今の私とこれからのこと

色々と考えては見たが、今の私は3歳児。

出来ることは限られている。例え中身がアラサーだとしても、幼児の体では大したことは何も出来ない。

前世のことを思い出した時にやりたいと思った、元の世界のお菓子や料理を再現することも、御伽噺や童話を書いてこの世界で広めることも、今の私ではまだ役不足だ。

知識だけはあっても無駄にはならないからと、日々本を読み続ける私に家族の心配のほうが爆発してしまい最近では時間制限を設けられてしまった。

「そんなに急いで勉強しなくてもいいのよ」

「そうだよアーシャ。もっと好きなことをしてもいいんだよ」

そう両親に諭されるように言われてしまったが、したいことを私がするには知識も財力も何もかも足りない。

伯爵令嬢と言ったって、ベッドフォード家のお金は私のものではないのだから。

個人的にしたいことをしようと思うなら、それなりのものが必要になってくる。だが両親の言うことももっともで、まだ世間一般的には三歳児である幼児が経済学の本を読んでいたらそれは心配したくもなるだろう。

だから私は、私の心配をしてくれる両親にはじめてのおねだりをした。

絵を描く画材と紙が欲しい、と。

それに両親は大層喜んで、今までいかに私が心配をかけていたのかを知った。

ごめんなさい、子供らしくない子供で。

きっと同年代の子供であれば、あれこれとおもちゃや洋服などを強請るのだろうが、中身はアラサーの私はお金のありがたみがよ――くわかっているので、前世の私の給料がすぐに飛んでいくほどの高いドレスが欲しいなんて強請るのは無理だった。

だって、すぐに大きくなって着られなくなってしまうもの。

花の刺繍やふわふわとしたフリルも、繊細なレースやきれいな光沢のあるリボンも、すべて可愛らしくて大好きだけど、子供の成長期をなめてはいけない。

あっという間に着られなくなってしまったお気に入りのドレスを前に、泣きそうになったのは一度や二度ではないのだから。だからこそ私はドレスを新調するときは少し大きめに作ってもらうようにしている。

そんな貧乏性が抜け出せない私に根っからの貴族である母はそんなこと心配してなくていいと言うが、こればかりは治りそうもない。

だからそんな私からのおねだりに、両親はすぐに頷いて画材一式を揃えてくれた。私としては子供のお絵かきレベルのイメージだったのだが、用意された画材はとても子供が使うものではなくて本格的な油絵や水彩画の為の絵の具や筆が用意されているのには、流石にあきれてしまったが。

「とうさま」

「なんだいアーシャ?もしかして足りなかったかい?それならもっといいやつを……」

「ちがいます。ぎゃくです」

こんなに必要ないし、何なら鉛筆一本とスケッチブックでもよかったくらいだ。

だが父の嬉しそうな顔を見るとそれ以上言えず、結局部屋中にあふれそうになっている画材道具たちはまとめて空いていた部屋に押し込み、今ではそこが絵を描くための部屋になっている。

とはいっても、大半はスケッチブックと色鉛筆を抱えて外で描くことが多いのだけど。そうすると私が外に出ている!とこれまた家族含め屋敷の人が喜ぶから。

どんだけ引きこもりだと思われていたのだ、私は。

そうして初めて描いた絵は、私の家族の絵でそれを見た父や母が凄い凄いとまるで子供みたいに褒めてくれるものだから私のほうが少し恥ずかしかった。

それでも誰かに褒めてもらえるのは嬉しくて、いつかたくさんの人たちに見てもらえるような絵が描きたいと思うようになっていた。

だってこの世界には小説はあっても、差し絵のある童話などは少ないのだ。だからそれが広がればもっとたくさんの人が、絵本というものを通して私の見ていた景色などを知ってもらえることができると思ったから。

そうすればいつか私と同じ人に出会えるかもしれないし、そうでなくともそれを読んで楽しいと、面白いと言ってくれたら私がうれしい。やはり書くからには感想を聞きたいしね。

そんなことを想像して、くふくふと笑っていれば私が絵を描くのを見ていた母がどうしたの?と尋ねてくる。

「んん~~ないしょ!」

「あら、内緒なの?」

母様には教えてくれないの?という母には悪いが、まだ誰にも見せられる段階ではないので今は秘密だ。だけど、絵本が完成した時には母にも見てほしいと思う。

「できたらかあさまにおしえますね!」

「なら楽しみにしてるわ」

母様に一番に教えてね、と少女みたいな顔で微笑む母に頷きながら私はまた手を動かした。

スケッチブックには七人の小人の絵が描かれていた。


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