死ぬほど偏屈

「はい、長野のおみやげ」

 僕を見舞いに来た桜丸さくらまるは、笑顔とともに「大河歴史マロン」と書かれた小さな包みを差し出した。

「高校の同級生の家が和菓子屋さんでね、これが一番人気だって」

「でもこれ、誤植じゃない?歴史ロマンなのに」

「マロンでいいんだよ、砕いたマロングラッセが入ってる羊羹だから」

「そうなんだ。ありがとう」

 納得してその包みを受け取り、一番気になってたことをきいてみる。

「僕のこと、怒ってるよね」

「どうして?」

「僕がインフルエンザになったせいで、美蘭と長野に行けなかったから」


 桜丸は僕と美蘭みらんの幼馴染で一つ年上。僕らは全寮制の小学校という、ある意味孤児院みたいな場所にいたので、友達より兄弟に近いかもしれない。でも彼は六年生の時にいきなり学校から消えた。

 父親が事業に失敗して一家離散し、長野の親戚にひとり身を寄せていたらしいけれど、そんな事情はつい半年ほど前、偶然に再会した後でようやく知った。彼は今、都内の大学生で、特待生なんて待遇の割に、住んでいるのは風呂トイレ共同の安アパート。毎日のようにラーメン屋でバイトを続ける極貧生活。こういう人生経験だと、多少はすさんできそうなのに、超がつくほど前向きな性格で、子供の頃から変わってない。

 彼は美蘭が好きだけど、美蘭の態度は支離滅裂で、謎だ。まあ美蘭が誰かを本気で好きになるなんてありえない話。そのはずだった。しかし彼女はこの前いきなり「クリスマスは桜丸と長野に星見に行くから。小梅こうめの世話はよろしく」と言ったのだ。信じられなくて

「泊まりだよね」と念を押したら、「昼間に星が出るのかよ」と切れたけど。


「別に怒ってないよ。そりゃ残念ではあったけど、代わりに友達が来てくれたし」

 桜丸はそう言って居間のソファに腰を下ろし、傍で丸くなっていた三毛猫の小梅を抱き上げると膝にのせた。この猫は気難しいけど、彼にはよく慣れているので嫌がりもしない。

「そういうんじゃなくて、何ていうか、せっかく美蘭と一緒に泊まるはずだったのに」

 ようやく、桜丸も僕の言いたいことを理解したらしくて、困ったような顔つきになった。

「あのさ、今回のツアーって、天文台のあるペンションに行って、望遠鏡で星を見て、テラスで寝袋に入って星空眺めて、それから展望台まで登って日の出を見るっていう内容だったんだよ。二人っきりになる時間なんてないから」

