しい家の生まれだった。父親は工場の労働者。母親は病気がちで、内職でわずかばかりの生活費を稼いでいた。ただ、島では食料の配給制が敷かれていた。それでも階級や職業によって、その差は大きなものがあった。貧しい者は、配給だけでは足りない食料を買うために働かざるをえなかった。


 アキレアは都市の法律に従い、軍に入隊した。この島では男女問わず、基本的に二十歳になる前に一年間の軍事教練を受けなければならい決まりになっていた。人によっては、そのまま軍人としての道を進むものも少なくなかった。

 とにかく、少なくとも軍人でいれば一般労働者でいるよりも、高い給与と多くの配給を受け取ることができた。そのため、彼も立派な軍人になることを夢見ていた。そうすれば両親にも、今よりはいい暮らしをさせることができると思ってのことだった。

 こうした国民皆兵的な体制は、島の産業とも関係があった。都市ぐるみで傭兵業をしているのだ。もっとも陸での活動は少なく、沿岸沿い都市の船舶護衛という内容が主たるものだった。ある意味、島というかたちならではのものだった。高性能な大砲を搭載し、海岸都市の中ではずば抜けた速力を持つ帆船が彼らの武器だった。

 さらに、この島の近海では航行する船に対して、海上交通の安全維持と通行料の名目で金銀や積み荷の一部を徴収していたのだった。確かに近海の諸国からすれば恩恵は大きいかもしれなかった。が、遠くの大陸北部の都市からしてみれば、儲けを取り立てられるのは癪にさわることだった。中には合法的海賊だと、皮肉交じりに言う者もいた。とにかく北部の都市同士は、連合を組むことでこれに対抗しようとしていた。

 とにかく、陸から離れたこの都市がうまくやっていくためには、こうした活動は欠かせなかったのだ。


 そして、アキレアは同年代の男女とともに新兵の教育部隊に入れられ、厳しい訓練の日々が待ちかまえていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る