第4話 ホントの気持ち

キーンコーンカーンコーン。気だるい思いを抱えたまま、授業が始まった。

私は、ミサとの楽しかった時間を思い出しながら、ノートにお絵かきしていた。

何書こうかな…。あ、ミサ書こう!

一応授業中なので、ノートでもとりつつお絵かきする。

輪郭を描いて、目や髪を書いていく。ただの暇つぶしなので全然上手くないし、似ていない。本物はもっと美女なのだ。

服を描いて、手足を描いていく。腕のところを描くあたりでペンが止まった。

…そういえば、バンドがしてあったな…。本当に入院中なのかな?

もしそだったらかなり大事のような気がする。

仮本当に入院中だったらどうしよう?なんの病気なんだろう…。

なぜ抜け出してきたんだろう?なぜあまり(というかほぼ全く)知られていないあの店に行ったんだろう?

聞きたいことはたくさんあった。

むーんと、考えていると、目の前に大きな影が現れた。

「……川、夏川っ!授業中に何している!?」

あ。やべ。考えるのみ夢中になってて、全然気づかなかった……。

素直に「ごめんなさい」と、言ったら先生は、「これだから最近の若いやつは……」

などぶつぶつ言いながら教壇に戻っていった。

よかったあ。あの先生怒ると面倒くさいんだよね。

そこから私は、懲りずにお絵かきを続けた。

やっと授業終わり、休み時間になった。

「杏~。さっきの時間、ずっと絵を描いてたね。何描いてたの?」

沙良が笑い気味に問いかけてきた。

私は、えへへ、と言って、「女の子描いてた。」と、言った。

「え~! 杏の描く絵見たいな。」

二人が見たがったので、調子に乗って絵を見せた。

「しょうがないな~。これだよ。」

どうだ!とばかりに絵を見せると、二人が固まって、困った顔になった。

「どう? どう? 上手い?。」

「う、うん…。げ、芸術的だと思う…。」

すすすと、目をそらしながら沙良が言った。

「杏ちゃんって、絵が下手なんだね、可愛い。」

私は二人の言葉に雷が打たれたような衝撃を受けた。

……え?私って、絵、下手なの?

沙良はまだしも春乃は容赦ない辛口コメントである。

「この絵、そんなに下手!? けっこう自身あったのに…。」

しょんぼりする私を見て、春乃が

「大丈夫だよ、絵が下手でも生きていけるよ。」


たしかにそうだが、そういう問題じゃない気がする。

「それで? 杏は誰を描いたの?」

その質問に私は、本当のことを言うか嘘を言うか迷ってしまった。

一瞬間があって、「これは創作の女の子だよ」

と、言ってしまった。

ああ……。また嘘をついちゃった。『カフェで少し話した女の子』なんて言ったら、

どんな顔されるのかな、と思ってしまったのだ。

やっぱり私は、まだ全然友達を信じられてない。そんな自分が嫌になった。

「そうなんだ。」と、だけ言うとチャイムが鳴って授業が始まった。


その日の放課後、私はあのカフェに行った。ミサがいるかも……という小さなきぼうを持って、扉を開けた。

いつものお菓子を頼んで、いつもの席に座る。


まだミサは見えなかった。


……今日来たら、バンドのことについて聞こう。

聞くかすごく迷った。聞いちゃいけないことかもしれない。でも、ミサは私が唯一嘘無く話せる友達なのだ。それにミサなら嫌なら断るだろう。

そう考えていると、カランカランと、一人の客がやってきた。


ミサだ!


ミサもこちらに気付いたようで、近づいてきた。

「久しぶり? そんなことないか…また会えたわね。」

「そうだね、会えてよかった」

私はそう言うと、ちらっとミサの腕を見た。

この前あったバンドがなくなっている。

あれ? なんでだろう……。もう退院したのかな。


「ねえね、ミサ聞いてもいい?」

本を読んでいたミサに話しかけると、声だけで「ん? なあに?」と、言った。


「答えたくなかったら答えなくても大丈夫だからね。おのさ……、この前会ったとき、手に『入院中』のバンド付けてなかった……?」


ミサは本を読むのをやめて、私の方を見た。なぜか笑っていた。

でも、悲しみが込められた悲しい笑顔だった。


「知りたい?」

ミサにそう聞かれて、一瞬戸惑ったが、コクリと首を縦に振った。

ミサは立ち上がって会計を済ませた。続いて私も済ませる。

ミサは店を出て、私が帰る方向と逆側に向かって歩いていった。

ついてこいって、意味かな? とりあえず何も聞かずにミサについて行った。


20分ほど歩くと、病院に着いた。

「ここだよ。私、ここに入院してるの。」

予想があたってしまったことに、杏は鳥肌が立った。


「え……? じゃあなんで今ここにいるの!?」

そう聞くと、あははと笑ってこう言った。


「私、もうすぐ死ぬの。重い病気なんだって。だからやりたいことをして、好きなように生きるの。」


ミサは、そんな一大事を何事もないように言った。


目の前が真っ暗になったような感じがした。

ミサがもうすぐ亡くなる? この世界からいなくなる? 病気? 理解が追いつかなかった。理解したくなかった。

「抜け出してること、病院の人には言ってるの?」

「いいえ、私が勝手に抜け出してるの。楽しいじゃない?」

楽しい……??? ミサは自分の命を助けようと思わないの?