「美蘭はそれ知っててOKしたの?面倒くさいとか言わなかった?」

「まあ、最初はあんまり乗り気じゃなかったけど、たまにはいいかもねって」

 まさか。だって美蘭はアウトドアも寒い場所も団体行動も大嫌いだし、寝袋なんて窮屈なものに入るはずがないから。

「嘘みたい」

 思わず僕が呟いたその時、玄関のチャイムが鳴った。郵便だろうか。二階にいる美蘭が降りてくるはずないので仕方なく出て行くと、一番会いたくない相手が立っていた。

亜蘭あらん!インフルフルで大変だったね!もう、心配しまくり!」

 サバエはそう言いながら飛び込んできて、「うわーお、外から見てもすごいけど、中も素敵なお屋敷だね!」と、はしゃいでいる。

「ねえ、どうしてここがわかったの?」

「何言ってんの、ラインくれたじゃん。死ぬほど退屈で寂しいから遊びに来てって、地図までつけて」

 またも美蘭のなりすまし。僕は彼女をどうやって追い返そうかと考えながら、とりあえず居間へと案内した。

「あ、こんにちはです。私、亜蘭の彼女のサバエです」

 彼女が先客の桜丸に挨拶すると、彼もにこやかに自己紹介した。

「初めまして、須賀すが桜丸です。美蘭から聞いてたけど、君が亜蘭の彼女なんだ」

「そうです!まだなりたてだけど。でもって、ニャンコンニチワ!」

 サバエはいきなり屈みこむと、桜丸の膝にいた小梅の前足を両手でつかんでぶら下げ、勢いよく揺さぶった。

 僕が止めに入るよりも早く、小梅は「ビャア!」と叫んでサバエの手に嚙みつき、老猫らしからぬ素早さで猫用ドアから逃走した。

「うわあびっくりした!凶暴ニャンコだね」と手をさすっているサバエに、桜丸は「大丈夫?」と声をかけているけど、彼女の肌には歯型すら残っていない。

「あの猫、人間でいったら百歳超えてるんだから、乱暴な事しちゃ駄目だよ」

 サバエは「もう、亜蘭って本当にニャンコに優しいよね」とか言ってるけど、小梅が死んだりしたら僕と美蘭はこの屋敷を出なくてはならず、そんな面倒くさい事は一日でも先延ばしにしたいだけだ。

「さてと、これで亜蘭のおうちも確認できたし、そろそろ次いこうか」

「次?」

「なんか今日ね、黙如もくじょさんのお寺で餅つき大会やるんだってよ。クリスマスも終わっちゃったし、お正月モードなんだね。インフルフル治ったんだから遊びに行っちゃおうよ。桜丸さんも来ない?」

「そうだね。美蘭も一緒に来ないか、誘ってみようか」

「絶対無理」と、僕は即答した。

 美蘭はそういう、「なんとか大会」が死ぬほど嫌いなのだ。しかしサバエはやる気満々で、「なんで?きいてみなきゃわかんないよ。美蘭の部屋って二階?呼んでくるね」と地雷原に向かっていった。


 どういう思惑なのか、美蘭は僕らと一緒に東林寺の餅つき大会に参加した。

 よく晴れて風もないので、けっこうな人数が集まって賑やかだった。小学生や中学生と大人が半々ぐらいで、この寺の檀家らしい高齢者もかなりいる。

 本堂の前に石の臼を置いて、その脇にはキャンプ用のテーブルが置かれている。テーブルには割烹着を着たおばさんが三、四人いて、彼女たちに教えられて子供たちが餅を丸めていた。辺りには埃っぽいような、蒸した糯米の匂いが漂っている。

「私さあ、実は餅つきって見たことないんだよね」と、サバエは珍しそうに周囲を見回した。美蘭は「ノロウイルスが危ないとかって、餅つきなんて減る一方だもんね」と醒めた事を言っている。

 でも確かに、餅つきは小学校の体験授業以来だな、などと思っていると、「サバエさん、亜蘭さん」という声がして、振り向くとジャージに割烹着姿の滅苦めっくが立っていた。

「うわあ、滅苦ちゃん、カッポー似合いまくり」

「恐縮です。そちらは、亜蘭さんのお姉さまですか?」

 訊かれて美蘭は、「いかにも。私がお姉さまだよ」とふんぞり返った。

「よく似てらっしゃるから、すぐに判りました」

「でしょでしょ?でもって、とっても綺麗でしょ?こっちが美蘭の彼氏、桜丸さんなの。今日は私たち、ダブルデートなんだよね」

 サバエの出まかせに、滅苦は「そうなんですか」と大きく頷く。その時、大きな歓声が上がったのでそちらを見ると、作務衣姿の黙如が諸肌脱いで餅をつこうとしていた。

「わーお、黙如さんマッチョでやばくね?見に行こう」と、サバエは僕の腕をぐいぐい引っ張る。美蘭はちらりと視線を投げて、「やだよねえ、ああいうの」と呟いた。

「見せたがり脱ぎたがりの、自分大好き坊主」

 そう言われても仕方ないほど、黙如の身体にはしっかりと筋肉がついていた。軽々と杵を振り下ろす彼の周囲にはおばさん、つまり中高年の女性や子供が群がり、「頑張って!」などと声援を送っている。そしてサバエまでが「黙如さーん!」とはしゃいでいて、何だか面白くない。

 美蘭は腕組みして「あの人、絶対ホストの経験あるよね」と毒を吐く。実際、黙如がつけば餅までありがたい、という感じで、おばさんたちは我先にと群がっていた。

「すごいね、黙如さん一瞬でお餅ついちゃった。亜蘭もやらせてもらったら?」

 戻ってきたサバエは息を弾ませてるけど、僕には考える以前の問題、無理。一方、調子に乗ってるらしい黙如は、早くも次の餅にかかっていて、周りからは相変わらず声援が飛んでいる。

 滅苦は呆気に取られている僕らに「見てるだけじゃなくて、中でお餅食べていって下さいね」と、やっぱり子供らしくない口調で勧めてくれた。


「お餅って、できたてはすっごい柔らかいんだね」

 サバエはどこまでも伸びるきなこ餅と格闘しながらそう言った。

「なんか私、売ってるのしか見たことないから、最初っから堅いと思ってた」

 僕はただ頷きながら、磯部巻きを頬張る。

「でもさあ」と続けたところで、彼女は突然むせて、黄色い煙幕を吐いた。ひとしきり咳き込んだ後でようやく一息つくと、きな粉まみれのセーターを見下ろし、「うぉ、やべえ」と、どこかへ走っていった。

 食べるかしゃべるか、どっちかにすればいいのに。

 無駄な正論を心の中で呟き、磯部巻きを食べ終えると、僕は少しぬるくなったお茶を飲む。傍に座っていた桜丸は「大丈夫かな」なんて言ってるけど、本当にやばいなら窒息して倒れてるはずだから、心配ないと思う。

 このあいだサバエが怪我した時に通してもらったこの座敷は、仕切りの襖を外して二間をぶち抜き、机を並べてある。そこで大人と子供、合わせて十五人ほどがのんびりと餅を食べ、隅に置かれたヒーターの前では、黒白猫のソモサンとセッパが寝そべっていた。

 そういえば、美蘭はどこに行ったんだろう。桜丸に聞いても、「なんか、つきたてのお餅が食べたいからって、外に残ってたけど」としか言わない。

 嫌いなはずの餅つき大会、実は楽しんでるのかな。そこまで考えて、ようやく気がつく。笹目だ。彼女は笹目ささめに会いに来たのだ。

 僕は目を閉じるとソモサンに接触した。

 ヒーターの前でだらけていても、熟睡していたわけじゃないソモサンは、ゆっくり起き上がって伸びをした。前足の爪から尻尾の先まで、念入りに伸ばして、ついでに口が裂けるほど大きなあくびをする。そして座敷を出ようと歩き始めると、傍で寝ていたセッパも後からついてくる。

 セッパは多分、ソモサンといれば怖い目にあう事はないと考えているのだ。一方、ソモサンはつきまとわれても全く平気。

 何となく、自分が小さかった頃を思い出してしまう。美蘭の後ろに隠れていれば、絶対に大丈夫。学校はもちろん、腹黒い後見人に会う時だって、母親の傍にいなければならない時だって、僕はとにかく美蘭の背後に身を潜めていた。

 やめよう、面倒くさいこと考えるのは。

 僕はソモサンに意識を集中し、「お餅つくの見に行こう!」と立ち上がった子供に続いて廊下に出た。そのまま本堂を抜けて外に出ると、裏の墓地に向かう。


 餅つき大会のざわめきは時おり風に乗って聞こえるぐらいで、冬の日差しの下に居並ぶ墓石は沈黙を守っていた。僕とソモサンはその一つを踏み台にして上がると塀を飛び越え、笹目の住む離れに近づいた。後にはもちろん、セッパがいる。