「治療は? しないの? 助からないの?」

少し考えてから、

「いいえ、すっごく辛いけど、助かる方法はあるらしいわ。」

と、言った。

「しないの? その治療!?」

「ええ、しないわ。辛いのにそこまでして生きたい? そこから幸せがあるなんてわからないのに。」

「生きたいよ。死んだら、全部終わりだよ。」

それもそうね、と、つぶやいて歩き出した。

「……私ね、友達関係が上手くいかなかったの。それで病んじゃって。体調もどんどん崩しちゃったのよ。だったら、そのまま楽しく死のうかなーって、思ったの。」

……そうなんだ、ミサでも悩むことあるんだ。


「私だってそんなことあるよ。中学生のとき、本のことを話したら、ドン引きされて本オタって呼ばれたんだから。そこから友達が一切信用できなくって……。

今でも悩んでる。今日だって、嘘をついちゃったもの。

そんなの誰にでもあるの。」


ミサがびっくりした顔でこちらを見てきた。


「そうなの…? それは中学校の人たちが悪かっただけよ。今の友達は、信用できそうなの? 一回勇気を出して、本のこと好きって言ってみなよ。世の中そんな人達ばかりじゃないよ。逆に本を好きで嫌いっていう人の方が少ないわよ? ……勇気を出してみなよ。」


私はその言葉に感動した。今まで身近にそんなことを言ってくれる人、いなかったからすごく嬉しかった。


……一回言ってみようかな。沙良も春乃もいい友達だもん。わかってくれるはず。


「ありがとう……。 勇気出してみる。だからミサも頑張ろうよ? 生きようよ……。

ミサに生きていてほしいの。まだ会ったばかりだけど、すごく気が合って、一緒にいる時間が好きなの。」

ミサはぽろぽろ泣きながら、ありがとうと、繰り返して、生きると言った。

そして、病院に帰っていった。


次の日、朝2人に、

「折り入って話があるのッ! 放課後、明けといてッッ!」と言った。


2人はポカンとしてから「ラブレター渡されるみたいだね」と笑いながらOKしてくれた。


1日の務め(授業)が終わり、放課後になった。


3人しかいない教室で、2人はワクワクしながら私が話し出すのを待っている。


「あ、あのね。。。! 私ね、本が好きなの!! 本の事を考えると暴走しちゃうの! 私がそうでもきらいになりませんか。。。?」


2人は今までみた事ない程 ポカーンとして、笑い始めた。


「え?え?なんで笑うの!?」


びっくりして言うと、2人は「え? 本好きだからきらいになる? そんなのあるわけないじゃない!!」


と言ってくれた。普通にうれしかった。


…… 勇気出して良かった.


「あ、あとそれとね、中学の時にね・・・ 。」


私は中学の時のことを話した。それで信用できなくなったことも。でも2人は、すごく優しい言葉をかけてくれた。


「そうだったんだね、信用できないっていうのはしょうがないと思うし、誰にでもあると思うよ。 みんながみんなそういう人だと思わないで。

私たちは、その人たちとは違う人間だよ。時間はかかるかもしれないけど、少しづづでいいから信用してもらえたらいいな」 と言ってくれた。


なんて良い人たち。心の底から友達でよかったと思った。

抱き合いながら、3人は笑いあっていた。


そしてチャイムが鳴った。


そんなことがあってから、何年何ヵ月と時は経ち、社会人になった。


今日は約束がある。


東京のすみっこの方に私は向かっていた。


ある店につき、白い扉を開ける。 中に入ると懐かしい香りと音楽が私の中で一杯になった。


「おぉ! 大きくなったね。もう社会人かい?」

「はい、社会人になりました!」

「そうか、そうか、じゃあいつもの、お祝いに無料(タダ)にしておこうかな」


ニコニコ笑いながら言ってくれた。

お礼を言っていつもの席に座る。

少しすると誰かが入ってきた。


「久しぶりね、今回は、本当に久しぶり。」


ばっと顔を上げて見たのは、間違いなくみさだった。


「みさ!! 久しぶりだね!体はどう!?」


「完治したわ…… 大変だった。 でも生きててよかった。」


その言葉に安心した。


みさに会えてよかった。


みさが生きてて良かった。


思えば、みさとであったのもここだった。


友達は信用できるが、一番できるのは、やっぱりみさだ。


あの白い扉を抜けると、私は安心できる。  

ここの店は、私にとって『不思議な世界』なのだ。


この店が大好きなんだ。


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白い扉の魔法 @moka1124

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