 離れの玄関は閉まっていたけれど、中には人の気配がする。ソモサンの耳を前に向けてぴんと立てると、美蘭と笹目の声が入ってくる。

「ほんとにお久しぶり。相変わらず、窮屈な場所が好きなのね」

「あんたの図体が大きすぎるんだよ。その辺のもの、落とさないように座っておくれよ」

「そんなこと言ったって、本当に狭いし」

「あんたも弟も、よくまあそれだけ育ったもんだ。火積ほづみはろくすっぽ餌もやらなかったのに」

「その名前は二度と言わないで」

 火積、というのは僕らの母親で、我が子を心の底から憎んでいた。今はたぶん、産んだことすら忘れてると思う。

「で?手土産なしかい?亜蘭が死にかけた時には口添えしてやったっていうのに、あんた恩知らずだねえ」

「悪いわね、急に来たもんだから。ねえ、蛇たちは冬眠してるの?」

「ここの床下にもいるし、よそに預けてるのもいるし。あんたの好きな白蛇は山形の温泉だ」

「なんだ残念。あの子も大きくなったでしょ?」

「そりゃもう、あんたらよりずっと立派だ。この秋に脱いだ皮、見るかい?」

 何か荷物を動かしたり、落としたりする音がして、かさかさという響きが聞こえる。

「すごいね。前に見た時の倍ぐらいありそう」

「だって色々おいしいもの食べさせてやったし、冬もとびきり暖かい場所に住ませてるし。人間の子供より手厚く世話してるんだからね」

「なるほど」と一息ついて、美蘭は「おいしいものって、子猫なんか食べさせたことある?」と訊ねた。

「言っとくけど、猫なんて安っぽいものをかまうのは亜蘭ぐらいなもんだよ。うちの蛇たちはもっとましなものを食べてる」

「あら失礼。実は、迷子の子猫を探してるの。銀色のとてもきれいな子なんだけど」

「そいつを見つけるのは亜蘭の仕事だろう」

「それがどうも、役に立たなくて」

「いつまでたっても頼りない弟だ」

 美蘭の奴、ミントを探すふりして僕の悪口を言いふらしてるだけか。その時、墓地に続く木戸の開く音がしたので振り向くと、スーパーのバスケットを提げた滅苦が現れた。

「お前たち、寒いのに外で何してるの?」

 声をかけられ、セッパは滅苦の足に身体をすり寄せる。僕とソモサンはとりあえずニャアと鳴いて成り行きを見守った。

 滅苦は「笹目さーん、お邪魔します」と声をかけ、ためらわずに玄関を開けて中に入ったので、僕たちも後に続いた。中には犬のブチが寝そべっていたけれど、ちらりとこっちを見ただけで、動きもしない。

 滅苦が座敷へ続く引き戸を開けると、こたつに入っていた笹目が首を伸ばしてこちらを見る。滅苦はバスケットからラップのかかった皿を取り出し、「お餅ついたんで、召し上がって下さい」と言った。

「何だか賑やかだと思ってたら、もう餅つきかい。一年なんてあっという間だね」

「僕には一年って、かなり長いですけど。あ、お姉さまもいらしてたんですか?」

 滅苦はようやく美蘭がいるのに気づいたらしい。

「すみません、笹目さんのお餅しか持ってきてなくて」

「いいわよ。あっちで食べるから」

「でもこれ、黙如さんがついたお餅だから、数量限定なんですよ」

「だったら尚のこと、遠慮しとく。笹目、イケメン坊主のついた餅で若返るといいわね。そろそろ喉につめるのが心配な年だけど」

 そう言って美蘭は小さなこたつから脱け出すと玄関に降り、寝そべっているブチを撫でてから外に出る。笹目は「相変わらず口の減らない小娘だね」と悪態をつきながらも、どこか嬉しそうで、やっぱり黙如がついた餅のおかげかもしれない。

 滅苦は「まだお汁粉とかもありますから、よかったら来て下さいね」と声をかけ、空のバスケットを提げて美蘭の後に続いた。ソモサンとセッパもそれを追いかける。

「何よあんた、上がっていかないの?」

「はい、笹目さんは一人が好きですから」

「あのババア、死ぬほど偏屈だもんね。よく判ってるじゃん」

 自分だって死ぬほど偏屈な美蘭はそう言って笑い、「あんた、このお寺の子なの?」とたずねた。

「いいえ。でも実家はお寺です。今ちょっと休業状態なんで、僕はここでお世話になって、都会派の寺院経営を勉強してるんです」

「黙如と一緒にいても寺院経営なんか身につかないでしょ?檀家のおばさん達には人気があるだろうけど」

「人気、ありますよね。黙如さんには華がありますから」

「何が華よ。チャラくて「こっち見て光線」出してるだけ。ただの目立ちたがりじゃない」

「お姉さまって、かなりシビアですね。やっぱり、ご自分の彼氏の方が素敵ですよね」

「そりゃそうじゃん」

 それを聞いて、僕は思わず「えっ!」と叫んでしまった。実際にはソモサンが「ミャッ!」と鳴いたんだけど、なんだこの素直な反応。

 美蘭は胡散臭そうに僕とソモサンを一瞥してから、「少なくとも黙如よりマシ」と言った。

「あの、今日はダブルデートなんですよね」

「見ればわかると思うけど、サバエちゃんと亜蘭はラブラブなのよ。亜蘭の一目惚れ。会った瞬間に運命の人だって判ったらしいわ。毎日毎日、朝から晩までノロケ話聞かされて、発狂しそうなぐらい」

 いくら嘘が得意だからって、言っていい事と悪い事がある。僕は怒りのあまりソモサンに命じて、ジーンズをはいた美蘭のふくらはぎに飛びつくと牙をたてた。

「ソモサン!何するんだ!」

 滅苦は大慌てだけれど、美蘭は平然と僕とソモサンの背中をつかんでひっぺがし、「何か悪い霊がついてるみたいよ。お祓いしてもらったら?」と地面に下ろす。その時いきなり誰かに肩をたたかれ、僕は慌ててソモサンとの接触を切った。


「私がいなくて寂しいから、ぼんやりしてたの?」とサバエの声がする。

「そういうわけじゃないし」

「いいよ、隠さなくても。ところでさ、大晦日は何してる?」

「何って、別に」

 正直に言ってから、しまった、と思う。

「じゃあ決まり。黙如さんがここで新年のカウントダウンパーティーやるらしいよ。鐘がないから除夜の鐘は無理だけど、自分の煩悩を紙に書いてきて皆で燃やすんだって」

「でもさ、大晦日って普通、家族で過ごすもんだろ?」

 何とか阻止しようと、常識的なこと言ってみたんだけど、サバエは「だってうち、年末年始は通常営業だもん」と言った。

「うちのお父さんの仕事、お正月とか関係ないんだよね。お母さんは休みだけど、ふだん働いてる分ゆっくりしたいって。特に今年は真柚まゆちゃんが国立受けるから、お正月どころじゃないもんね。休むの元旦だけだよ」

「お姉さん、どこ受けるの?」

 僕の質問に、サバエは質問で返してきた。

「どうして真柚ちゃんの進路なんか気になるの?」

「いや、そこまで勉強したら、どこに入れるのかと思って」

「どこだって入れるよ、真柚ちゃんだもん。亜蘭、もしかして真柚ちゃんと同じ大学受けようとか思ってる?」

「まさか、僕はもう推薦で行くとこ決まってるから」

「私もそう。明淑お遊び学院のエスカレーターに乗ってるもんね。うちら受験関係ないんだから、めいっぱいフリーじゃん。大晦日は煩悩燃やしに来ようよ、ね?」

 サバエはいきなり本題に戻った。

「いや、悪いけど煩悩とかそういうの興味ないんだ。黙如さんに会いたいなら、一人で来ればいいんじゃない?」

 僕がそう言ったら、サバエは目を大きく見開き、ちょうど座敷に入ってきた美蘭に「亜蘭ったら、黙如さんに嫉妬してるよ!」と訴えた。

「大晦日のカウントダウンに来ようって誘ったら、どうせ黙如さんに会いたいんだろうって」

 何故こうなるのか判らない、サバエの脳内変換能力。

 きなこ餅がてんこ盛りになった紙皿を持った美蘭は、軽く眉を上げると「ごめんね、劣等感が強いからすぐ嫉妬するの。おまけにひがみっぽいし。一から育て直してやって」と言った。

 

 

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